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第九話 『宴の後』

 「それでは、僕はこれで」


 結局、祐樹は最後の方まで残ってしまった。会場に居た子供達の友人も全員帰ってしまって


いる。玄関から外を見てみると、一目で冷え込んでるのが解った。

 

「ごめんなさい、最後までつき合わせちゃって」


 あれから、祐樹は大人達に捕まり、結局遅い時間まで居ることになってしまった。


「僕も楽しかったし、気にすることは無いですよ」


 要領がいいのか、機知に恵まれているのか、初めての大人達とも会話が弾みその結果抜け


出せられなくなってしまったらしい。裕子さん曰く知識が豊富で聞き上手だと言う。


「けど」

 

 その戸惑いをやさしく諭す。


「秋山さん、さっきから謝ってばかりですね」


 言われてみればその通りである。何かあると『ごめんなさい』とか『すみません』この言葉


を使ってしまう。


「そうでしょうか」


「えぇ。もう少し気を楽にしてみればどうですか、せめて信頼できる人の前でも」


 理由は解っている、子供の頃からの悪い癖だ。両親に辛くあたられた時、自分が謝る事で


その事から逃げていた、そうすれば最小限度の被害で事が済む。狡猾な処世術とは思っては


いない、あの時両親に刷り込まれたとして考えた方が良いだろう。


「はい・・・・」


 最小限の返事しか出来なかった。


「ごめん。真希ちゃん、ちょっといいかな。すぐ終わるから」


 押し黙っていると、突然、裕子が呼んでる声が聞こえた。


「すみません、ちょっと。」


 真希は断りを入れると、祐樹は快く了承してくれた。


 話の内容は、子供達のプレゼントの置き場であった。どこに隠したのかとちゃんと用意され


ているのかの二つである。それを伝えると『邪魔者は消えますよ』と言った感じで去っていく


「ごめんなさい」


 そう伝えながら祐樹のほうを向くと、彼は壁のほうにずっと向かっていた。その視線の先


は解っている和馬の絵だ。


「不思議な絵ですね」


 祐樹は返事代わりにこう答えた。


「えぇ、和馬さんが描いた絵なのですよ」


 少なからず、この絵を初めて見た人は見入ってしまう。


「そうですか、流石と言うべきですね。和馬さんの持っている資質が絵に宿ったと言った感じ


 ですか」


 上手い例えだ、本人同様触れれば触れるほど引き込まれてしまう物をこの絵から感じる。


「神崎さん、この絵にはちょっとした仕掛けがあるんですよ」


 教えてあげようとした、この絵を褒められることは正直私にとっても嬉しいからだ。自分


だけが知っている良い物を他人の人が共感するその嬉しさに良く似ていた。


「解ってますよ、この霧が人の形を成している事ですね」


 祐樹は笑顔で答えた。


「正解です。すぐに解りましたか」


「はい、この絵の本質はそこにあるかと」


 確かにその通りだ。それが無ければただの上手な風景画になってしまう。もちろんレベルが


高いことは確かだが見入ってしまうほどまではいかない。


「・・・・・・」


「えっ・・・・」


 思いもよらない言葉で驚いた、突拍子もない内容である。


「いえ、何でもありません」


 先ほどと同様にはぐらかされてしまう。だが自分はこれ以上何も言えなかった、彼には


言葉どおり従順させる何かがあったからだ。


「では、そろそろ行きますね、今日はありがとうございました。皆様にもよろしくとお伝え


 下さい」


 今日は、祐樹が来てくれてよかったのかも知れない、真希はふとそう思った。


「はい、お気をつけて」


「あ、あと。絵の事を話す時は少し饒舌になっていましたよ、すごく楽しそうにね」


 もう確実に見透かされているのだろう。


「では、また学校で、良いクリスマスを」


「あっ。はい。良いクリスマスを」


 祐樹は、去って行った。彼から贈ってもらったプレゼントは今自室の机の上に置いてある、


友人から貰ったプレゼントとして身に着けるのだろうか、それとも、このまま一生着けない


で大切に持っているのか。


『では、付き合ってくれませんか』


 その言葉は今自分の中で風化されようとしている、それが自分の本心なのだから。


 それより気になることがあった。絵の会話の時彼が言った言葉


『神・・・・』


 小さい声なので聞き間違えかも知れなかったが妙に気になってしまう。あの絵の人物が神


と言ったのか、それとも考えもせずに口に出した事なのか、普通の人ならば妄言に聞こえる


ものが引っかかってしまっている。


(気にすることはないよね)


 そう強く念じ忘れようとした。


 それとは別に今日はっきりと解った事が一つあった、祐樹は自分とは住む世界が違うと言う


事である、先輩に紹介された時感じた違和感は確信へと変化したのだった。


 

 


 「サンタクロース。お疲れ様」


 深夜、食堂。寝静まっている子供達へとプレゼントを配り終えた和馬を裕子が出迎えた、


手には空らしい紙袋を持ってる。


「今、何時」


 裕子は壁に掛かっている時計を見た。


「一時半かな、明日起きるの大変そう」


 パーティーの後、その後片づけが夜遅くまで掛かってしまったのだ。


「明日起きれるのか」


 和馬はお休みなので起きるのはいつも通り早くなくていいが、自分はいつも通り五時には


起きなくてはならない。


「まぁ、大丈夫でしょ。布団から起き上がっちゃえばこっちのものだから」


 レポートとかで徹夜は何度もあった、そのときもちゃんと起きてみんなの朝食の準備をこな


したつもりである。


「無理そうなら自分が叩き起こそうとしたけど、無用って事だな」


「和馬、あんたも低血圧でしょ」


 苗字も違う、血もつながってない、自分を入れてたった二人の兄弟で唯一似ている部分は


低血圧という所だけだろう、それ以外ははっきりとした部分は見つからない。


「こっちは、目覚ましで一発で起きれますが」


「立って寝れるほど、器用な真似はできません」


 今まで生きてきた中で立って寝れるほどの芸当を出来るのは和馬以外見たこと無い。


「そんな話よりも・・・・」


 だが、自分が話したいことはそんな事ではなかった。


「祐樹くん、私も流石に驚いたまさか来るとは。和馬も確か相談を受けたんでしょ」


「受けた、思ってたよりレベルが高い子だったけど」


「確かに、ポイント高いよね。やっぱ、マキちゃんレベルになるとあんな子が付くのかな、

 

 少し羨ましい」


 和馬はその冗談を軽く微笑した。


「真希ちゃんは、姉貴と違っていい子だからな。見る目があったって事だろ」


「ちょっと、和馬」


 和馬は肩をすくめた。冗談だろうがそうには聞こえない。


「ただ、まだまだ時間が掛かると思う」


「それは、私も思った。マキちゃんなんだかシールド張ってる気がする」


「浮いた話は今まで無かったんだっけ。なら仕方が無いと言うべきなのか」


 確かに、これほどまで浮いた話は初めてだ。もしかしたら、男性と付き合うのは初めてなの


かもしれない。


「じっくりと言うことね」


「彼も解ってるだろ、だから自分らが心配することはないさ」


 和馬の言うとおりだ。しかし、気になることがあった、核心はもてないが女の勘と言うべき


部分が違和感を感じさせる。


「それよりも、姉貴」


 考え込んでいた自分を和馬の声が戻した。


「なに」


 聞き返すと、空だと思っていた紙袋から綺麗にラッピングされた箱を取り出し、


「ほら、いつもお世話になってるから。クリスマスプレゼント」


 と、言われると投げ渡された。


「え、えっ。えぇえぇぇ」


 意識もせずに、驚いた声が出てしまう。


「驚くなよ、まぁ。ボーナス出たからな」


「意外すぎて驚くわよ、それに投げ渡すし」


 投げ渡しは和馬の照れであろう、自分にとっても豆鉄砲喰らったよりもびっくりだ。


「去年は、勤め始めた年と言うことであんまりでなかったからな」


 箱を改めて見た、赤い包み紙でご丁寧にリボンまでしてある。 


「あ、ありがと。ねぇ、開けていい」


「ご自由に」


 確認を取ると早速開けてみた、中には有名ブランドの財布が入ってる。それを見た時絶句


した。


「どうした、いきなり黙り込んで。気に入らない物だった」


「ううん、違う。こんな高そうな物いいの」


「高いって、最近の女性ってこう言うの持っているのでは」


「そうだけど」


 いくらボーナスといえども貯金だってしなくてはならないし、和馬にだってそれなりの計画


があったはずだ。


「姉貴は、ブランド物持たない主義だろ」


 確かにそうだ、自分はブランド品をあまり持っては無い。


「別に、少しくらい持っておいても良いんじゃないか。あって困るものではないし」


「けど、和馬」


「贈ったものなんだから、使ってくれると嬉しいしそんだけでいいよ。お返しとか考えなく


 ても」


 言いたいことはそんな事ではないが、これ以上言うのは失礼に当たると想い口を詰むんだ。


「わかった大切に使うね。ありがとう、和馬」


 それに嬉しくないと言えば嘘になる。


「いえいえ、ボロボロになるまで使ってくれたら結構」


「うん。あっ、ちょっと待ってて」


 礼儀上御礼はしなければならないだろう。お返しに何か思い考えるとすぐに思いついた物


があった。



 しばらく待たせた後


「じゃぁん。これがお返し」


 と言って。和馬の前にあるものを三本置く。


「姉貴」


 和馬は呆けている、当たり前だ。


「自分、お酒飲めないのだけど」


 置いたものは、先ほどサークルの友人から貰ったワインなのだから。


「あれ、和馬。本当は飲めないじゃなく飲まないじゃないの」


 和馬は隠しているようだがお酒は飲める。ただ、何か他の理由で飲まないらしい。


「まぁ、無理には付きあわせないけど、たまには良いんじゃない。兄弟水入らずと言うのも


 あのナイター行った時みたいに」


 呆れ顔を通り越して笑い顔になっており、口元が引きつってるのが解る。和馬は一度下を


向くと意を決したように


「わかった、付き合うよ。その代わり酔いつぶれるまで飲まないからな」


 と念を押した。


「よし、飲もう」


 私自身プレゼントよりこっちの方が本当は嬉しかったりもする。



 お酒が進みほろ酔い程度まで進むと自分自身でも饒舌になった事が自覚できた。


「姉貴、飲みすぎでは」


 和馬は自分と同じペースであるがまったく酔ってない、今まで知らなかったがウワバミ


なのか。


「いいの、和馬と飲むのが夢だったんだから、嬉しいの」


 意識も高揚しているのが解かる。


「無理するなよ」


 思いやりの言葉をかけているが、表情は呆気にとられていた。


「ねぇ、和馬。愛って何だろうね」


「何だよ、藪から棒に哲学論か」


 真希が恋愛真っ只中に居るためなのか、ふと和馬に質問してみたくなった。


「ふと、思っただけ」


 和馬は少し考える、そして


「さぁ、相手のことを思いやることじゃないか。自分が満たされるのではなく相手の幸せを


 一番に考える」


「そうだよね」


 私が体験した高校時代の恋愛は愛ではないのだろう。


「案外、それが一番難しいのかもしれないな」


 理屈で解っていても、実際はとなるとそれに恵まれている人は少ないだろう。損得を考えて


動くのが人間なのだから。 


「真希ちゃんも頑張って欲しいよね」


「そうだな、山あり谷ありだからな」


 これからマキちゃんはいっぱい悩み、いっぱい傷つき、そして強くなっていく、それが


成長するということなのだから。私達は見守ることしか出来ない。


「和馬、この前マキちゃんにあの事話しちゃった」


「あの事って」


「さっき言った。ナイター連れて行ってくれた事」


 私は多分一生忘れることはないと誓うことができる。


「そっか」


 和馬はグラスにワインを注ぐ


「ねぇ。暇なとき連れて行ってよ」


「連れて行けと言われても。姉貴、あの時つまらなそうにしてたじゃん」


 つまらなそうじゃなく、戸惑っていたが正解だろう。


「あれから野球少しは詳しくなったんだから。えぇと 我が巨人軍は永久に不滅ですとか」


 和馬は大げさに溜め息をつく。


「一体いつの時代だよ、それに自分はアンチ巨人だし」


 何かおかしいこと言ったのか、私は。


「そうだな。オフサイドの意味が解れば今度また連れて行くよ」


「オフサイドってサッカーじゃん、それくらい私だってしってるよ馬鹿にしないで」


「じゃあ、意味は」


 それを聞かれると、口の動作が止まった。よく聞く単語だが解らない


「ラグビーもオフサイドがあるな、そういえば」


「うぅぅ。やめてよ和馬」


 スポーツ観戦マニアには敵わない事を改めて悟る。


「今度、ここの子供達つれてみんなで行きたいな、きっとみんな野球が好きになると思うし」


 これが、和馬の本心だろう。 


「そうだね」


 きっと楽しいだろう、裕子はその風景を思い描きながら幸せに感じた。




 「ほら、姉貴」


 裕子は酔いつぶれてしまい、結局自分が部屋まで運ばなければならない。


 部屋に着きベットの上に放り投げると風邪を引かないように毛布と布団を掛けてあげた。


これで朝はちゃんと起きるのだからある意味すごいと感心してしまう。目覚まし時計をセット


し行こうと思ったとたん机の上の写真立てに目がとまり、それを手に取った。


「懐かしいな、この写真」


 自分も持っているが、アルバムにはさんで仕舞ってあるが為に見るのは久しぶりである。


写真には裕子と自分そして裕子の父親と自分の母親が写っていた。みんなで始めて旅行


行った時のものでありその記念で撮ったやつだ。


 裕子とは本当は家族になるはずだった。裕子を姉貴と呼び、裕子の父親をお父さんと呼ぶ


そのはずであったがそれがもろくも崩れ去ってしまった。


「和馬、かずま」


 写真と思い出をかさねていると、裕子の声で現実に戻される。


「何だよ、姉貴」


 返事をすると、しばらく沈黙した。そして、


「抱いて」


 その一言だけ発した。和馬は驚きもせずしばらく沈黙し


「あほか」


 それだけ言い残すと写真を置き部屋から出た、沈黙した時間は二人とも同じくらいであっ


た。


 部屋に戻る途中、真希の部屋のドアから光が漏れているのが見える。まだ起きているのだろ


うかと思いドアをノックしようとしたが少し考えやめた。


 野暮だからが理由である。


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