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第十二話 『デート』

  緊張の表れか、待ち合わせ時間より二十分早くついてしまった。


 駅を利用する人も、世間は正月休みに入っており家族連れも多々見られる。映画館はここか


ら電車を乗り、二駅先の繁華街まで行かなければならない。


 十分ほど、ぼんやりと通り過ぎる人や、景色を見ていると肩を軽く叩かれた。


「どうも、真希さん。待ちました」


 黒いジャケットを着た祐樹であった。黒を着こなすのは難しいと聞いたことはあるが、彼に


はその言葉は当てはまらないだろう、素人目であるがとてもよく似合っている。


「いいえ、全然。それに、まだ待ち合わせ時間前ですので」


 と時計のほうを向いた、指定した時間の十分前に二人とも集まってしまったのだ。それを


確認すると祐樹は肩をすくめる。


「では、参りましょうか。何か見たい映画でもあれば参考にしたいのですが」


 と、駅のほうに歩いていくので自分もそれについて歩いた。


 映画といっても、実は良く解らない。一応テレビとかで情報は見ているが、特別見たい物は


なかった。


「ホラー以外なら、なんでも」


 ホラーだけは苦手だ、それだけは勘弁してもらわなければならない。


「それでは、サスペンスは」


 からかった様に聞いてきた。言われて気がついたが、無論それも駄目だ。帰り夜道をどう


やって歩けばいいのか解らなくなってしまう。


「それもです、ごめんなさい」


 してやったりと思ったのか、祐樹は少しにやけていた。


 

 電車の中は、空いているとも、混んでいるとも言えない状態であった。丁度二人分空いてい


る席があったのでそこに座ることにする。


「着けてくれたんですか」


 すぐ横に座っている祐樹の息遣いを感じた。


「はい。どうでしょうか、似合ってます」


 祐樹の言ってる事は、たぶん胸元に光るネックレスの事であろう。行く時裕子に、『ほら、


貰ったもの着けなきゃ』と言われ着けて出た。それまで忘れていたのだから、目の前の祐樹に


対して失礼だったと言える。


「えぇ、とても。それを選んでよかったですよ」


 嬉しそうに答える。その表情に負い目を感じざるえない。


 確認するように、ネックレスを手に取り見た。自分には似つかわしいものだとどうしても


思ってしまう。


 もしかしたら、それを示しているのは首に下げている物の事ではなく、隣にいる祐樹の事


なのかもしれない。祐樹が贈った物を祐樹自身に喩えているとしたのなら、横に座っている


祐樹を再度見た。魅力的な人とみんな言う、けど自分はその魅力を感じることは出来ない、


多分、魅力ではなくあくまでも違和感としてなら納得できると思う。現在かなり近づいた状態


でもそれを拭い去ることは出来なかった。


「そろそろ、ですよ」


 車内アナウンスが目的地駅を読み上げる、祐樹に促され腰を上げた。



  映画は二人で迷った末に、巷に話題になっている映画を鑑賞することに決まった。


 有名監督が指揮した映画で、テレビでも話題となった映画である。面白かったがそんなに


頭の中に残る内容ではない、心躍ることなく虚無な二時間を過ごしたのだろう。


 映画館から出る時、恒例の感想を聞かれた。


「どうでした」


「面白かったですが、落ちがよめてしまって」


 物語のワンパターン化が多いので仕方がないのかもしれない。


「仕方がないですよ、後味悪くしては意味は成しませんし。」


「でも、あそこは、結ばれてハッピーエンドではなく。それぞれの道を歩んだ方が良かった


 と思います」


 素直な感想である。


「えぇ、それは僕も」


「すべて、ハッピーエンドがいいと言うわけではないので。あの後も二人のドラマは続くの


 かと。て、御免なさい、話し込んじゃって」


 映画に熱く語っている自分に対して急に恥ずかしくなった。


「そんな事ないですよ。それに、真希さんの素顔やっと見せてくれましたね」


 私の素顔って一体なんだろうか、ふと疑問に思う。


「いいえ、祐樹さんはどうでした」


「私も、あなたと同じ意見です」


 まるで、用意されていた答えを読むように言う。気にはなったが、それ以上言うのはやめて


おく。


 園には夕食は要らないと一応伝えておいた、予定では祐樹と一緒に食事までが、一応組まれ


ている。まだ解散するには早すぎる。


 しばらくどう提案するか迷っていると、


「店でも歩きません、服とかどうです」


 祐樹のほうから提案してきたので、それに乗ることにした。



 「真希さんは、料理は得意と聞いたことがあるのですが」


 結局、適当にショップを歩き回ったが二人ともめぼしい物は無く、さらに歩き回り行き着い


た先は噴水前広場だった。ベンチに座り、夕食をどうするかの話題にその話が出る。多分、


料理の事は陸上部の学校合宿で腕を振るった事を先輩が教えたのだろう。


「得意と言う訳ではないのですが、一通りは作れます。舞子さんに教えられましたので」


 祐樹と舞子はもう接触済みなので、解りやすく個人名を出して説明する。


「舞子さんの雰囲気では、何でも出来そうって感じがしますよね」 


「えぇ。料理の他に勉強も教えてもらってました」


 小学生の時は舞子が勉強の面倒を見てくれていた。方針は無論、スパルタであったが今で


はそれを感謝している。少なくても勉強に対しては態勢が出来ており、例えどんなに身に入ら


ず苦痛と感じていても嫌と思うことはなかった、それは、舞子が親身になり本質を教えてくれ


た賜物だろう。


「そうですか、なかなか厳しかったのでは」


 その通りなので頷いておいた。


「ただ、それも愛情だとみんな解ってやってましたよ」


 今は、自分や和馬、裕子が子供たちの勉強を見ている。やって始めてわかったが人に理解


させるように教えるのはかなり難しい。それプラス、勉強を好きにさせるのはもっと難しい事


なのだ。


 冬場なのでかなり冷え込んできた。服の中に冷気が入らないように襟を締める。


「クリスマスの時に聞いたのですが、裕子さんは教育学部ですってね」


「はい、将来教師になる為に頑張っていると」


「生徒に好かれそうな先生になりそうですね」


 想像は容易に出来た。


「もちろん、今でも園のみんなに好かれてますよ」


 小学校、中学校、高校のどの先生になるかはわからないがきっといい先生になるのだろう。


間違った道ではなく、きっと、しっかりと生徒にあった指導をしてくれる。


「ですが、裕子さんには悪いですけど。一番教師として似合っているのは。和馬さんだと」


「私も、そう思います」


 もし、和馬が先生になったら美術教師になるのだろうか。いいや、案外、体育教師も似合っ


ているのかもしれない。ただ、理数系は考えられない、それには理由があった。


「そんなことより、祐樹さんは。将来はなにを」


 今日は、和馬の話は出来るだけ勘弁してもらいたい気分である。


「僕は、父の設計事務所を継ごうかと。真希さんの方は、将来」


「私は、保育士養成課程を取って、保育士や幼稚園教諭を目指すつもりです」


「そうですか、応援します頑張ってくださいね」


 ありがとうございます。と礼を言った。


 ふと、既視感デジャビュに襲われる。怪訝に思うが、気のせいだろうと自己完結した。


「ご飯、どこにしましょうか」


 夕食を食べたら、このデートのシナリオは終わりだ。遅くなっては、園長先生や園のみんな


に迷惑がかかってしまう。

  

「中華にしましょうか。大衆向けですが美味しい店知ってますので」


 園の献立にも中華の選択はあまりなく珍しいのだが、自分自身どうにでもいい気分だった


のでそれに頷く。



  食事が終わり、夜もだいぶ更けてきた。


 「今日は、色々ありがとうございました」


「こちらこそ。楽しかったですよ」


 このデートもそろそろ終わりである。特別何も起こらなかったが、自分でも結構楽しんだと


思う。


「センター試験は一月の」


「17日、18日になります」


 祐樹は、後二週間ちょっとで本番を迎えるのだ。自分も来年の今頃は遊んでられない状態に


なるのだろう。


「頑張ってくださいね。私も来年なので、お互いに。」


「ありがとうございます。そうですね、もしよかったら、来年の受験の手伝い立候補しま


 すが」


 祐樹なら、上手く教えてくれるのかもしれない。しかし、勉強に苦労していない人に御教授


願うことは、逆に苦労しそうな気がする。


「祐樹さんは頭が良すぎて、私では理解できるのかどうか」


 和馬と裕子の勉強で立証済みだ。裕子と和馬が一緒に勉強すると必ずと言って良いほど裕子


が根をあげてしまう、なぜかと言うと、裕子曰くぶっ飛んだ教え方らしい。


 AからB、Cと順序良く行くわけではなく、AからCに飛んでしまう。いわば天才型と言っ


て良いのだろう。祐樹と和馬タイプ的に似ておりきっと苦労する。私は裕子さんと同じタイプ


であるが理由だ。


「それは。きっと、大丈夫です」


 その大丈夫です、の根拠がない自信について知りたかった。


 駅前の噴水は、周囲の温度を更に下げる。祐樹は心配そうにこっちを見ていた。


「寒くないですか」


「ごめんなさい、少し」


「では、少し歩きましょう。まだまだ時間はありますので」

 

 自分は了承サインの代わりに腰を上げ、祐樹にエスコートされるように歩き始めた。


 不思議な事に、彼と自然と腕を組んで歩いていた。もし、言い訳を許してもらえるなら、


自然の流れでそうなってしまったのだ。それでも、その流れに逆らう事は一切しない。


 冬場の漆黒に輝くネオン、それに目を奪われていた。


「・・・・・」


 祐樹は一言も喋らなかった。


 自分にとっては、そっちの方が良い。この雰囲気のままネオンを眺めて歩くのがデートらし


いのだ、それを望むという事は幸せなのだろうか。


 私は、和馬の代わりとして祐樹を見ていた事は否定できない。自惚れではないが、もし、


このまま付き合うとなってもそれを拭い去ることは容易に出来ないだろう。もし、この横に


いる彼が私を欲するなら、どうしても時間が欲しかった。和馬を忘れるための時間、そして、


祐樹を理解するための時間を。違和感を魅力に変えるその時までに、


 どうしても今日伝えなければならない、時間がかかるのだ。だが、そこまで待ってもらう


義理は無い。きっと彼はその間に何度も恋愛をするだろう、私が、足枷になるわけにはいかな


かった。


 しばらく歩き回っただろう、先ほどいた駅前の噴水広場に着いた。


「それでは、少し早いですが。今日はありがとうございました」


 公園に設置してある時計を見たら、まだ晩いという時間ではないがそろそろ解散しても良い


頃合になっていた。


「いいえ、こちらこそ。楽しかったです。あのぉ、祐樹さん」


 あの事を今話そうかと少しは迷っていたが、勢いに任せた。


「どうかしました」


「あの、あの時言っていた、付き合ってくれませんかの答えを少し待って欲しいのですけど」


 祐樹は怪訝な表情をしている。そして、ため息を一つ吐いた。自分は早まった事を言った


のかと思った。


「解ってます、受験前のこんな時に言うべき事ではないことを、けど、私のほうが整理つかな


 くて、ごめんなさい」


 だが、祐樹は自分にとっては意外なことを訊ねてきた。


「謝らないで下さい。けど、そんなに苦しめてましたか」


 いいや、違う苦しめているのは自分の方だ。その意思を伝えるために軽く首を振う。


「いいえ、そんな」


「初めからではありませんがクリスマスの時には、既に解ってましたよ。真希さんは他に


 好きな人が居て、それが和馬さんである事も」


「えっ。では、知っていて、なぜ今日誘ってくれたのですか」


 その様に言われても驚きはしない。何故なら、おかしくはなかったのだ。彼はクリスマスに


その様な発言をしていた。


 だが、それが明かになれば一つの疑問が生まれる。なぜ、ほかの人に靡いているのに、


デートに誘ったのかである。つけ入るほどの隙が自分にはあったのか。


「なぜと言われましても説明に難儀しますが。とりあえず、受験前の息抜きと真希さんが


 落ち込んでいた為に元気つけるじゃ駄目ですか」


「お願いします。出来れば、祐樹さんの考え方を知りたいので」


 はぐらかしているのが安易に解った。一度は交際を申し込んだのである、友達関係として


誘ったとは考え難い。機知に優れている祐樹の事だ何か考えがあると思って良いだろう。


自分はそれをどうしても知りたかった。そこに祐樹が持つ違和感の正体が、隠されている気が


するからである。


 祐樹は、一回口を結び、観念するように。


「奇妙に感じるかもしれません。それでも、よければ」


「えぇ。構いません、教えてください」


 人の考えは、そう他人には解りづらい事だ、自分はそれを心得ている。確認すると祐樹は


言葉を選ぶように理由を語りだした。


「僕は確かクリスマスの時、一目見て難しいと感じました」


『ただ、難しいかもしれませんね』、クリスマスの時に聞いた、あの時の言葉が蘇える。


「それでは祐樹さんは、和馬さんの気持ちを知っていて」


 裕子に魅かれている事を知っていたのだろうか、それを説明すると驚いた表情をした。


「そうだったのですか、いいえ、それは実際には解りませんでした。真希さんはすぐに解り


 ましたけど」


 ますます、疑問が深まった。それを後目に話を続ける。


「その事を置いても、根拠はあります。真希さんと、和馬さん、似ているんですよ表面上な


 部分が、だから引き合わないのです。丁度、S極とS極が引き合わないと思ってください。


 そう至ったのには、訳があります。」


 意味が解らないので、順を追って説明して欲しいと願った。


「そんな、漠然な事を言われても」


 祐樹の言葉に、自分の理解力が追いつかない。


「では、こう言った方が解りやすいですか、人は理性と本能で生きる人が居ます。ですが、


 ほとんどの人は本能で生きます。理性で生きる人はほんの一握りの稀有な事なのでしょう」


 逆に、さらに難しくなった気がする。


「例えば、大多数の人がダイエットに失敗する事もそうです。食すると言う本能に負けて


 しまうのが殆どでしょう。管理下におかなければ大体の人がそうと言っても過言では


 ありません。」


 確かに、部活をはじめたとか。きついバイトを始めたとかそういう人以外は殆ど失敗して


いる。だが、今話しているのはダイエットの話ではない。祐樹はそれを汲み取ったのか、


「本能が、食べたいと。理性が、痩せたいと。置き換えてください」


 すぐに付け加えた。解説があって、初めて理解できる。


「はい、なんとなくは」


「では、話を戻しましょう。本能と理性の二つがありますが。その組み分けは複雑で、尚且つ


自覚では判断し難いのです。現実問題、自分は理性で生きていると豪語する人も居ますが、


それは違います。殆どの人が無意識に自分を偽っているのでしょう。他人にそう見せ、そし


て、挙句の果てには自分自身も偽る」


 言ってる事の内容は理解できたが、しかし、疑問は深まるばかりである。もしかしたら、


祐樹の話し方は先に問題を何個もぶつけ、最後に答えを言うタイプなのかもしれない。


「それは一体。和馬さんは、私は。祐樹さんは。他のみんなはどう区分けされるのですか」


 なるべく自分のペースに持っていくように、質問をしていく。じゃないと、すぐに自分じゃ


理解できない領域へと持っていかれそうであった。そうなれば、多分、何でも鵜呑みにして


しまうのだろう。それだけは、どうしても避けなければならない。


「結論を先に言わせて貰いますと、真希さんは・・・」


 先ほどの事を踏まえると、次に言われる言葉はすぐに解った。それは、祐樹に言われなく


ても無意識に感じてた事である。


「自分自身を偽って生きていると、僕は思います」


 

次回に続きますので、もしかしたら 大まかな修正は


するかもしれません。 ただし話しの内容は変わりません


のでご了承を。本当に我侭ばかりで御免なさい。

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