7.誕生日
もうすぐあたしがリーファのペットになって一年が経とうとしている。
今までケンカもなく幸せな日々を過ごせていて、言う事なしだ。
最近は基礎体力を作るために、リーファとは別でレッスンを受けているので、一緒に過ごせる時間が減ってしまったのが少し残念ではある。
でも、これも大人になった時にリーファの正式なパートナーになるため。リーファの足を引っ張らないようにするためにもがんばらなきゃ。
そして、もうすぐリーファの8才の誕生日が訪れる数日前……。
「やあアリス、少し僕たちと一緒に町まで出かけてくれないかな」
「ちょっとね、リーファの事で相談がしたいの」
リーファのパパとママがあたしとリーファの部屋に訪ねてきた。
どうもリーファの事だと言うのだが、あたしで力になれることなのかな?
「リーファは今はレッスン中だから、僕たちが外に行っても気づかれないから、ちょうどいいタイミングなんだ」
「どうかしらアリス? もし一緒に行ってもらえるなら心強いわ」
あたしはこの2人よりもずっとリーファと過ごした時間は短い。
それでもあたしを必要としてくれるなら、力になってあげたい。
あたしは二人に向かって頷き、一緒に行きたいという意志を示した。
「あら、どうやら力になってくれるそうよ、リース」
「心強い味方を得ることができてありがたいよ。それじゃ、早速出かけよう」
……リーファのパパ、リースさんって言うんだ。
ということは、リーファってリースさんとエファさんの名前を少しずつもらってるんだね。
日本でも親や有名な人の名前を一文字もらうというのがあるけど、それに似た感じなのかな。
「アリスちゃんはわたしが抱っこしてあげるわ。女性同士仲良くしましょうね」
『はい、よろしくお願いしますエファさん』
あたしはエファさんに両腕を伸ばすと、エファさんはあたしの脇を抱えて持ち上げ、あたしを抱っこしてくれた。
……のだが。
その……エファさんの胸が大きすぎて……落ち着かないというか……。
少し歩くたびに胸が弾み、あたしに当たってくる。
……はぁ、羨ましいなあ。あたしもこれぐらい大きくなってくれればいいのに……。
そんなことを考えながら、あたしたちは町へと向かって行った。
**********
「さあ、ついたよアリス」
リースさんが指し示した先にあるのは……装飾店。
リーファと入ったアクセサリーショップとは違い、お高そうなものが並んでいる。
「いらっしゃいませ……おや、リース様とエファ様ではありませんか」
「どうもお世話になっております、今日はリーファの誕生日に贈る装飾品をと思いまして」
ああ、なるほど!
もうすぐリーファの誕生日だから、夫婦でリーファへの贈り物を見繕いにきたんだ!
……でも、そうしたらなんであたしが必要だったんだろう……?
「さあ、アリスちゃんの出番よ」
『え? え? それはどういう……』
「うちにアリスが来て一年の節目だから、リーファの誕生日プレゼントをアリスに選んでもらおうと思ってね」
責任重大だ!?
えーっと……お金とか大丈夫なのかな……貴族だから大丈夫なんだろうけど、あまり高すぎるのを選んじゃってもなんか申し訳ないし……。
「ふふふ、お金のことは気にしないでいいのよアリスちゃん」
「そう、君がリーファに似合うと思うものを選んでくれればいいんだ」
「それじゃあアリスちゃん、一緒に見て回りましょう?」
エファさんはあたしを抱っこしたまま店をぐるりと一周してくれた。
目に付くものはみんな高そうで……ちょっと気後れしてるかも。
でも、決めなきゃいけないんだよね。早くしないとリーファにあたしたちが出かけてることを気付かれちゃうかもしれないし。
『エファさん、こっちです』
あたしはエファさんの胸をポンポンと叩いて、あちらに向かって欲しいとジェスチャーで伝える。
「あら、こっちから?」
エファさんはそれに応えてくれて移動してくれる……しかし、滅茶苦茶えらい人をこんな使いかたしてたら罰が当たりそうな気がする……。
『これです!』
あたしが指し示したのはペンダント。蓋が開閉して、中に綺麗な石……おそらく宝石の類が埋め込まれているものだ。
開閉式ならリーファが動き回っても中の石は傷が付きにくいだろうと思う。
ちなみに、その石の色はリーファの瞳と同じ、透き通った青色をしている。
「なるほど、頭にはおそろいのリボンがあるから、胸元にワンポイントということだね」
「蓋が開閉式になっているから動き回っても大丈夫そうね。さすがアリスちゃんだわ」
どうやらお二人もご満悦の様子。
あたしもなんとか役に立てて嬉しいと思い、数日後のリーファの誕生日が楽しみになったのだった。
**********
「リーファ、誕生日おめでとう!」
「ふふふ、リーファももう8才になったのね、おめでとう」
『おめでとうリーファ! ……ってあたしが言っても分からないかもだけど!』
「えへへ……パパもママもアリスも……ありがとーっ!」
あたしたちのお祝いの言葉にリーファがお礼を返す。
いつも以上にニコニコしていて、とても嬉しく思っているのが分かりやすい。
それにしても天使だなあ……ちょっとずつ成長はしてるけど、まだまだかわいらしい顔立ちに癒されるあたし。
「さて、恒例のプレゼントなんだけど……」
「今回はアリスちゃんが選んでくれたの!」
「アリスが!? やったーっ!」
あたしが選んだというだけでここまで喜んでくれるなんて……誘ってくれたリースさんたちには感謝しなきゃ。
あとは中身も気に入ってくれるといいんだけど……。
「ね、ね、開けていい?」
「ええ、もちろんよ」
「えへへ……何が入ってるのかな……?」
リーファは箱の包みを少しずつ少しずつ開けていく。
そして箱の蓋を開けて中を覗き込む。
「わぁ……ペンダントだ……ね、ママ。付けてもらっていい?」
「ええ、それじゃ……これでどうかしら?」
リーファはエファさんにペンダントを付けてもらい、鏡をまじまじと見る。
そしてペンダントをぎゅっと握りしめながら、あたしの方に顔を向ける。
「ありがとうアリス、ずっと大事にするね!」
『うんっ……!』
リーファの屈託のない笑顔に少しドキリとする。
「それとね……実は私からもアリスにプレゼントがあるの」
『えっ……?』
突然の発言に目を丸くするあたし。
リーファの誕生日なのに、あたしに……?
「アリスの誕生日はいつなのかとリーファに聞かれてね。分からないと答えたら『それじゃあ私がアリスと会った日がいい!』と言うんだよ」
「それでリーファとアリスの誕生日が同じになってね……実はレッスンと称して町に行っていたのよ」
え? あたしと同じようにリーファも……?
「はい、これ!」
リーファからリボンの付いた箱が手渡される。
爪で傷つけないように、慎重に解いていき、箱を開けてみるとそこには……。
『ペンダント……?』
「うふふ、アリスちゃんがペンダントを選んだ時びっくりしちゃったのよ」
「まさか2人ともそれぞれのプレゼントに同じものを選ぶなんてね。仲がいい証拠だよ」
「リボンと一緒でお揃いだね!」
どうしよう……すごく嬉しいのに、言葉が通じないから伝えられないよ……。
でも。でも、できるだけの事はしようと、リーファの胸に飛び込み、全身で喜びを表現する。
「えへへ……喜んでくれて嬉しいな……あとね……」
リーファはあたしに顔を近づけると、リーファの唇を、あたしの唇に少しだけくっつけた。
『こ、これって……ファースト……キス……』
「えへへへ……大好きだよ、アリス」
「あらあら、本当にこの2人は仲がいいわね、妬けちゃうくらい」
こうして、あたしのこっちの世界での誕生日は一生忘れることができないものとなった。
その後、唇に残った感触を思い出す度にドキドキするほど、あたしはリーファを意識するようになっていったのだった。