*終*
「髪はね、また何度でも伸びるものなんだよ。特に女性は、あっという間に。だからその度に、誰かが切ってあげないといけないんだ……さすがのチルチルくんでも僕の言ってること、もう分かるよね?」
翌朝。二年生三日目。石段を降りきったところ。
いつも通りの、しっかり校則を守った制服。
いつも通りの、きっちりまとまった三つ編み。
いつも通りの、すっきり無駄のない黒縁眼鏡。
見慣れ始めた、ぴっかり色を添える桜の花の髪留め。
そんな結城真実が、そこにいた。
「おはよう、智流くん」
「おはよ、結城」
「昨日はゴメンね、なんか迷惑掛けちゃって」
「別に気にすんな。それより体調とか気分とか悪くないか?」
「うん、大丈夫。智流くんチで休んだ後、気分がスッキリしてたし、家に帰ってからもぐっすり寝たからすっごい元気」
――って私、寝過ぎだね。
と、小さく舌を出す結城。
……………。
「……んじゃ、全快祝いに今度の土曜、映画でも行かね?」
「あはは、全快祝いって大袈裟。でも、ちょうど見たい映画あったんだ」
「へぇ、どんなヤツ?」
「なんかね、狼男の話の映画。クラスのみんなが面白かったって」
「ふぅん、じゃあそれにするか」
「うん。それじゃあ今度の土曜日にね」
「了解……つーか、いつまでもこんなとこいたら、また遅刻すんぞ」
そう言って、オレは結城の前を少し早足で歩き始める。
「あ、ちょっと待ってよ」
急いで後ろからを追ってくる結城。
だから、結城が追いつく前に、
「あ、そういやさ」
顔を見られる前に、
「言い忘れてたけど」
親切なオレは教えてあげる。
「髪留め、似合ってる」
後日、観に行った映画の記憶が鮮明な内に、オレは『狼男』と対戦することになるが、それはまた次の話。
――第二話「vs.ろんずるウルフマン」に続く。
以上、もどきども第一話「vs.いやがるサキュバス」でした。
腑に落ちない点も多々残していると思いますが、あくまでも一話完結“もどき”なので、ご容赦頂けるとありがたい限りです。
感想・批評など頂けると、さらに嬉しい限りです。
では、ここまで読んで頂いた方々に最大級の感謝を!