これが、すべての始まり
…………ィ、ビィーッ、ビィーッ、ビィーッ……
耳障りな音が響く。顔をしかめて耳に手をやろうとして、腕が動かないことに気づいた。
(どうし、て)
目がかすむ。こめかみを何かが伝い落ちる。一瞬視界がクリアになって、そう離れていないところに誰かが倒れているのに気付いた。
(どう、したんだ)
唇は震えても声は出ない。そしてまた視界が濁る一瞬――倒れていた人影が、光の粒となって溶けた。
刹那、聴覚を声なき悲鳴が突き抜ける。
視界がぼやける。喉から熱いものがせりあがってきて、彼はそれを吐き出した。鮮やかな朱が視界を汚す――何度も、何度も。
(血は、魔力)
魔力を失うことは、死を示している。
力なくせき込む。血だまりに血ではない何かがぽたぽたと落ちた。また耳の奥をひっかいていくような音。幾度も幾度も、響く。
(……ああ、そうだ――)
血だまりに落ちるそれが涙だと――自分の両眼から落ちるものだと気づいたとき、同時に悟った。鳴り続ける警報のように、聞こえているわけではなく。
耳の奥に――心に直接聴こえる、これは。
(同胞の死を知らせる、衝撃……)
心をつないだ同胞たちの、断末魔の叫び。
涙が落ちる。血だまりと共に広がっていく。
とてつもなく重く感じられる体をかろうじて支えて。目の前に広がる情景に――とめどなく、涙が堕ちる。
〈どうし、て、こんなことに……!〉
緋い瞳から落ちた涙が、朱い池を広げていく。
晶樹の慟哭を聴くものは、そこには一人もいなかった。
* * *
西暦一九三三年、三月三日。
西大陸陣営が開発した新兵器、広域殲滅兵器「シュヴァルツヴァルツ」が東大陸の一都市に放たれる。都市は消滅。推定被害者数六十万人。
同日、東側陣営が開発した新兵器、広域殲滅兵器「レイヴン」が西大陸の一都市に着弾。都市半壊。推定被害者数三十二万人。
同日。
広域殲滅兵器爆発に伴って磁場破壊、魔力乱流が発生。体内の魔力回路断裂による魔法使いの犠牲者、多数。
現時点での推定被害者数、地球に存在する魔法使い約四十万人中――十万人。
2014/12/21 ラストを加筆。
2015/02/01 加筆修正
2015/02/10 副題設定