心と詩の巫女
一人になったモンドがサティルス村をあてもなく歩き回っていると、切り株に派手で露出が高い服を身にまとい、体のいたる箇所に色とりどりな幾何学的な模様が描かれた、ひときわ異彩を放っている、褐色肌の黒髪のエルフの少女が、空を見つめるように座っていた。
なんだあいつ……
モンドは、その少女の身なりや雰囲気から、こういった部族的な村にいる、シャーマンのような存在と推測し、そういった存在とかかわっても、ろくな目に遭わないと考えて、少女に気づかれないよう後ろを向き、別の場所を歩き回ろうとしたところ
「ねえ、あなた私を見て逃げようとしたでしょ? 」
鈴のような凛としていながら、可愛らしいすんだ声がモンドの耳に入る
モンドは、少女が座っていた切り株の方を見ると
黒髪の少女は、モンドをジッと見ていた。
「いや、考え事してるっぽいし邪魔しちゃ悪いかなって……」
モンドの顔に冷や汗がタラリと一本の線を描く
「べつに、考え事なんてしてないわ」
黒髪の少女は無表情にモンドを見つめる
「そ、そうか」
震える声をモンドはしぼりだす
「ねえ、となりに座ってお話しない? 」
黒髪の少女はモンドを誘う
「うん、まあ、いいけど」
拒否するのも変かなと思い、モンドは誘いに乗り、黒髪の少女と少し間を開け座る
「シェール」
黒髪の少女はポツンとつぶやく
「はい? 」
モンドが間抜けな声を出すと
「シェール・アルワーフ、私の名前」
黒髪の少女、シェールはそう言った
「シェールさん、初めましてモンド・ムッボシです……」
モンドが苦笑いしながら、挨拶と自己紹介をする
「シェールって呼んで」
シェールはその黒い瞳で、お願いするように、命令するように、見つめる
「あ、ああ、わかったよ、シェール」
シェールに押されるように、モンドは頷きながら、そう言う
「ねえ、モンドって呼んでいい? 」
シェールさっきと変わって今度は、願うように、寄り添うように、見つめる
「ああ、いいぞ」
シェールを抱きとめるように、モンドは頷く
「そう、ありがとう」
そう言った、シェールの口の端は、少しだが上がっていた
…………
……
沈黙の時が流れる
「ねえ、モンド」
シェールは沈黙を切り払うように、言葉を紡ぐ
「なんだい、シェール」
モンドは、そう返し、シェールの言葉に耳を傾ける
「私を見て逃げようとしたでしょ? 」
シェールはモンドに初めてかけた言葉と同じ言葉を投げかける
「うん、村にとってと特別な存在に見えたから、話しかけたら面倒なことになると思ってつい……」
モンドは、前のときと違い、正直に答える
「うん、私は特別、この村の巫女だから」
シェールは前までと変わらない無表情で頷き、淡々と話す
「巫女か……」
モンドは、シェールの異様な存在感が巫女という特別な立場からくるものだと思い、複雑な気持ちになる
「べつに巫女だから、こんなのじゃないよ」
シェールはモンドの心を見透かすように見つめながらそう言う
「……!?」
不思議な出来事にモンドは声も出せずに驚く
「ふふ、巫女はね、特別な女の子にしかなれないの、そして今モンドの心を読めたのは、私の特別な力の一つ『星心の耳』という星質のおかげよ」
シェールはそう言って、かすかに笑う
「そうなのか……驚いたぜ」
モンドは、心が読まれたのを気にもしない様子でそう言う
「やっぱり……モンドは心を読まれても気にしない……」
シェールは嬉しそうに顔を輝かせる
「そうか……俺は心を読まれても気にしないよ」
モンドはシェールに優しく笑いかける
「うん、ありがとう……」
シェールはその心が読めるという特異な力のため、イジメを受けたり差別されるということはなかったが、周囲の人々にとって自分の心が読めるということは気持ちのいいものではなく、シェール自身もそのことはわかっていたので自然と一人ぼっちになっていた、しかしモンドという自分の異能を受け入れてくれる存在が現れた、シェールは顔には出していないが、心の中では歓喜の踊りを踊っている。
「ねえ、モンドはとっても強いね」
シェールは無表情に静かに楽しそうにモンドに話しかける
「ああ、一応な」
モンドは、褒められる気恥ずかしさもあって、少しばかり目をそらしながら、そう言う
「ふふ、それにモンドは別の世界から来たんだね」
シェールは口元を手で覆い隠しながら、そう言う
「ああ、まあな、でも元いた世界の自分を見られるのは恥ずかしいな~」
そう言いながら、モンドは照れ隠しのように笑う
「大丈夫、前世のモンドはモンドじゃないから私の『星心の耳』じゃわからないから安心して」
シェールはモンドの目をジッと真っ直ぐに見つめる
「ああ、そうだな」
モンドはシェールの言葉と視線を信じる
「ねえ、モンドはどうして自分にそんな大きな力があると思う? 」
首をかしげながらシェールはモンドにそう聞く
「さあな、神様の気まぐれじゃあないの」
モンドは、うだつの上がらない自分にこんな素敵な第二の人生を与えてくれた神に少し感謝しつつそう答える
「ううん、きっと違う、きっと神様はモンドにならその力を正しい使い方をしてくれると信じたから、与えてくれた」
モンドの瞳をシェールはまっすぐ見据える
「そうかな? 」
モンドはそう言うと
「そうよ、だってモンドは優しい人だから」
シェールはそう返した
こうして、シェールと色々と話していくうちに、日は山の中に消え、モンドはシュヴに呼ばれたので
モンドとシェールは互いに惜しむように別れの挨拶を交わした。




