森人
モンドがイブの耳をいじくりまわしたあと、しばらくしてイブが修行を再開し始めたため、やることがなくなったモンドが旅車に戻ると、スレイがリビングでなにか飲んでいるところに遭遇した。
「よう、スレイなにを飲んでいるんだい? 」
モンドは、にこやかな顔でスレイに声をかけると
「あ、これは、外で見つけた野草を煎じたものです」
スレイはそう言うと、その飲み物をモンドに見せるように動かした。
「へぇ~、うまいのか? 」
モンドはそう言って、その野草を煎じた液体を見るため、首を亀のように伸ばす。
「ええ、なかなか、美味しいですよ、それに健康にもいいんです、ご主人様も一杯飲んでみますか? 」
スレイは笑顔でそう言う
「おっ、いいのか、じゃあ、もらちゃっおかな」
モンドはリビングの棚から自分用のコップを取り出す
「じゃあ、どうぞ」
スレイはポットを傾けモンドのコップに野草を煎じたものを注ぎ込む
「なあ、スレイこれは何ていう名前の飲み物なんだ? 」
モンドは、液体の香ばし香りに鼻腔をくすぐられながらそう聞くと
「これは、ボンテって言ってですね、エルフの代表的な好物の一つなんです」
スレイは、こころなしか嬉しそうな声でそう言う
「そうなんだ」
モンドはボンテを口に流し込む
モンドは飲む前は野草で煎じたものなので癖が強いものだと思っていたが、飲んでみるとあっさりしたものであり、これならどんな食べ物にも合うばかりでなく、単体でも飽きない味わいに
「うまいな……」
つい、つぶやくと
「そうでしょう! ボンテ美味しいでしょう! 」
スレイが大きく、嬉しそう声を上げる
「お、おう」
スレイのいつもと違う雰囲気にモンドはおされてしまう
「あ、す、すません」
スレイは自分が興奮していたことに気づき、申し訳なさそうに頭を下げる
「いや、そんなに好きなんだな、ボンテ」
モンドはそう言いながらスレイの髪を撫でなでる
「はい、大好きです……」
スレイは白い肌を赤く染めながらそう言う
「なあ、スレイ、よかったら俺にエルフのことを教えてくれないか? 」
ボンテを飲んでエルフに興味が出てきたモンドはスレイにそんな事を聞く
「は、はい! エルフは昔から森の中に住んでいて、森がとっても大好きなんです! 」
スレイはエルフのことを楽しそうに話す
「森が大好きって? 」
モンドは首をかしげながらそう聞く
「はい! 食べ物ももちろん、服も家もぜんぶ森のお恵みを分けてもらって生活しているんです」
スレイはそう言いながら胸に手を当てる
「へえ」
モンドはスレイにあいずちをうつ
「今日食べる分だけの食べ物をとったり、木で家を建てたり、動物の皮で服を作ったり、歌をうたったり、森を探検したり……いろんなことをしました」
スレイは昔のことを思い出しているような目でそんな事を言う
「楽しそうだな……」
モンドもエルフたちが森で楽しそうに生活している様子を想像し胸が暖かくなる
「でも……あいつらが来たせいで……みんな……! 」
スレイは急に人が変わったように鋭い目つきと怒気を含んだ声になる
「スレイ……どうしたんだ? 」
モンドはいきなり雰囲気の変わったスレイに心配するようにそう声をかける
「い、いえ! 何でもないんです! 」
スレイは慌てるように否定する
「ん……俺に教えてくれないかお前に何があったのか……」
モンドはなるべく優しくそういう言う
「うん……わかりました、私たちエルフは森で平和に暮らしていました、そう……あの日までは」
スレイは怒りを抑え込むように拳をぎゅうっと握り締める
「あの日? 」
モンドがそう尋ねると
「私たちの集落を壊滅させた『ヘウアイ商会』が来た日です……」
スレイは、ますます拳を強く握り締める
「『ヘウアイ商会』……違法行為を繰り返す犯罪者集団だと聞いたことがある」
モンドが眉をひそめながらそう言う
「みんな、あいつらに抵抗するため必死で戦った……でも……とても強い奴がいて私とイブ以外のみんな殺されてしまったの……あいつだけは! あいつだけは!!」
スレイは憎悪に満ちた顔になり、指が手の甲を貫かんばかりの力で握りこむ
「スレイ……」
スレイの石みたいに硬い手を、モンドは自分の手で優しく包み込む
「あ、ごめんなさい」
スレイはハッととした顔になり、手の力を緩める
「スレイ……そいつに復讐したいのか? 」
モンドがスレイの目を見つめながらそう言う
「……したい」
少しの間をおいて、スレイはモンドの目を見つめながらそう言う
「そう……か」
モンドは正直に言うとスレイの手は汚れてほしくはなかった、でもスレイの復讐したいという気持ちを否定することもできない
モンドはどう言えばいいか分からなかった
「変なこと言ってごめんなさい、幸い捕まったあと変なことはされなかったし、こうして今はご主人様たちと旅ができているんですし、もう昔のことは忘れて幸せに生きたほうがいいかしれないですよね」
スレイは悲しそうに笑う
「スレイ……俺はお前がどんな道を選んでも応援するつもりだ……」
モンドが真剣な顔と声でそう言うと
「そう言っていただけて、ありがとうございます」
スレイはペコリと頭を下げたあと、どこかへ消えていってしまった
モンドは自分なりに一番いい答えを言ったつもりだ、でも自信が持ちきれない
ぬるくなったボンテをすすりながら、モンドはそんなことを考えていた。




