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*承・追*


 翌日。二年生二日目。

 お約束通りのフライングボディプレスでヴィアンを起こし、いつものように家族揃って朝飯を食って、普段より少し早く家を出た。

 実はオレはやればデキる子なのだ。

 二度寝(朝食後の)と無駄な語りがなければ、遅刻なんてしないのだ。

 別に、担任の魚住うおずみさんが怖いから早く出たわけじゃないのだ。

 別に、フライングボディプレスで脇腹を痛めて二度寝できないわけじゃないのだ。

 ……………。

 ……案外あの技、危険だな。

 姉ちゃん、あんな技とか(舞の海並みのバリエーション)を毎朝オレに繰り出して、よく怪我してねぇな。

 そんな風にガキの頃の思い出を、心と脇腹の痛みと共に感心しながら歩いていると、昨日別れた校門前によく見慣れた後ろ姿が見えた。

 少し早足で彼女の隣に並び、

「おはよ、結城ゆうき

 と、声を掛けると、

「あ、おはよう、智流さとるくん」

 いつも通りの声が返ってきた。

「ねぇ、ちょっと聞いて。昨日あの後、ものすっごく大変だったんだから」

 と、女子特有の少し大袈裟な前振りをする結城。

 その黒く艶やかな髪には、昨日と変わらず桜の髪留め。

「何故だか分からないけど、帰り道でさらに二人に突然告白されたんだよ。しかも、二人とも津々高生だけど、また私の面識ない人。これも智流くんの言ってた『一目惚れ』ってヤツなのかな?」

「地味キャラなのに?」

「あ、その言葉ちょっと傷ついた。自分で言う分にはイイけど」

「あ。悪い、ゴメン、すまん、申し訳ない、かたじけない」

「いやいや、最後のは謝ってないし」

「で、どうしたんだ? どっちかOKしたのか?」

「いやいや、そんなよく知らない人の告白、受けるわけないでしょ」

 ――いくら地味キャラでも。

 と、結城は笑う。

「でも本当になんなんだろ? 春だから、みんな浮かれてるのかな?」

「あー、確かに。地球温暖化がひどいって聞くもんなー」

「え!? そんな地球全体の問題なの!?」

 などと、他愛もない話をしながら校舎に入り、靴箱に向かったところで、オレは言葉を失った。絶句した。

 それほどビックリした。つーか、正直引いた。

 当人の結城は、スクールバッグを落としてフリーズしていた。

 小さなその空間に溢れかえるほど――いや、実際に溢れているほど、結城の靴箱には手紙が詰め込まれていた。

 朝の学校・靴箱・手紙。

 中身は見ていない。だけど、そのフレーズから連想できるのは、どう考えてもアレしかなかった。

 マンガとかで、たまに見るような光景。

 実際に見ると、正直、気味が悪かった。


 ――そしてオレはこのときようやく、何かがおかしい、と思った。




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