こんな夢を見た。
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こんな夢を見た。
目の前にはケンタウロスが一騎。
「は?」
見事な出落ちってぷりである。
横向きに首を捻じってこちらをじっと見ていたかと思うと、滑らかな動きで綺麗に指を揃えた右手を挙げた。
「やぁ」
「やぁ、じゃねぇよ」
イケメンな低音ボイスが妙に腹立つ。
でも何処かで聞いた事があるような声な気がした。
わけわからん。
ケンタウロスは続ける。
「君は、死んだよ」
「勝手に殺すなよ」
「まぁそう慌てなさんなよ中年」
「慌ててもないし、まだ辛うじて少年だっつーの」
この馬鹿野郎もとい馬野郎の言っていることが理解できない。納得できない。わけがわからない。
でも、この声はやっぱり何処かで聞いた事があった。
わけわからん。
とにかくここは何処なんだ。
辺りを見渡す。途方に暮れる程の草原が広がっている。空は勿論白い。目に映るものと言えば、そのペンキで塗りたくったような白の空と色鉛筆の緑で描いたような草原ぐらいで、そこにポツンと僕様とケンタウロスが居た。
やたらとムキムキだ。憎たらしい。
「ここはなんだ何処だどうなってんだ?」
「だから君は死んだのさ。そう言ってるだろう?」
「だから勝手に殺すなよ。だいたい僕様がどうしてこんな所にいるんだ。確かさっきまでは……」
思い出せない。
さっきまでいた場所どころか、その前の事とか、その前の前の事とか、その前の前の前の事とか、何もかも思い出せない。
まるでつい先ほど産声をあげたような感じがした。
「まぁ突然だったから戸惑うのは仕方が無いよ中年」
本当に僕様は中年だった気がしてきた。やめて欲しい。
「どうにもこうにも、君は親友を殺したんだ。だから死んだ。実に理にかなっているだろうよ」
「わけわからん」
「それはこっちのセリフだよ」
「どういう意味だよ」
「何が楽しくて男のふるちんを見せられなくちゃいけないんだ」
どうやら僕様は服を着ていないらしい。
「まずはここがなんなのか説明してくれよ」
「草原だよ」
「ンなもん見りゃわかる。そうじゃなくてだな」
思わず呆れてしまう。脱力した声を出した。
「そうかなるほど、君はそこがわからないんだな」
そういうと、ケンタウロスは僕様に向かって指をちょいちょいと振って、着いて来るように促した。気に食わないけど行くしかない。
草原を暫く歩いていると、クレヨンで引いたみたいなパステルブルーの川が見えてきた。水の流れる音が心地良い。
「ここがかの有名なサン’sのリバーだ」
「あの有名なサン達の川か」
わけわからん。
でもこれである程度は理解した。
「なんだ、僕様は死んだのかよ」
「だから何度も言ったじゃないかケンタウロスチョップをお見舞いしてやるぞ」
せめて蹴れよ、折角ケンタウロスなんだから。
「それもそうだな」
「思考に返事すんなよ」
青が気持ち良さそうに流れていくのを眺めていると、純白に赤みが差していくのが分かった。
「もうこんな時間なのか」
赤に反射して、風に揺れていた緑も黄金に煌めいていく。
青、赤、黄金。
「あっ、」
そこでなにかおかしな映像が頭の中に滑り込んできた。
知ってる。
「ここ知ってる。僕様はここをどっかで見たぞオイ」
そんな気がしてきた。
ケンタウロスはなんだか懐かしむような顔をして見せる。
「どこで見た?」
「僕様にはすんげー仲の良い親友がいたんだ。そいつと一緒に絵本を読んでいて見たぞ」
「ほう」
ケンタウロスは興味深そうに腕組みをする。
少しずつ思い出してきた気がした。だからーーーー続けた。
「んで、そいつすんげー良い奴なの、天パだけど。でもさ、すんげー馬鹿だったからいっつも虐められてたんだよ。僕様は最低だったから、一番仲良かったのにただ見てただけだったんだけど、この前さ、虐めてた奴らがそいつを屋上に連れてったわけ」
「それで、どうしたんだい?」
映像は続いた。
「さすがにまずいと思ってさ、僕様も着いていって、親友を助けたんだ」
「そうだったね」
「そのたった一回虐めてた奴らを追い払っただけだったのに、そいつは僕様にありがとうって言いやがったんだ。でも君に迷惑をかけちゃったって言いやがったんだ。もう心配もかけたくないって言いやがったんだ。んで……」
そこまで言ってから、冷たい物が頬を伝った。今にも膝から崩れてしまいそうになったが、ケンタウロスがそれで?と聞いてくれたので、なんとか踏ん張れた。
「んで、それで、あいつ、もう一回ありがとうって言いやがって、んで、落ちてったんだよ」
「言ったろ?君は親友を殺したんだ。だから死んだ。自ら死を選んだ」
ケンタウロスが微笑む顔を見て、ようやく思い出した気がした。
こいつの声を何処で聞いたのか。聞いていたのか。
ずっと聞いていたんじゃねぇか。ずっとずっと。
「ありがとう」
その言葉を聞いて、今度は完全に崩れ落ちてしまった。頬を伝う冷たいのは、妙にしょっぱかった。
「ごめん。ごめん……助けてやれなくて」
「いいんだ、十分救われたさ」
僕様が泣き止むまで、ケンタウロスは側にいてくれて、暫くして立ち上がるのと合わせて立ち上がる。
黄金はより一層輝きを増していった。
「じゃあ、もう帰ろうか」
「悪りぃな、そうするか。こんな時間になっちまったしな」
2人して、いや、1人と1騎して後ろを振り向くと、そこには真っ黒の扉が開かれていて、奥はどんどん深かった。
もう、なんていうか、2人して微笑んで、楽しそうに、あの時みたいに、絵本を一緒に読んでいた時のように、扉に向かって行く。
「んじゃ、帰ろうか」
「うん!」
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いやはや楽しかった。
好き勝手できたから楽しかったwwwww
国語の授業で夏目漱石の夢十夜を見てこれはいけると思ったんだ。思っちゃったんだ。
反省はしていない( ・´ー・`)ドヤぁ
……すみませんでした