第八話 『クリスマス』
「また、この日を迎えられて光栄と感じます。主イエスは・・・・」
準備も終わり、今まで広かったレクリエーションルームに所狭しと人があふれている。私達
始め、ボランティアの人々や子供達の友人など様々だ。
「秋山さん、あの方は」
隣に居た、祐樹が訊ねてきた。
「園長先生の旦那さん、私達は牧師先生って呼んでる。ごめんなさい、つき合わせちゃって」
「いいえ、裕子さんの言うとおり、丁度、受験勉強の息抜きになってよかったですよ」
祐樹が居たためクリスマスの飾りつけはかなりはかどった。
「あと、プレゼントもう少し待ってもらえませんか。突然だったので用意してなくて」
「気にしないでください。気持ちの問題なので」
「けど、それじゃあ、私が・・・」
それを、魅力とも取れる笑顔で返した。
「解りました。秋山さんが思うがままに」
一瞬、心が動く。何かに惹きつけられるそんな錯覚に陥った。
「その代わり、無理は禁物ですよ。楽しみにしてます」
そして、祐樹は牧師先生の言葉に耳を傾ける。牧師先生の話はまだ続いている、子供達は
退屈そうにあくびをしており、園長先生はそれを見かねて視線を送っているが、気がつかない
のか、気がつかないふりをしているのか、演説に自己陶酔している状況だ。
「少々長いですね」
祐樹は苦笑いを見せ、自分も呆れ顔をした。
「では。今日の糧を主に感謝して」
十分間くらいの演説だと思う、子供達は私語を始めた。陸斗くんは桃香ちゃんにちょっかい
をかけている。
「グラスを手にとってください、それでは一年無事に迎えられたことを主に感謝して」
やっと終わりなのか、みんなやれやれという表情でグラスを手に取る。
「乾杯」
『かんぱいぃ』
牧師先生の乾杯の音頭から、みんな後に続きやっとクリスマスパーティが始まった。
そのまま牧師先生を目で追いかけると、園長先生に何か言われていた。多分、きつく諌めら
れているのだろう。
子供達は、チキンやボランティアさんの差し入れを皿によそって食べている。ボランティア
の奥様達も、和気藹々と談笑が進んでる様子であった。
「みんな、楽しそうですね」
「えぇ、もちろんです。神崎さんも遠慮なく楽しんでくださいね」
「はい、けど、僕はどうもこう言うところは慣れてなくて」
その言葉は意外には感じられなかった、『孤高』その言葉が似合うのかもしれない。
「マキちゃん楽しんでる」
裕子が、声を掛けてくる。
「えぇ、もちろんです。あれ、そう言えば武明さんは」
舞子さんは園長先生と談話を始めている。和馬はまだ仕事で来てない、気がつけば武明の姿
が見えなかった。
「ちょっと、頼み事をね、今その準備している」
何だろうと首を傾げた。そうすると隣に居た裕子の友達を紹介された。
「あ、この子は私の友達で。 仁美 こっちはマキちゃんね」
先ほど一緒にスウィーツを作っていた人である。セミロングの髪を後ろに縛っており
一見やさしそうな雰囲気を持っていた。
「秋山です」
「里崎です、よろしくね。へぇ、裕子が言う通りの子だね。」
「でしょ、レベル高いよね」
値踏みされてるようで複雑な気分になった。
「うん、言ってたとおりのスタイルだし、ちょっと胸が無いところも魅力的かも」
顔が真っ赤になって熱くなった。祐樹の手前である、恥かしくなるのは当然だ。
「ちょっと、裕子さん」
「ごめん、ごめん。で、頼みだけど、マキちゃんこの後付き合ってくれない」
「え、えっ」
「すぐ終わるから」
「あっ、はい」
条件反射なのかまったく考えずに返事をしてしまった。そして当然の如く
「神崎くん、ごめんね。後でマキちゃん借りるね」
祐樹にお伺いをたてる。
「えぇ、構いませんよ」
爽やかな笑顔で答えた。
裕子が何をしようとしているのか皆目見当がつかない、それと共に嫌な予感がする。
正解を言っておくと、嫌な予感は見事的中した。
「うぅん、胸元に何か欲しいよね。」
仁美さんが自分の姿を見ながら呟く。
「確かにね、あっ。そう言えばマキちゃん、プレゼント貰ったでしょ。あれつけてみれば
どう」
話は盛り上がっている、自分以外は。
「裕子さん、何で私がこんな格好を」
「大丈夫、すごく似合ってるから。羨ましいくらい」
今現在の格好は、黒いパーティドレスを着ている。胸元と背中が開いており慣れてない自分
にとってはかなり大胆な格好と言えた。
「でも、私はこんな格好したことなくて。それに、何で私だけ」
その訴えを裕子は否定した。
「マキちゃんだけじゃなく。武明さんも仮装している」
ますます謎が深まった『武明さんが』の疑問系と、一体何をさせるつもりだろうか。の不安
が入り混じっている。
「武明さんは、サンタの格好ね。この後、会場の子供達にお菓子を配るの。ばれないように
服の中にタオルを入れて太らせて口ひげとメイクで万全な状態でスタンバイしてる」
先ほど姿が見えなかった理由はわかった。
「じゃあ、私は一体」
「パーティに花を添えようと想ってね。けど本当にモデルみたい」
溜め息が出た。もしかしたら、前々から計画してたと考えられる。あまり居られない祐樹を
引き止めたのはこの格好を見せるのに誂え向きだったと推測できた。
「解りました。けど、すぐに着替えますからね。結構恥かしいんです」
「もちろん、それで良いから、ありがとねマキちゃん。あと、胸元が寂しいから彼から貰った
プレゼント着けてみて」
「えっ、でも」
その件に関しては気分が乗らない。
「早速着けたら、きっと彼も喜ぶよ」
悪気の無い無邪気な笑顔だ。この顔で返されると何も言えなくなる。
「はい、」
「じゃあ、次はメイクね」
まるで裕子の成すがままであった。
「サンタさんありがとぉ」
お菓子を貰った、桃香ちゃんは大きな動作で頭を下げお礼を言っている。
武明は一人一人配って頭を撫でていた。子供達は喜んでいたが、実穂ちゃん 大輔くん
海斗くんの三人は笑いをこらえていたのか口元が緩んでいた。
自分は、その風景を廊下から見ていた。一応まだお披露目をしていない、結婚式の新婦は
こんな感じなのかという冗談を思い浮かべながらも、引き受けた以上裕子の計画に身を任せる
しかないという半分諦め的な覚悟を決めているがそれでも気が進まない。
「裕子さん、やっぱ、やめにしませんか」
仮装大会みたいで変な感じがする。
「大丈夫だって。ほら」
と言うと。真希の手を引き会場へと入って行った。
「あっ、真希おねぇちゃん」
入った瞬間、美鈴ちゃんに見つかる。そして不思議なものを観察するように眼を右左と
動かした。
「真希おねぇちゃん、だよね」
意外な質問だった、反射的にその質問に答える。
「そうだよ、変だよね」
「ううん。凄くかわいいし、きれいぃ。いいな、美鈴もこんな格好してみたい」
子供にこう言われると少し嬉しかった。
美鈴ちゃんに気を取られていると、人が集まってきた。
「もしかして、真希ちゃん」
「高木、彼女って料理用意していた子だよな」
「真希おねぇちゃん綺麗だよ」
顔から火が出るほど恥かしくなった。不鮮明な裕子の意図である。
(そういえば、昔から裕子さんのペースに嵌っていたような・・・)
三人の中で主導権を握るのは裕子の役目であり。自分や和馬はそれについて行く役割で
それが自然の流れであった。
人がどんどん集まってきた、それと共に自分の顔の温度も上がってくる。
「秋山さん、綺麗ですよ」
「ありがと・・・」
これ以上の言葉は言えなかった、胸元には祐樹のプレゼントが光っている。
集まってきた人々は称賛の言葉ばかりであった、居ないと思っていた人を除いては
「まったく、姉貴は、真希ちゃんは着せ替え人形じゃ無いんだけどな」
和馬である。
「あっ、和馬さん」
今、鏡を見ればたぶん顔は真っ赤であり、それは熟れているトマトのレベルに達している
であろう。
「ごめんね、姉貴のわがままに付き合ってもらって、って・・・」
帰ってきて、シャワーだけ浴びたのかかすかに石鹸の香りがする。
「へぇ、変わるものだね、綺麗だよ」
「あ、あ、ありがとうござい・・・」
それ以上は、恥かしくて言葉を発することは不可能であった。けど、少し嬉しくも感じる。
理由は解っている、ただそれを言語にするのは憚られた。
さて、そこで思いもよらない問題が発生する事になる。その為私の物見小屋はそこで終了と
なった。
「おう、和馬。久しぶり」
サンタ姿の武明が声を掛けてきたのである、ここで会場が一瞬凍りついた。
「ばかっ・・・」
舞子さんの声が聞こえた、会場の大人たちも同じ想いであろう、子供達は沈黙していた。
「サンタさんは、和馬おにぃちゃんと友達なの」
その沈黙を桃香ちゃんが破った。張本人の武明は状況を察したのか狼狽している。子供達
にとってサンタクロースはあくまでサンタクロースなければならない。世の中のお父さん
お母さんの苦労もこの、のぞみ園も背負っていかなければならいのだ。
「・・・・・」
なんて答えれば最善なのか、言葉を選んでるようであった。下手をすれば子供の夢を壊し
かねない。試行錯誤している武明を見かねたのか、
「うん、そうだよ。お兄ちゃんはね、サンタさんと友達だよ」
狼狽してる武明より、和馬のほうが先に答えた。
「へぇ、和馬おにぃちゃんって、凄いんだ」
桃香ちゃんは、感心していた。
「うん、そう。もちろん桃香ちゃん達もサンタさんとは友達だけどね。でね、桃香ちゃん達が
いい子にしてるからプレゼント下さい手紙を自分が送っているんだよ」
「そっかぁ。じゃあ、桃香もおくるぅ。サンタさんにいっぱい書きたいことがあるんだぁ」
「了解、来年、サンタさんへの手紙一緒に書こうか」
と、軽く頭の上に手を置いた。
「美鈴も書くぅ」
「よし、来年は三人で書こう」
あの時、桃香ちゃんを宥めてくれた通り、一番子供達の扱いが上手いのは和馬かもしれない
美鈴ちゃんも桃香ちゃんと同様に喜んでいた。
「うん」
二人一緒に示し合わせたように声を発した。
その横ではサンタ姿の武明が手を合わせていた。何も言ってなかったが『和馬、悪い』と
言う意味合いを持たせていたと想われる。
「似合ってましたよ、すごく」
流石にあの後すぐに着替えた。祐樹が迎えてくれたが、正直、あの格好の後に顔を合わせる
のが恥かしい。
「いいえ、お見苦しい所を見せてしまって」
「そんなことは無いです、見てみてくださいあの人も」
と、言いながら目線で裕子の友人男性を指した。サークルの仲間と話しながらこっちを
ちらちらと見ている。
「あの方は、秋山さんを意識してますね、きっと」
「そんな・・・」
もちろん、当然の如く否定する。自分自身のレベルは解っている、そこまでの女では無い
事も。
「秋山さんは、自分自身の魅力に気がついてないだけですよ」
「それは違います」
その否定も軽くかわされ、そして、
「いいえ、ご謙遜を。僕が出会った人達のなかで秋山さんは一番魅力的ですよ。保障します」
太鼓判押された。
「そして・・・」
と言いながら、和馬に目線を送った。
「和馬さんでしたよね。あの方も、秋山さんと同じくらい魅力的な人ですね」
和馬は武明と立ち話をしている。
「えぇ、私もそう思います」
考えもせず同意した。和馬を初めてみる人どう思うだろうか、一見はどこにでも居そうな
作業着姿のお兄ちゃんと言われても仕方がない。お酒飲んで友達と馬鹿やってが似合いそうな
人である。
ただ、身近に居る私達や園長先生、牧師先生は和馬を頼りにする、そうすれば万事上手く
行くという安心感があるからだ。
「秋山さんも、和馬さんの魅力に魅せられた一人とか」
「・・・・・・」
今まで、それを考えようとしなかった。それは多分ではなく絶対にそうのレベルであろう
だからこそ考えたくはなかった。
「冗談ですよ。そんなに考えないで下さい」
自分にとっては冗談で済まされないから困る。
「ただ、難しいかもしれませんね」
「えっ、何がですか」
何が難しいのだろうか、その疑問を改めてぶつけようとした時、
「いいえ、気にしないで下さい。すみません」
と質問を遮られた。仕方が無く引っ込むとした。
それは、自分の内面を読まれている気分であった。自分の想いが叶わないという意味なの
だろうか、それとも別の何かが、なんでそんな事を突然に、と言うのと別に原因を知りたか
った、しかし、一度引っ込んだ以上質問をする機会が失われたのだった。
真希は、和馬の方を見た、武明との話はまだ続いている。もし、私がこの想いを伝えたら
どうなるのだろうか。上手く行けばいいのだが、それが駄目ならと思うと正直怖い。和馬は
私の前から消えてしまうそんな気がする。それならば、今の現状のままが一番良いからだ。
朝、車で送ってくれる時と、食堂での談話。それだけではなく七年前、和馬達がここに来て
から始まった思い出の全てが壊れてしまう、それだけは死んでも避けたかったのだ。
「秋山さん」
祐樹が心配そうに自分の顔を覗いてきた。それに気がつくと、真希は笑顔で返した。ただ、
それは誰にでも解る様な作り笑いであった。
言い訳になりますが、時間が来たら途中でも書くのを
やめてしまうために。ジョイント部分が重複した文章
になってしまいます。見たら一応直してますが多くて
凹み気味です(汗
それと、みなさまの所まわりましたが上手い表現が多く勉強にさせていただいてます枚数重ねるごとに自分もそうなるように努力してみるつもりです。始めての小説なので見苦しい点が多々あると想いますが頑張ろうとおもいますのでみなさま よろしくお願いします
PS・クリスマスネタは実際あったことを参考にしてます、仮装大会になりドンちゃん騒ぎが自分のクリスマスの思い出です(汗