表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
勇者、今日から魔王の姫になります。  作者: あじ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

3/3

第3話:魔王の記憶

1:潜入の深化、揺らぐ境界


魔王城の来賓の間。朝の陽光が天蓋付きベッドを照らし、リアナ姫(女装した勇者リアン)は窓辺に座り込む。数日間の”姫生活”で、ドレスの着こなしも板についてきたが、心の中は嵐だった。


リアナ(心の声)「ゼファーの言葉が頭から離れない…『昔、私も人間だった』『裏切りと血に染まった夜』って…」


バルコニーでの会話以来、リアンはゼファーの過去が気になって仕方がない。任務は魔王の弱点を探ることなのに、どうしてこんなに彼の過去を知りたいのか。自分でも理解できない感情が、胸の奥で渦巻いている。


リアナ(心の声)「任務だ。弱点を探るために、過去を知る必要がある。それだけだ…それだけのはず…」


そこへ、侍女がノックして入室。朝食のトレイを運び込むが、今日はいつもと違う。トレイの上に、古びた革製の小箱が置かれている。


侍女「リアナ姫、陛下よりお預かりしました。『君の好奇心を満たすための贈り物だ』と…」


リアナ「贈り物…?」


侍女が微笑んで退室した後、リアナは恐る恐る箱を開ける。中には、埃っぽい古書が一冊。黄ばんだページに、手書きの文字がびっしり。表紙に「覚え書き」とだけ記されている。


リアナ、ページをめくる。そこには、若き日のゼファー、人間時代の彼の日常が綴られていた。


『王都の訓練場にて。今日も剣の稽古。師は厳しいが、民を守る力を得るため、耐えねば』


『王女エレノア様と初めて言葉を交わした。なんと美しい方だろう。だが、身分違い…。この想いは、胸に秘めておこう』


『魔族の領地へ偵察任務。王の命令だ。だが、魔族の村で見たものは…戦士ではなく、家族の姿だった』


リアナ(心の声)「これは…日記? ゼファーが人間だった頃の…」


手が震える。ページをめくるたびに、若き剣士ゼファーの姿が浮かび上がる。


リアナ(心の声)「こんなプライベートなもの、読んでいいのか…? でも、止められない…」



2:記憶の扉、開かれる過去


夜、バルコニー。リアナが古書を読みふける。星空の下、ページの文字が月光に浮かぶ。そこに、静かな足音。


ゼファー「…読んでいるのか」


リアナ、驚いて本を閉じ、慌てて立ち上がる。ドレスの裾が揺れる。


リアナ「ゼ、ゼファー!あの、これは…」


ゼファーはワイングラスを手に、静かに寄り添う。赤い瞳が優しく、リアナを見つめる。


ゼファー「構わない。君に読んでほしくて渡したのだ」


リアナ「…どうして?こんな大切なものを」


ゼファー「君の瞳に、好奇心以上のものが宿っていたからだ」


ゼファーが欄干に寄りかかり、グラスを傾ける。


ゼファー「リアナ、君はただの姫ではない。私の過去を知りたがる…。まるで、何かを探すような目をしている」


リアナが息を飲む。図星だった。


リアナ「…教えて。あなたが人間だった頃…どうして魔王になったの? 裏切りと血の夜って、何?」


ゼファーは沈黙する。長い、重い沈黙。グラスを置き、遠くの星空を眺める。


ゼファー「…よし、話そう。だが、覚えておけ、リアナ」


赤い瞳がリアナを捉える。


ゼファー「過去は毒だ。知れば、君の心も染まる」


リアナ「…覚悟してる」


ゼファー、フッと笑う。


ゼファー「では、聞くがいい。魔王ゼファーがどのように生まれたのか…」



3:人間時代のゼファー、栄光の剣士


【フラッシュバック:20年以上前、王国エヴァントラ】


石畳の街、賑わう市場と、そびえ立つ王城。


若き日のゼファーはまだ銀髪ではなく、黒髪に青い瞳(今は赤)。銀色の鎧を纏い、王の親衛隊長として王城を歩く。


市民たち「親衛隊長ゼファー様だ!」「魔族を退けた英雄!」


ゼファーは村の出身で、剣技と知略で王レオニスの信頼を勝ち取り、わずか25歳で親衛隊長に抜擢された。彼の使命は、王国を魔族の脅威から守ること。


ゼファー(心の声)「この剣で、民を守る。それが俺の誇りだ」


訓練場で部下たちを指導するゼファー。剣を振るう姿は凛々しく、誰もが尊敬の眼差しを向ける。


部下「隊長! 今日の訓練、厳しすぎます…」


ゼファー「甘えるな。魔族は容赦しない。お前たちの背中には、守るべき家族がいるのだろう?」


部下たち「はっ!」


訓練後、王宮の庭園でゼファーは一人、剣の手入れをしている。そこへ、金髪の美しい女性、王女エレノアが現れる。深い紫のドレスを纏い、気品溢れる佇まい。


エレノア「お疲れ様です。ゼファー」


ゼファー「王女さま…!」


ゼファーが慌てて立ち上がり、膝をつく。


エレノア「堅苦しいわね。私たち、子どもの頃からの知り合いでしょう?」


ゼファー「…それとこれとは別です」


エレノアがクスリと笑う。


エレノア「ふふ…。あなたの真面目なところ、好きよ」


ゼファー、顔を赤らめる。


ゼファー(心の声)「エレノア様…この想いは、決して口にできない。俺は平民、彼女は王女…」


だが、エレノアもゼファーに惹かれていた。二人の距離は、徐々に縮まっていく。



4:闇の始まり、王の野心


王の謁見の間。レオニスは、隣国との戦争を企てていた。


レオニス「魔族の領地を奪えば、我が国の領土は何倍にもなる。ゼファー、作戦の指揮をお前に命じる」


ゼファー「はっ」


レオニス「魔族の森に潜入し、奴らの弱点を探れ。侵攻に成功すれば…エレノアを娶らせよう」


ゼファー(驚愕)「王女を…私に…!?」


レオニス「お前は英雄だ。だが、貴族ではない。この侵攻で功績を立てれば、誰も文句は言うまい」


ゼファーは葛藤する。エレノアへの想いと、王への忠誠心。そして、魔族への偵察任務。


ゼファー「…承知しました」


王女エレノアは父の計画を知らされ、複雑な表情。


エレノア(心の声)「父上…ゼファーを利用するつもり? でも、彼となら…」


ゼファーは単身で魔族の森へ。暗い森の中、不気味な気配が漂う。だが、森を抜けた彼が見たものは、魔族の村。家族が食卓を囲み、子どもたちが笑う。人間の村と何も変わらない光景。


魔族の長老が、ゼファーに気づく。


長老「人間よ、何用か?」


ゼファー「…王レオニスの命による視察だ。だが、剣は抜かない」


長老「ほう…珍しい人間もいるものだ。我らは、人間と争いたくはない。共存の道を探りたいのだ…」


ゼファーは長老の言葉に衝撃を受ける。


ゼファー(心の声)「人間と共存…?魔族は…悪ではない…?」


だが、王の命令には背けない。ゼファーは情報を持ち帰り、王に報告する。


ゼファー「陛下、魔族は平和を望んでいます。戦争は避けるべきかと…」


レオニスは黙って報告を聞いていたが、やがて重い口を開く。


レオニス「ゼファー、お前らしくもない。魔族に入れ知恵でもされたか!」


ゼファー「しかし…!」


レオニス「魔族が我が領土に攻めてくる前に、こちらから攻める!これは命令だ、ゼファー!」



5:血塗られた夜、裏切りの宴


戦争が始まり、ゼファーは前線で魔族と戦うが、心は引き裂かれる。


魔族の母親が子どもを庇って倒れる姿、燃える家と悲鳴。


ゼファー(心の声)「これは…正義なのか…?」


ついにゼファーは王宮へ戻り、王に直訴する。


ゼファー「陛下、この戦争は間違っています! 魔族を滅ぼせば、我々も呪われます!」


だが、レオニスは冷笑する。その夜、王は盛大な宴を開き、ゼファーを招く。


レオニス「ゼファーよ…。よくぞ戦ってくれた」


王が差し出す杯。ゼファーは受け取り、一口飲む。が、その瞬間、体に異変が起きる。


ゼファー「…っ!? これは…!」


レオニス「愚か者め。魔族に同情する裏切り者など、不要だ!」


親衛隊がゼファーを囲む。かつての部下たちが、剣を向ける。


部下「隊長…申し訳ございません…」


ゼファー「貴様ら…!」


ゼファー、剣を抜くが、毒が体を蝕み、動きが鈍る。そこへ、王女エレノアが現れる。


ゼファー「エレノア…! 助けてくれ…!」


だが、エレノアは涙を流しながらも、王の側に立つ。


エレノア「ゼファー…ごめんなさい。私は…父上に逆らえない…」


ゼファー「…お前も、か…」


親衛隊の刃が絶望したゼファーを刺し、血だまりに倒れる。


ゼファー(呻き)「エレノア…なぜ…俺を…裏切る…」


その時、魔族の報復として、王宮が襲撃される。宴の間が炎上する混乱の中、倒れていたゼファーの体に、魔族の呪術が触れる。


魔族の戦士「人間よ…お前の怒りを、力に変えてやろう。裏切られた者よ、共に復讐を…!」


ゼファーの青い瞳が、赤く染まる。髪が銀髪に変わり、体が魔力に満ちていく。


ゼファー「…うああああああ!!」


蘇るゼファー。復讐の炎に駆られ、逃げ惑うレオニスを斬る。


レオニス「ば、馬鹿な…貴様、魔族に…!」


ゼファー「貴様が俺を裏切った。だから、俺は魔王となる」


エレノアが震えながら立ち尽くす。


エレノア「ゼファー…お願い、やめて…」


ゼファーが静かにエレノアを見据える。だが、剣は振るわない。


ゼファー「…お前も、裏切り者だ。だが…殺さない。せいぜい苦しむがいい…」


ゼファーは魔族の軍勢を率いて王宮を去る。以後、彼は魔王ゼファーとして、魔族の王に君臨。人間界への侵攻を続けるが、それはもはや復讐ではなく、孤独な支配の形だった。


【フラッシュバック終了】



6:現在へ


バルコニー。ゼファーの語りが終わり、沈黙が降りる。


リアナは涙を堪え、ゼファーの袖を掴む。


リアナ「ゼファー…そんな過去が…。あなたは、被害者だったのね」


ゼファー「被害者? ふん、私は加害者だ。復讐の果てに、数多の命を奪った」


リアナ「でも…!」


ゼファー「魔王の名は、呪いのようなものさ。私を憎む者は多い。それでいい」


リアナの心が痛む。自身の任務——魔王を倒す勇者——が、急に重くのしかかる。


リアナ(心の声)「こいつを倒せば、正義なのか…? でも、この孤独…痛み…」


ゼファーがリアナの頰に触れ、優しく涙を拭う。


ゼファー「リアナ、君の瞳に、私の過去が映っている。…知ってしまったな」


リアナ、震える声で。


リアナ「あなたの本当の弱点は…心の傷なの?」


ゼファーが微笑むが、目は悲しげ。


ゼファー「弱点などない。だが、君のような者が現れた時…初めて、心が揺らぐのかもしれん」


リアナ「…私?」


ゼファー「ああ。君は、エレノアとは違う。…だが、どこか似た炎を目に宿している」


二人、見つめ合う。リアナの心臓が高鳴る。



7:仲間たちの影、迫る危機


一方、城外の森。エリーザ、バレーノ、ソニアが偵察を終え、キャンプで作戦を練る。


エリーザが魔法の鏡を取り出し、城内の様子を映す。バルコニーでゼファーと寄り添うリアナの姿。


エリーザ「…リアン、魔王の過去に触れたみたいね」


バレーノ「あの二人、完全にいい雰囲気じゃねぇか!」


ソニア、複雑な表情で鏡を見つめる。


ソニア「勇者様…」


エリーザ「作戦変更が必要かもしれないわね。リアン、魔王に心を許し始めてる」


バレーノ「ハハハ! 姫が魔王を落とすなんて、最高の玉の輿じゃねぇか!」


ソニア「…でも、勇者様の心が持つか心配です」


エリーザ「そうね。あまり深入りすると、戻れなくなる」


その時、森に魔族の斥候の気配。三人、警戒する。


エリーザ「…誰か来る」


魔族兵士が現れるが、バレーノが素早く気絶させる。


バレーノ「やべぇ、バレたか?」


エリーザ「いいえ、まだ大丈夫。でも、時間がない」


ソニア「急いで、リアン様を救出しないと…」


三人、決意を新たにする。



8:エピローグ


来賓の間に戻ったリアナは、古書を抱きしめ、ベッドに横たわる。


リアナ(心の声)「ゼファー…あいつの過去を知って、俺は…どうすればいいんだ」


ゼファーの言葉が蘇る。


『君のような者が現れた時…初めて、心が揺らぐのかもしれん』


リアナ(心の声)「俺が…ゼファーの心を揺らしてるって…? ダメだ、任務を忘れるな。弱点を探すんだ。でも…」


窓から見える月が、赤く染まっているように見える。


リアナ(心の声)「救いたい…この人を、孤独から…」


一方、ゼファーの私室。鏡に映る己の姿を見つめる魔王。


ゼファー「リアナ…お前は、エレノアに似ている。だが、違う」


拳を握りしめるゼファー。


ゼファー「お前は、私の心を溶かすのか? それとも、滅ぼすのか?」


城の鐘が鳴り、深夜を告げる。


リアナとゼファー、それぞれが葛藤を抱えながら、運命の夜は静かに更けていく。


次にゼファーと向き合う時、リアンは勇者として剣を抜けるのか…それとも…?


次回、魔王城で盛大な仮面舞踏会が開催される。リアナの仮面が外れかけ、正体がバレる危機。


だが、ゼファーの行動は予想外で…。


「いつまで演じ続けるつもりだ、勇者リアン?」


正体を知っていた魔王。そして、リアンに提示される契約とは…?(つづく)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ