表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/18

第五話 『ひととき』

 夜も更け、子供達も就寝時間となり部屋で休んでる。真希は厨房の後片付けと、明日の


準備をしていた。


 今日の祐樹の言動が気になって仕方が無い。傍から見たらあれが一般的であり、私が


擦れてはいないせいなのか。テレビドラマみたいな展開に夢現を見ていただけなのか。


 真希は、彼本人の事より、あの場面の事ばかりを考えてしまっていた。言いたい事だけ


言って去る彼に対して、私はどうしろと言うのだ。


 正直に言うと、自分は男性経験が無い。さめた環境で育ってきたせいなのだろう、終わりが


怖くなってしまい、恋愛と言う物に対して臆病になってしまった。いいや、もしかしたら、


それは言い訳なのかもしれない、その証拠に、自分はそれを治そうとはせず逃げている。


もちろん、男性恐怖症でもない。クラスの男子ともよく話すし、何かの弾みで触れられたと


しても平然としてられる。しかし、恋愛となると話は別だ、そこから逃げだしてる自分がいる


「はぁ」


 何度となく、ため息が出てしまっていた。


「お疲れ」


 声に振り向くと、手には缶コーヒー二つを持っている和馬が居た。黒い髪の毛が湿っており


見た目に重量感をもたらせている、多分、風呂上りであろう。


「後、残っているのは」


 と、言いながら、辺りを見渡している。


「あとは、明日のゴミの準備と。それと、ご飯の準備と、今やってるこれです」


 真希は、洗っている皿を持ち上げた。和馬は、持っていた缶コーヒーを冷蔵庫の中に入れる


「わかった、ゴミと飯の準備やっておくよ。確か、燃えるゴミだよね」


 厨房の壁に貼ってある、毎年役所から配られる、ゴミの日、予定カレンダーを見ており、


明日の予定がわかると早速取り掛かっている。


 ゴミをまとめると、半透明袋に入れ、口を縛り。誰にでも気がつきやすい所へ置いた。


それから、すぐに手を洗い、米びつから明日の朝食の分と弁当の分のお米を取り出し、ざるの


中に入れて米を研ぐ、傍目から見て手馴れたものであった。確か、自分らほどではないが、


一通り料理は出来るらしい。


 真希は、洗い物が終わり。台所の周辺の掃除と、先ほど使用していたキッチンの水洗いを


し終わった頃、和馬もご飯の支度が終わったらしい。


「終わったかな」


「はい、終わりました」


 そうすると、再び冷蔵庫から缶コーヒーを取り出した。多分外の自動販売機で買ったもの


だろう。ひとつ渡を渡されると、食堂のほうへと歩いて行くので自分はそれに自然とついて


行った。


「お疲れ様、今日は姉貴なんだっけ」


 椅子に座わり、プルタブを開け一口飲んでる。自分もそれに倣う。


「いただきます、確か家庭教師だったと思いますけど」


 缶コーヒーは冷たい物であったが、のどが渇いてたので潤すのに丁度良い。


「昨日は、結婚式で、今日は家庭教師か。相変わらずお忙しい人で」


 少々呆れ気味の表情をしている、自分はそれがなんだか可笑しかった。


「いえ、お互いさまなので、自分も試験のときはずっとやってもらってましたし」


「気にしないで良いよ、いつでも声掛けてくれたら手伝うから」


 裕子はよく声を掛けるらしいが、自分は一度も無かった。仕事で疲れているからという配慮


のつもりである。しかし、和馬の方が気がつけば殆ど手伝いに来てくれる。


「えぇ、大変な時は、よろしくお願いします」


「了解」


 和馬はテレビのスイッチをリモコンで入れた。あと一時間半後にスポーツニュースが始ま


る、毎日やるので欠かさずに見ているらしい。今は、その前の番組で、普通のニュースだ、


政治資金裏金問題をキャスターが語っている。


「あのぉ、ちょっと話し聞いてくれませんか」


 頭の中にうごめいている有耶無耶を自分はどうにかしたかったのかもしれない、ただ、和馬


にそれを相談していいのか迷った。しかし、言い出した以上話さなければならないだろう。


「どうかした」


 二の足を踏んだが、真希は、祐樹の事を話し始めた。告白されたこと。いまどきの男性は


そんなものなのかと。多分、この事は和馬以外の男性には話さないであろう、理由は不明だ。


 

 和馬は少し考えてから、首を少し傾げると、


「それは、自分ではなく、姉貴に相談したほうがいいんじゃないか」


 結論から入った。


「それはそうですけど、最近の男性ってあんな感じなのでしょうか」


「うぅん、まぁ、誰でもプロセスは組むけどね、普通は」


 そうに決まってる、何事も普通は段階というものがあるのだ。自分の考えが間違ってなく


ほっとした。


「その子は、よほどの自信家なのか、それとも知らないだけなのか」


 真希は祐樹の印象を思い出した。知らないという感じはしない。みゆきが言って通り、容姿


が良い、となると自信家なのかもしれない。


「気にすることは、ないんじゃない。向こうは真希ちゃんの意思に任せてあるんだから。嫌な 

 ら嫌ってはっきり言えばいい」


「そうですが」


「色恋沙汰は理屈じゃないからね。感じるがままで良いんじゃないかな」


 感じるがまま、自分はそれに引っかかった、彼の言動一つ一つにやきもきするのが恋愛


なのか。それとも・・・・・


「あの、和馬さん、ひとつ聞きたいことが・・・・」 


『タッ』


 その時、食堂の出入り口で物音がした、振り向くと、パジャマ姿の桃香ちゃんが立っていた


のである。



 「桃香ちゃん、どうしたの」


 自分は駆け寄り、桃香ちゃんに訊ねてみた、和馬も同様に駆け寄ってくる。桃香ちゃんは


その大きな目で自分らの顔を見合わせて。そして、押し殺すように泣くのを我慢してる。


「ごめんなさい、真希おねえちゃん。ねれないの」


 昔から、たびたびこう言う事があった。無理も無い、大好きな母親と離れているのだろう、


いつも元気で遊んでる姿の裏では、やはり我慢しているのだ。


「ごめんなさい、ママがいなくて。おねえちゃんたちに、迷惑かけちゃいけないと、わかって


 るの、けど、ごめんなさい」


 と言い終わると同時に、声を上げて泣き始めた。自分は、桃香ちゃんを抱きしめた。桃香


ちゃんは、自分の服をつかみ大声で泣いている。


 自分の時、彼女みたいに泣けたのだろうか。母親と父親の愛情の無さを涙で訴えてたの


だろうか。それは解らなかった、


「えぇぇっ っぐ、ううっ」


 胸の中で泣いている桃香ちゃんが正直羨ましく想えた。彼女も彼女なりに苦労している


それは解ってる、けど、素直に自我を表現できる事に、自分の持って無い物を感じた。


 和馬と一瞬目を合わせると、そのまま厨房の中へ消えて行った。まだ、桃香ちゃんは泣いて


いる、泣き止むまでしばらく時間がかかりそうだ。


 しばらくした後、桃香は落ち着きを取りもどし、真希は、桃香を食堂にあるソファーに座ら


せた。和馬が気になり厨房の方をみたが、何をやってるのかは解らない。


 それから少しした後に、コーヒーカップを持った和馬が出てきた。こちらに向かってきて、


桃香ちゃんの横に座りコーヒーカップを手渡す。気になり、中身を見るとホットミルクであっ


た。


「桃香ちゃん、温めに作ってあるけど、気をつけてね」


 和馬は促し、桃香はそれに従った。


「ちょっと、和馬さん」


 夜中、低年齢の子供に飲み物を飲ますことは、よほどの事が無い限り、夜尿を誘うので禁止


とされている。和馬もそれを知っているはずだ。


 和馬は人差し指を口に当て、片目をつぶり合図を送る。少し呆れた、しかし、その反面


和馬の判断は正しいと思った。


 桃香ちゃんの、ふう、ふうと息を吹きかけ冷ます姿に、愛らしさを感る。


 ゆっくり、ゆっくりと飲み続け、全部なくなると


「ごちそうさまぁ」


 万遍の笑みで、和馬にコーヒーカップを手渡した。


「はぃ、おそまつさま、桃香ちゃん。もう大丈夫かな」


 その質問に、桃香ちゃんは、曖昧な表現をしている。


「うぅんと、うん」


 名残惜しそうにしている。まだ、ここに居たいのだろう。和馬はそれを汲んだ。


「じゃあ、また、お話してあげようか」


「うん」


 先ほどと一緒、ヒマワリみたいな最高の笑顔になる、かなり嬉しそうだ。


「なんの話がいい」


「ううんとね」


 桃香ちゃんは少し考え


「ロッキー」


 大きな声でリクエストする。説明しておくが、もちろんロッキーと言う犬の創作物語じゃ


なく、映画ロッキーの事だ。和馬は少し困った顔をした。


「それは、もうパート4まで話しちゃったからな、今度続き見ておくね」


「えぇぇっ」


 少し残念そうな表情をした。


「その代わり、別のお話してあげる」


「うん」


 そうすると、すぐに回復し、何かなって何かなってって心躍らせてる様だ。真希は、和馬の


持っているコーヒーカップの事を気がついた。


「あ、それ、持って行っておきますね」


「ごめんね」


 和馬は、すまなそうな表情をしたので、笑顔で、いいえっと返した。


「じゃあ、お話始めようか、」


「うん」


 食堂から厨房へ行く途中、二人の話し声が聞こえた。


 そして、真希は、改めて確信する。


「時間を越える車の話でね・・・・ その車はデロリアンと言うんだけど・・・・」




 彼の言動一つ一つにやきもきするのが恋愛ではなく・・・・



 朝、車で学校に向かう、あの幸せな時が恋愛ではないのか、と。



                   




  さて、人生どんなに頑張ろうとも、どんなに克服しようとも出来ない事がある。自分に


とっては多分これにあたるだろう。


 真希は、DVDプレイヤーのリモコンとにらめっこしながら、戦っていた。


タイマーまでは出来なくてもせめて録画は出来るようになりたい。そう思いながら、リモコン


を弄っていたが、RECのボタンこれだけ押せばちゃんと撮れるのか、しかし、確かチャンネ


ルを合わせないといけない筈、それは、一体どこなんだろうか。このボタンか。しかし、変な


ボタンを押して壊しちゃったら、不安と使命感で真希はリモコンを持って固まってしまった。


額に冷や汗が出ている。


「ただいま、て、マキちゃん何やってるの」


 振り返ると、裕子が不思議な物を見る目でこっちを見ていた。


「裕子さん、助けてください」


 すがるような目で、裕子を見つめた。



  事情を説明すると、裕子は慣れた手付きでリモコンを操作した。


「はい、完了。しかし、和馬も抜けているというのかなんと言うのか」


「すみません、ありがとうございます」


 お話の途中、桃香ちゃんはソファーで寝てしまい。和馬は、桃香ちゃんを部屋に送ったあと


自分も寝るよと言いながら、抱きかかえて部屋に戻った。しばらくテレビを見て、自分も寝よ


うかと想った時、スポーツニュースの事に気がつく。


 思い出したとたん、和馬を起こそうかと悩んだが、寝てたら悪いと想い、録画をすることに


した。機械オンチを自覚している私であるが、録画くらい出来るだろうと高を括って、初挑戦


をしたが結果は惨敗、この様子である。


「マキちゃんが気にすることないって。もう始まっちゃってるけど、和馬が悪いんだから」

 

 よほど、可笑しかったのだろう、まだ笑ってる。


「着替えてくるね、もし良かったら。この後、話し付き合って」


「いいですよ」


 裕子は着替えに部屋に戻った。真希はリモコンを見てどこをどう操作したのだろうと


気になっていた、プレイヤーの方を見ると正常に作動している。機械オンチといえどもいずれ


は克服しなければならない、社会に出るとパソコンを覚えなければいけないからだ。


 自分は、あのタッチキーを見ただけで卒倒したくなる、パソコンの授業、隣でみゆきがブラ


インドタッチでキー操作する姿を見て憧れをもったほどである。


(なんで。ABCD順に並んでないのかしら・・・)


 クワーティ配列という、特殊なキー配列に悩まされる日々はそう遠くはないようだ。


「おまたせ、ごめんね」


「いいです、お風呂のほうは」


「うぅん、この後入るね」


 裕子は、大体は帰ってすぐに入るのが習慣である。自分に気を使ったのかもしれない。


「お茶とかいります」


「いいよ、自分はこれがあるから」


 言いながら、缶ビールを取り出した。そして、プルタブを開け、おいしそうに一気飲みを


する。裕子はかなりの酒飲みである、だが、泥酔状態までは行かない、ほろ酔い気分を


楽しんでるようだ。半分まで飲み終わると


「マキちゃん、お酒飲めるようになってよ、和馬は飲めなくてこっちはつまらないのだから」


 と、言ってきた。


「私もお酒は、ちょっと」


 興味本位で一度だけビールを一口飲んだことがあるが、苦くて駄目だった。


「大丈夫、教えてあげるから。二十歳になったら飲みに行こう、ねっ」


 身の回りで、飲める仲間が欲しいらしい。それだったら、お酒は覚えて良いかなと思ったが


飲める飲めないは別問題である。


「ところで、告白されたんだってぇ」


 お酒が、回ったのか顔がニヤついてる。


「はい」

 

 先ほど、DVDプレイヤーで泡食ってた時、この事をさわりだけは話しておいた。


「まぁ、そうよね、マキちゃんをクリスマスにほっとくなんて、そりゃぁおかしな話だ」


 そう言われると、みんなから、自分はどう見えるのか不安になってきた。


「いいえ、そんなことは」


 裕子は、お酒を楽しむように今度はちびちびと飲んでいる。


「ねぇ、どんな人なの、かっこいい、誰に似てるの。どこで出会ったの」


 今度は、矢継ぎ早に質問しだした。少々、相談したことを後悔する。


「そんな意識をした事は無いですが、かっこいい人だと友達は言います。出会ったのは、部活


 の先輩の紹介で、先輩のクラスメイトだそうです」


「ほうほう」


「どんな人かと言われると、不思議な雰囲気を持った人」


「不思議と言うと」


 裕子は、その唯一の曖昧な所を聞き返してきた。


「形容詞が見つからないんです。見た目がどう、性格がどうっと言うことではなく。感覚の


 問題だと思います。彼と話してると具体性のない何かを感じます。」


 ありのまま正直に答えた。しかし、裕子は。


「それは、背後霊じゃなく」


 と、茶化した。


「違いますよ」


「うぅん、それって、多分彼の魅力じゃないのかな。ほら、遠くにいれば靄がかかるそんな


 感じ」


 そうだろうか、と思った。


「私は、和馬と逆。まぁ、告白の仕方は問題だけど、解らなければ、付き合ってみるのも


 ひとつの手だと思う。もしかしたら、その何かが解って魅力になるかもしれないし」


「ですが、」


「聞いた話は、そんな悪い人ではないし。クリスマスの誘い受けちゃえばどう、今朝、牧師先


 生が言ってたんだし」


「やめてくださいよ、クリスマスは、ここのを参加します」


 ちょっと、悪い冗談である。しかし、お酒を飲んでるんだから仕方がないと思った。


 確かに、悪い人ではないのだが、


(なにを引っかかってるんだろうか・・・・)


 考えはほぼ九割は、決まっている。しかし、その一割が考えを混乱させる。ほとほと自分の


優柔不断さに嫌気が差す。


 裕子は、その真希を汲み取るようなことを言う。


「マキちゃん、若いうちにたくさん悩んでおいたほうがいいよ、大人になったらそんな暇は

 

 なくなっちゃうから」


 言葉に、哀愁が漂っている。


「裕子さん」


 裕子は、残りの缶ビールを飲み干し、そして、お酒の勢いに任せた。


「面白い話してあげようか、私の昔話だけど、聞く」


 正直、興味がある。いつも、よく三人でいた私達であるが、知らないことはたくさんある、


それを興味が無いと言えば嘘になるだろう。


「もちろんですけど、いいんですか」


 お酒の勢いで話す事だ、もしかしたら、知られたくないことなのかもしれない、一瞬躊躇


した。


「いいの、いいの、気にしない。その代わり、園長先生には内緒ね。」


「はい、それは約束します」


 内緒って一体どんな事なんだろと思ったが。初めの一言を聞いたとたんその理由が解った。


 裕子は、昔の事を一言、一言確認するように話し始める。


「私ね、一番初めの恋愛は不倫だったの」




ここからは マイペースで投稿します。ごめんなさい

 

もしよろしければ、ご指導 ご鞭撻をお願いします


あと、皆様の小説も見回ろうと思いますので、


その時は、よろしくお願いしますね。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ネット小説ランキング>サスペンス部門>「Memory`s」に投票

ネット小説の人気投票です。投票していただけると励みになります。(月1回)
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ