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*結*


 半月が輝く頃。夢守ゆめもり神社境内。実家の客間。

「本当によくこんなもので出来るよね」

 作業を進めながら、感心するようにヴィアンは言った。

「まぁな。相手が眠ってるのと、『舞台』が整ってる条件さえクリアできればあとは簡単だ」

 オレも作業の手を止めず、そう答える。

「……………」

 穏やかな顔で、オレたちの作業のちょうど中間で、結城ゆうきは布団の中で眠っている。

 そんな結城を横目に、オレたちは境内で拾ってきた玉砂利を並べていた。布団からおよそ人一人分くらい離して、布団を囲うように四角く等間隔に。

 そんな作業を、眠る少女のそばで、男二人が黙々と行っている。

 ……………。

 ――端から見ればかなり異様(シュール?)な光景だが、そのことにオレが気付くのはしばらく後の話になる。

 ……………。

「ところで、人払いは大丈夫かい?」

 この光景に気付いているかどうかは分からないが、ヴィアンがそう訊いてきた。

「あぁ。父さんと母さんはテレビに夢中だし、厄介な姉ちゃんも風呂に入った」

 オレの部屋に声掛けもなしに入ってくるような予測不能な姉ちゃんだが、彼女が長風呂なのをオレは知っている。

 ふっ、姉ちゃん敗れたり。

 ……いや、戦ってるわけじゃねぇけど。

 ちなみに、結城に襲い掛かった男を撃退したのも姉ちゃんだ。

「ちっ。生け捕りにしようと手加減するんじゃなかった。おかげであの野郎を逃がしちまった」

 と、気を失った結城を抱えながら恨めしそうに吐き捨てていた。

 ……生きたまま以外に捕まえる選択、あったんだ。

 我が姉ながら、相変わらず怖ぇ。

 と、ガキの頃の恐怖体験を思い出しかけたところで、オレたちは全ての玉砂利を並び終えた。

「よし、これで『舞台』は完成だ」

 玉砂利で囲った領域、空間。それを『舞台』と見立てることがオレの術式。

 そして、後はそこに入るだけ。

「完成、はイイけど、君は着替えなくてイイのかい? 学ランじゃ動きにくくないのかい?」

「ん? まぁイイよ、別に。それに着替えてる間に結城が目を覚ましたら意味ねぇし」

 結局、気絶した結城をウチまで運び(基本姉ちゃんが。オレたちは付き添ってただけ)、客間に寝かせ(母さんと姉ちゃんが。オレたちは布団出しただけ)、結城んチに電話を入れ(母さんが。オレたちは見てただけ)、さっさと晩飯(肉じゃがに変更になった)を食べ、オレの部屋で作戦会議をして、着替える間もなく今に至っている。

「つーか、お前もそのカッコでイイのかよ? そんな動きにくそうなカッコで」

 ヴィアンもオレと同様に、着替える時間はなかった。

 室内なのでコートは脱いでいるが、黒のシャツ・ベスト・ズボンというカッコ。しかも、無駄にレースやらベルトが付いているモノ。

「あぁ、それなら大丈夫。何度も言うように僕は戦闘能力皆無だから、戦闘には参加しないよ。いつも通り、いざというときの“サポート”に専念するよ」

 と、ニッコリ笑うヴィアン。

「あっそ。まぁ、期待はしてなかったけどよ」

「うん、それが正しいよ。僕も所詮、ヴァンパイア“もどき”だからね」

 ……………。

 それならオレは、人間“もどき”なんだろうか?

 こんな術式を使えるオレは、間違いなく普通の人間じゃないんだろう。

 ……ま、今はそんなことどうでもイイや。

 こんな『能力』で結城を助けられるなら、そんなことはホントにどうでもイイ。

 それならオレは、人間“もどき”でイイ。

 それならオレは、人間“もどき”がイイ。

「んじゃ、行くぞ」

「はいはい。いつでもどうぞ」

「……………」

 オレは目をつぶり、一度心を落ち着かせてから、


「『夢神楽(ゆめかぐら)』」


 そう唱えて『舞台』の中に踏み込んだ。

 結城の『夢』へと、オレたちは入り込んだ。



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