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急がば回れ。だから回れってのに。

 アイズ医療系列隊の仕事場である浄気エリア内。


 その中の一室、どちらかと言えば集中治療室に近い扱いをされている部屋の中。


「ルー、僕が君に攻撃するのを阻止したいのなら今すぐアムリタよこして」

「…………」


 リョウ・ファーレンと名乗った少年に案内されたルーは、非常におかしな文句の追いはぎを体験していた。








 いったいどこから突っ込めばいいのやら。「よこせ」と差し出された手を眺めながら、ルーはじと、と半眼になった。


「……とりあえず、晶樹」

「何。僕は今、そこまで寛容な気分じゃないよ?」


 それはこっちもだ。という突っ込みは飲み込んで。


「お前、魔力回路やられたんだろ。その状態で俺に攻撃なんかしたら死ぬんじゃないか?」

「まあそうかもね」

「ついでに回路ぶちぎれた状態でアムリタなんか飲んだらやっぱり死ぬんじゃないか?」

「まあそうだね、回路が切れてればそうなるだろうね」

「…………」


 ルーは沈黙した。何だこの問答。


 ベッド一つしかない殺風景な部屋の中、ルーから追いはぎ(?)しようとしているのは二藍の髪に朱金の瞳の男性だった。高麗晶樹の外見である黒髪緋眼ではないし、顔立ちも声も違う。ただ、右目の下に走る一筋の傷だけが晶樹を彷彿とさせる。


 けれどこの男性は紛れもなく高麗晶樹だった。もっと正確に言うのなら高麗晶樹の転生する前、アニルで最初に生を受けたときの――前世の姿だ。魔法族は転生するたび新しい姿を持って生まれてくるのだが、それは単なる仮の姿で、記憶と力の覚醒と共に姿も元に戻る。もっとも、晶樹がそうしていたように今生の姿のままでいることも可能で、人間の間に入るには色彩が奇妙すぎるものたちは主に仮の姿、仮代(かりしろ)のままで過ごしているという裏事情があったりする。


 だから、この男性が晶樹であることはルーにとって疑いようもないことだったのだが。


 数秒の沈黙の後、ルーはおもむろに。


「お前、俺との契約内容を忘れたなんて言わないよな?」


 よもや衝撃で記憶の一部が飛んだとか。ありえないと思いながらも、一応聞くだけは聞いておく。晶樹は手を突き出したまま即答した。


「僕が狂って暴走したときは殺してもいいから止める。僕が自殺しようとしたときは殴って止める。――忘れるわけないだろ。だからこうやって脅迫してるんじゃないか」

「つまり、これは『殴ってほしい』っていう婉曲的な意思表示か? いつから宗旨替えした?」

「そんなわけないだろ、いいからアムリタよこして」

「『自殺しようとしたときは殴って止める』――だろ。俺にはお前が自殺しようとしているように見えるんだが」


 晶樹はふーっと大きく息を吐き出した。彼からすれば問答の時間が惜しい。口早に言葉を継いだ。


「確かに僕は魔力乱流の直撃を食らって体内の回路を寸断された。でも回路自体は大雑把にだけどもう修復済みだ。あとは、魔法を使うのに必要な魔力を取り込むだけなんだよ。そう何度も説明してるのに、医療系列隊の誰もアムリタを処方してくれないんだから君からもらうしかないだろ」


 客観的に見て医療系列隊が正しい。ルーでさえ一瞬でジャッジした。


 魔法族の体の中には魔力が流れている。その魔力の濃度は人それぞれなのだが、濃度が極端に違う魔法使い同士でもいくつか共通する性質がある。その中の一つが魔力回路。つまり、魔力は単に身体に詰まっているわけではなく、身体の中を血管のような一定の経路で循環しているという性質だ。

 体外にふわふわ漂っている魔力は吸気系回路によって体に取り込まれた後、体内の魔力回路を通じて移動する。生存に必要な魔力は回路を通じて体の各所に運ばれ、魔法を行使するのに必要な魔力は出力系回路を通じて体外に放出される。これは「魔法族」と分類される生物にはすべて共通する特徴であって、今のところ例外はない。


 しかし今回、魔力乱流に巻き込まれたものは、体内外の魔力が、まるで暴風雨にでも巻き込まれたようにしっちゃかめっちゃかにかき乱され、回路が千切られてしまった。晶樹もそうだ。千切れた回路に魔力を注ぐとどうなるか。


 魔力が体内を循環できず、外に漏れる、ならまだいい。

 本人の魔力供給が止まってぶっ倒れる、というのもまだ軽い方だ。


 最悪は――魔力暴発。つまり、爆発するのである。さながら冬場、凍った水道管が破裂するように。


 そうなったらもちろん本人は助からない。それどころか周囲の人まで巻き込んだ大惨事になるのだ。弾ける魔力が「人一人がため込んでいた魔力まるまる」である分、普通の攻撃魔法よりずっとたちが悪い。


 今回魔力乱流に巻き込まれた魔法使いの中、生死を分けた要因はただ一つ。回路が切断されたと感じた一瞬で体内にある生存に必要な魔力以外をすべて体外に放出できたか。それだけだ。


 晶樹や他の生き残った魔法使いたちはそれができて、亡くなった魔法使いたちはそれができなかった。

 乃亜が語ったことは少しだけ正しくて、大いに間違っている。彼らの生死を分けたのは、本当に、たったそれだけのことなのだ。


 そして。今晶樹がほしがっているアムリタは、わかりやすく言うなら魔力の塊だ。その辺をふよふよ漂っている魔力を特殊な製法で液状化したものだ。回路が切れているはずの魔法使いがそんなものを飲んだらどうなるか? ――もはや、説明するまでもないだろう。


 ――自殺しようとした時は殴って止める。だよな。


 説明責任は果たしたと手を突き出してせっつく雇い主を前に、やっぱり殴るか、とルーは面倒臭そうに考え、こぶしを握った。



2015/02/07 加筆修正。やはりwordで下書するほうがずっといいものができます。慣れたツールだからでしょうか。

2015/02/10 副題設定

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