人呼びだすんなら、もっとこう……
現状の確認から、より具体的な手を協議し始めた六人。その中で、しばらく口を開かなかったルーがふと首を回した。
しばらくじっと壁を見つめる。けれど薄氷の瞳に映っているのは壁ではない。何処を見ているともしれぬ視線は刹那、苛立たしげにすがめられる。
ルーは一度だけ協議を続ける稔たちに視線をやり――けれどやはり何も言わぬまま部屋から出て行った。
気配も音もない彼の離脱に、部屋の中にいた五人は気付かないままだった。
特に急ぐでもなく、けれど迷いのない足取りで廊下を進むルー。いつもならそれなりに多くの人影が行き交うはずの通路は、今はしんと静まり返っている。
無理もない――ルーはぼんやりそう思った。普段アイズにいるメンバーは、今は負傷者の治療に必死になっているか、救出にここを飛び出たか、アイズ全体により強力な結界を紡ぎなおしているか、あるいはより詳細な情報を得るために必死で寸断されたネットワークの再構築をしているか。いずれにせよ、のんきに通路を使っている余裕などないだろう。みな、本部の各地に設置された移動魔法陣を使用しているはず――。
(……あれ、そういえば結界、修復しているな)
ふとルーは立ち止まった。さっきまで気にもかけていなかったが、二度目の魔力乱流の際に破砕された本部結界がいつの間にか修復されている。
修復速度と、それを自分に悟らせないほど精緻な魔力操作。はて、と首をかしげる。これほど高度な技術を持つ結界魔法使いが今のアイズにいただろうか?
「ま、いっか」
首をかしげた次の瞬間にはそんな言葉が漏れる。基本的にルーはおもしろければなんでもいいという性格だ。優秀な結界魔法使いがいようがいまいが今はどうでもいい。
再びふらりと歩き出したルー。そのままてくてくと歩き続け、本部の中央部に差し掛かったあたりで彼はようやくお目当てを見つけた。
廊下の先、医療系列隊の本領である浄気エリアとのちょうど境目あたりにいる人影。ルーはそちらに向かって近づいていく。
自分をじっと見つめてくる碧眼を、胡乱げに見返して。
「お前か? 人の名前を大声で呼ばわってくれたのは?」
「……てことは、あなたがルーヴェスティア?」
こてんと首を傾けた人影はまだ十そこらに見える少年だった。見事な銀髪と碧眼に、その瞳の奥に内包された落ち着き。エルフ族か、と見当をつける。
「そもそも誰だお前は」
ルーの記憶にこんなエルフの姿はない。畢竟、このエルフはアイズの構成員ではないということだ。そもそも彼ら魔法族の生まれ故郷、アニルにしかいないはずの純血エルフがどうして地球にいるのだ。そんな思いを込めた平坦な声に、少年エルフは傾けていた首を九十度修正した。
「ああ、えっと。まずはごめん。――えっと、僕はリョウ・ファーレン。高麗晶樹の……友人、かな。アニルからこっちに遊びに来ていたんだけど、この事件で二つの世界が断絶しただろう? しょうがないからアイズの手伝いを申し出て、結界修復と、けが人の治療を担当していたんだが……」
この要点を押さえることが苦手そうなエルフの話をさえぎるかどうか、真剣に考えていたルーは、リョウの次の言葉にす、と目を細めた。
「晶樹が『ルーヴェスティアを呼べ』って言ってきて。僕はあなたのことを知らなかったから、あんなに強引な呼び出しになってしまった。申し訳ない」
(晶樹が、意識を取り戻したのか)
ならば行かなければいけないだろう。雇い主が生きているのなら、契約もまた有効なのだから。
2015/02/10 副題設定