*承・続*
「ごめんなさい」
と、結城は謝った。
だけど凹んだのは謝られた方だった。
「おかえり」
「ん。ただいま」
立ち尽くす相手をそのままに、オレのところに帰ってきた結城。
そして足並み揃えて、オレたちは体育館裏を後にした。
「つーかさ、告白が体育館裏ってベタ過ぎね?」
体育館から十分離れ、校門近くまで歩いてきたところで、オレはそう笑った。
「こら、笑わないの。あの人だって真剣だったんだよ」
まったくもう、とこめかみを押さえる結城。
「まぁ確かに、目は真剣過ぎて怖いくらいだったな」
まるで何かに取り憑かれているかのように。
「うーん……でも私、あの人と面識ないんだよね。学年だって一つ上の先輩だし。なんで突然告白されたんだろ?」
今度はこめかみをトントンとリズミカルに叩きながら、疑問を口にした。
「アレじゃねぇの? 一目惚れってヤツ」
「まっさかー。私みたいな地味キャラに?」
ないないない、と笑いながら結城は少し大袈裟に手を横に振る。
……地味キャラって自覚あったんだ。
つーか、いまどきこれほどの優等生ルックスなヤツはいないから、逆に目立つけど。
まぁ、変わらず着けている桜の髪留めは別として。
「でもさ、まさか本当にまた智流くんと同じクラスになるなんてね。朝言ってた通りになったね」
「あぁ、そのせいで遅刻しちまったけどな」
苦い顔をして、オレは言葉に少し嫌みを込める。
「それは私だって同じだよ。せっかく無遅刻無欠席で来てたのに……築き上げてきた優等生キャラが台無しだよ」
……あ、そっちも自覚あったんだ。
「つーか、結城も遅刻したのに、なんでオレだけ罰当番なわけ?」
「それは智流くんが遅刻常習犯だからでしょ。しかも担任の先生が魚住先生だし」
「あー、なんで一年に引き続き魚住さんなんだよ。オレ、あの人苦手なんだよなー」
「え? そうなの? 魚住先生、カッコイイしフレンドリーだから人気だよ?」
「いや、まぁ、カッコイイのはイイんだけど、フレンドリー過ぎるのが苦手なんだよ」
「ふーん、そうなんだ」
そう納得してから、少し間を開けて、
「――じゃあ、私もフレンドリー過ぎ?」
と、結城が訊いてきた。
「は? 何それ? オレたち幼なじみじゃん。フレンドっつーかファミリーみたいなもんじゃん」
「そう……だよね。何それ、だよね。意味分かんない質問だよね。反省会もんだね。今の私はないわー」
ないないない、と笑いながら結城は少し大袈裟に手を横に振る。
ちょうどそのとき、オレたちは校門を過ぎた。
そして、そこでオレは立ち止まった。
「あ、オレちょっと寄り道して帰るから、こっちの道行くわ」
「え? そうなの? あっ、もしかして、またゲーセン?」
おばさんに言い付けちゃうぞー、と同じく立ち止まった結城が意地悪そうな笑みを浮かべる。
「そんなんじゃねぇって。これから人と会う約束してんだよ」
「へー、珍しい。約束は平気で破る主義の智流くんが」
「……一体、お前はオレをどんなキャラに仕立てようとしてんだよ」
「んー、不良系オレ様キャラ? だって現に今、金髪でサングラスにピアスまでして、さらには全身ヒョウ柄の――」
「してねぇよ! 小説じゃ分かんないけど、超普通の学ランを着た超普通の高校生だよ!」
つーか、オレにヒョウ柄の何を着せようとしたんだよ。
……てか、流れで自分のこと超普通とか言っちゃったけど、もう完全に普通じゃないんだよな、オレ。
ま、目の前にいる結城は何も知らないけど。
知らなくてイイし、知らない方がイイし。
「んじゃ、きちんと約束果たしてくるわ」
「了解。あんまり遅くなっちゃダメだよ」
「ウチの親みたいなセリフだな、それ」
「そりゃそうだよ。私は智流くんのファミリーみたいな存在なんだから」
お母さんの言うことは絶対なんだから、とオレに指差す結城。
……うわぁ、ホントの母さんより厳しい。
ウチって基本、放任主義だから。
ま、補足説明だけど。
「んじゃ、また明日な」
「うん、また明日ね」
そうして、オレたちは校門前で別れた。
――こうして、オレは“原因”の一日を終えた。