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第十四話 『既視感』

_________________________________________




                     4 




「和馬、何見てるの」


 深夜近く、食堂で一人椅子に座っている和馬を、裕子は声を掛けた。


 年末年始のドタバタも終わりかけの、一月の中旬過ぎ、ますます寒さもかなり厳しくなって


おり、外では雪が降ってもおかしくないほどの刺す様な冷え込みが、自分らを否応なく襲って


くる程である。冷え性の自分には、ますます厳しい時期だ。


「何って、これ。今日仕事の帰りショップを見たから貰っておいた」


 差し出されたのは、携帯電話のパンフレットであった。


「ちょっと、携帯変えるの早くない」 


 確か、自分より新しいはずであった。仕事でも使っているので電池の消耗が自分らよりも


早く、この前機種変更したばかりである。


「いいや、自分じゃないよ。まぁ、その、真希ちゃんにだ」


 和馬は、少々照れくさそうに言っていた。


「そっか、マキちゃんにか。一体どう言う心境でかな」


 解りきっている事を、本人に訊ねてみる。きっと、和馬なりの思いやりだろう、


「祐樹君だっけ彼氏出来ただろ、そんで。まぁ、今時の高校生は携帯電話は常識らしいからな


 それと、話し声が聞こえる園の電話じゃ流石に可哀相だろ」


 手に持っていた、パンフレットを開いてみる。色取り取りの携帯電話の写真に目を引いた。


今の新機種は、自分らが持っている物よりもさらに色んな機能が付いている。これを見ると、


自分もそろそろ変えようかなと考えてしまうから怖い。


「通話料とかは、どうするの」


 和馬は、テーブルの上においてある急須を手に取った。


「もちろん、自分が払うよ。まぁ、高校卒業までの一年位なら払ってあげても別に構わないし


 その代わりなるべく多くは使わないでと言ってはおくけど」


 急須にお茶葉を入れ、ポットからお湯を注いでいる。


「マキちゃんなら、きっと言わなくても、大丈夫だよ」


 彼女なら、言わなくても節度は絶対に守るだろう。下手すれば年上の自分なんかよりかは、


よっぽどしっかりした考えをもっている。


「だろうな」

 

 そう言うと、自分の前にお茶の淹れた湯飲みを差し出した。


「ありがと、それにしても。ちゃんとお兄ちゃんやっているんだね、感心したよ」


 和馬も、自分自身の分のお茶を淹れ軽く口をつけ一息入れる。


「お兄ちゃんって、姉貴も、ここのみんなのお姉ちゃんだろ、自分含めて」


 そんな事すっかり忘れてしまう時がある。子供たちと接している時はお姉ちゃんをちゃんと


やっているが、和馬やマキちゃんを接しているときは。お姉ちゃんというよりか同年代の友達


として接している事が多い。マキちゃんはともかく、和馬に対してお姉ちゃんらしいことを


一度はしたのかと聞かれれば首を傾げてしまうのが現実だ。もしかしたら、逆で和馬が兄なら


上手くいっていたのかもしれない。二ヶ月の差は大きなものではなく、自分にとってはほんの


一寸の差と言って良いだろう。


 自分も和馬に倣ってお茶を少し飲んだ。少し濃い、


「それに、彼女だけクリスマスプレゼント貰ってないからな」


 言われてみれば、そうである。自分でさえも和馬から貰ったのに、マキちゃんだけは何も


貰ってない。


「そう言えばそうだった。うぅんと、じゃあ。和馬が通話代出すという事で私が機種代出そう


 かそうすれば、OBからって言うことになるし」


 私や和馬と違って、彼女はここの対象者だ。もちろんプレゼントを貰う権利はある。


「いいよ、別に。それに姉貴も少ないバイト料から、少しずつ貯金してるんだろ。OB会費から


 という事にして自分が全部出すから」


「けど。」


 気持ちとして、いつもお世話になってる、マキちゃんに対して何かしてあげたかったが。


今回だけは、そうも行かない。和馬の提案は私自身にとって誂え向きなのだ。


 和馬は、柔和な目で気にするなと言うサインを送っている。


「解った。和馬、本当にごめん。今回だけは頼よるね」


「無論、謝るなって」


「その代わり、借りは、いつかまとめて返すから」


 何時までも、和馬とは対等の立場で居たい。これは私の願望なのだ、


「出生払いか。気長に待ってるよ」


 別に来なくても、構わんぞ、と言う様な期待してない返事をする。こんな態度を取られると


絶対に見返してやるぞと言う、無意味な反骨精神に火を点け燃え上がらせてしまうのが私の


悪い癖なんだろう。


 和馬は、別に無かったかの如く、濃いと思われるお茶を飲んでる。


「まぁ、これは。真希ちゃんに渡すと言う事で」


 と、一通り見終わり先ほど自分がテーブルの上に置いた、パンフレットを手に取り軽く持ち


上げ示した。きっと、彼女は喜ぶだろう。友人と話題を共有できる物が持てたのだから、嬉し


さも一入になると思う。


「喜ぶと思うよ。絶対に」


 ふと、気がついた事があった。目の前に居る和馬は、知ってるのか知らないのかは解らない


が彼女は機械オンチなのだ、きっと携帯電話のパンフレットだけ渡しても、狼狽するだけで


決められないのが目に浮かぶ。私も、一緒に選んであげたほうが良いのかも知れない。そう


考えると、自分の物ではないのに何故か心が弾んでしまう。


「それよりも。和馬、あんた何で成人式来なかったの」


 そう、落ち着いたら話そうと思っていたから今話す。自分は朝四時に起きて、美容院行って


園長先生がどこからか借りてきたと言う振袖を着て。冷え性なのに寒い中、歩きにくい姿で、


当時の友達と一緒に会場まで行ったのである。


 和馬は後からスーツ姿でてっきり来ると思っていたが、いくら待っていも来なく、当時の


クラスメイトからは、和馬は、和馬君は、と聞かれる始末であった。


「あ、悪い。朝食とって時間まで仮眠しようと思っていたら熟睡しちゃって。昼間、園長先生


 に会ったら驚かれたよ。何で居るのってね」


 まったく悪気が無いのか、思い出し笑いまでしている。


「じゃあ、二次会、参加すれば良かったじゃない。なんで私が帰ってきたとき居なかった


 のよ」


「いいや、それはな」


 和馬が言うには、あの後、自分が帰ってくるのを待っていたが。仕事場の人から麻雀のお誘


いがあったらしく、二つ返事で了承してしまったと言うのだ。


「まぁ、大人の付き合いって事で。ほら、成人式は本来そう言うものだろ」


 ため息を吐きたくなった。


「確かに、ある意味、同窓会になってるけどさぁ」


 日本式の振袖とスーツで和気藹々の式より、どこかの民族が行うバンジージャンプの方が


もっとも成人式らしいと、私も考えた事もある。


 だが、お互い疎遠になった、元、学友の成長を改めて確認し自分の成長の糧にすると言う


役目もあるのだ。しかし、現在ではそんな概念も薄れて来ていた。


 みんな当たり前のように大学に入り。当たり前のように企業に就職するのだろう。何も


考えずエスカレーターの上に乗っている人が殆どなのかもしれない。自分も含めて、


 その分、和馬はとっととやりたい事を見つけ、簡単に大学に入れる学力がある癖に、迷いも


無く就職してしまった事はある意味尊敬の意を贈る事が出来る。


 自分の夢である教職に付く事は、和馬みたく揺ぎ無い物なのかと言われれば疑問であった。


もし、目の前の素敵な男性が現れ、教職を諦めて家庭に入ってくれ、そうでなければ結婚は


破談だと言われればやはり迷ってしまうのだろう。即決に、結婚は諦めますとは言えない。


まぁ、有得ない例えではあるが。


「楽しかったか、その同窓会は」


 当時の事を思い出すが、首を傾げるものであった。何人かはもう子供が居てそれは流石に


驚いたがそれだけしか強い印象は無い。


「うぅん、それなりにね。そう言えば、みんな和馬はどんな感じになったとか良く聞かれて


 たかな」


 中学校の時、和馬の将来はどうなるのかとその話題が良く出た。和馬が中学生の時は、今


とはまったく違い、完成された人格を持ち合わせていた。何事も、落ち着いた態度をとり


毅然とした態度が印象的であった。そう、丁度、あの祐樹君と重なる。


 今では、根本的な部分は同じなのかもしれないけど、あの時とはまったく違う。野球好きの


気の良い兄ちゃんで、諧謔した態度をとり、人と上手く波長を合わすのが和馬の性格となって


いる。


 私がその事を、みんなに伝えると、殆どの人が驚いた顔をした。


「そう、そんなに変わったか」


「うん、近くに居る私は気がつきにくいけど、確かに変わった」


 出来れば、みんなに会わせたかったのが本音であったが、もうそれは、遠い日に行われる


同窓会へと持越しとなってしまったのが唯一の残念であろう。


「何やってるんですか」


 二人で、中学のクラスメイトを話題として話している時、マキちゃんが颯爽と現れた。何か


嬉しい事があったのだろう、印象的な笑顔でしていた。



 「マキちゃん丁度良かった、今、大丈夫かな」


 勿論、言いたい事は携帯電話の事だ。


「えっ。なに、なんです」


 怪訝な表情をした。それを尻目に和馬にアイコンタクトを送ると、テーブルの上に置いて


あったパンプレットを差し出した。


「これ、OB会から。プレゼント」


 まだその表情は続いていたが、パンフレットを手に取りページを開くと表情は一変する。


「えっ、良いのですか」


 マキちゃんくらいの歳で、普通の家庭だったらもう持っていてもおかしくない。夜みんなを


起こさないように小声で話しているのを見て、何度も不憫に感じた事があった。それがやっと


終わるのだろう、誰でも嬉しさは隠せないはずだ。


「もちろん、ほら、このピンクのやつとか良いんじゃない」


 今見ているページを覗き見て、マキちゃんに似合ってるんじゃないかと思う機種を指し示す


「ありがとうございます、嬉しい」


 素直に喜んでくれた。ここまで素直な表現が出来ると初めて知った。


「いえいえ、その代わり、ちょっと厳しい条件が」


 調子がいつもと違ったのか、和馬も少し戸惑ってる。そんなに携帯電話欲しかったのかな


思ってしまう程であった。


「えぇ、なんでも聞きます」


「一つは、通話料は出すけど。期限はマキちゃんが大学入学してバイト見つけるまで」


 それを聞き入れたのか、無言で頷いた。


「もう一つは、なるべく通話料は一万円前後で抑えてもらいたいかな」


 それもたぶん平気だろう、いくら高校生には必需品の携帯電話であってもそんなに使う事は


無い。せめてメールか短い話が関の山である。それに今では割引プランと言う物が各メーカー


やっており顧客を伸ばそうと頑張っている時だ。


 だが、予想と違い、マキちゃんの表情が曇った。そして、驚く様な言葉を発したのである。


「そうですか、祐樹さんと夜中ずっと繋がっていられると期待したのですが、残念です」


 その言葉に、自分もそうだし、和馬も驚きの表情を隠せなかった。


「まぁ、祐樹さんは優しいですから、向こうからきっと掛けてくれますし心配ないか」


 そして、勝手に自己完結してしまった。 


「ちょ、ちょっと。マキちゃん」


 もちろん、彼女は常識外れの事は言ってない。だが、何か変だ。


「何ですか、裕子さん」


 マキちゃんは自分の呼びかけに対して、不思議な表情をした。


 何か、言おうとしたが。その言葉が出ない。別に悪い事をしていない、ただいつもと違う


彼女に対して、何かあったのと聞きたいだけであった。しかし、どうしても二の足を踏んでし


まう、勘が自分を金縛り状態にしてしまっている。


「彼氏は、どんな感じの人。自分は、あまり話した事無くて」


 押し黙っていると、和馬が助けてくれた。


「和馬さん、知りたいですか」


 クリスマスの時、話したのはほんの数言だろう。自分もそうだが殆ど面識が無いと言っても


過言ではない。


「あくまでも、参考までにね。真希ちゃんを射止めた子はどんな人かなと思って」


 夢魔みたいな人を誘惑する感触を覚える。和馬は気がついてない様だが、女の私は直ぐに


解った。


「いい人、すごく良い人ですよ。いつも私の心を包んでくれる」


 その時、裕子はある事に気がついた。


 三人で話すのは久しぶりなのである。理由は、真希が正月後、珍しく母親の元に帰り冬休み


を向こうで迎えたのだ。


 その間に何かあったのかは、それは解らない。だが、何かがおかしい。今話している和馬も


きっと気がついているはずであろう。


 二人の話を聞いてると、突然、既視感デジャビュに襲われた。何かと、不鮮明な物では


なく、すぐに解る物である。現在、真希から感じるもの、これはクリスマスの時、祐樹から


感じた違和感と同じものであった。








 

手直しが多くて本当にすみません(泣


漢字にしなきゃいけない所がひらがなになっていたり


と色々多くて(汗 自分の未熟さを反省してます


話の内容は一切手を付けてませんのでどうかご容赦を


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