6.体調不良
あたしがリーファのペットになって半年。
今ではすっかり家に溶け込めていると思う。
リーファが勉強などのレッスンを受けている時以外は、基本的におはようからおやすみまでいつも一緒だ。
そして、今日もあたしはリーファより少しだけ早起きして、リーファが起きるのを待っている。
リーファは少しお寝坊さんで、お布団のぬくもりに負けて二度寝することもある。
そんな時は顔をぺろぺろして起こしてあげる。
人間と動物なので何もやましいことなどないからね。
『今日はちょっと起きるのが遅いなあ……』
普段はあたしが起きてからだいたい10分以内ぐらいにリーファも目が覚める。
太陽の光が寝室に射し込んできて、それがきっかけになってリーファが目を擦りながら起き上がるのだ。
『リーファー? 起きないと悪戯しちゃうよー?』
あたしはリーファがいつまで経っても起きないから、再びベッドの上に乗り、リーファの顔を見る。
『ほらー、起きないと顔をぺろぺろしちゃうよー?』
それでもリーファの反応はなく、あたしはしょうがなくリーファの顔を舐めようと顔を近づける。
しょうがなくだよ。決してやましくはないよ。
『……!』
あれ? なんだかリーファの顔が赤い……?
更に顔を近づけて、おでことおでこをくっつけてみると、普段のリーファよりも体温が高い気がする。
もしかして……。
あたしはベッドから飛び降りると、寝室のドアを叩く。
外にはリーファが起きた後、着替えを手伝ってくれるメイドさんがいるからだ。
「どうされましたか?」
あたしの必死のノックにメイドさんが気づいてくれた。
部屋に入ってきたメイドさんの方を一瞥し、あたしはベッドの上へと再び飛び乗る。
『メイドさん! リーファが!』
そしてリーファの近くで声を上げる。
メイドさんもあたしの反応がいつもと違う事に気付き、急いでリーファの元へと駆け寄った。
そしてリーファを見て、手をリーファの額に当てる。
「熱がありますね……至急、旦那様と奥様をお呼びします!」
メイドさんは踵を返し、急いで報告へと向かって行った。
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「ありがとうアリス、君のおかげで早い対処ができたよ」
「ええ、アリスちゃんには感謝しないとね」
メイドさんの報告からすぐに2人が駆け付け、エファさんが持っていた錬金術で作られた治療薬をリーファに飲ませ、リーファの容態は落ち着いた。
どうやら軽度の風邪だったらしく、1日寝ていれば元気になるそうだ。
それにしても錬金術かあ……便利そうだなあ。あたしもちょっと興味あるかも。
もしあたしが錬金術を使えるようになれば、リーファの役に立てると思う。
「ごめんね、アリス。今日は一緒にお出かけする約束だったのに……」
あたしの方を見ながら、リーファが申し訳なさそうに俯き、謝る。
『ううん、リーファのせいじゃないよ。病気は誰だって罹るものなんだから、気にしないで』
あたしはリーファの顔を舐めて、気にしてないよ、ということを伝える。
「大丈夫よリーファ。明日のレッスンはお休みにしておくから、元気になったら羽を伸ばしていらっしゃい」
「だから今日はしっかり寝て体力を回復させようね。約束だ」
「うん……ありがとう、パパ、ママ……」
2人はリーファの頭を優しく撫でて、部屋を後にした。
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「アリス、いつも一緒にいてくれてありがとう……」
2人きりになった部屋で、あたしもリーファも布団に潜って過ごしていたが、リーファがあたしに話しかけてきた。
一緒にいるなんて当たり前だよ、だってあたしはリーファのペットだもん。
「私ね、アリスが来る前は1人でも大丈夫だったんだけど……アリスが来てからは、アリスがいないと寂しいって思うようになっちゃった」
『リーファ……』
「だから、病気の時もこうやって一緒にいてくれるのがすごく嬉しいの。……ホントは、風邪をうつしちゃダメだから1人で寝なきゃいけないんだけど……」
確かに他の人にうつしちゃったら大変だけど、1人が寂しいのはよく分かる。
あたしも病気になった時、できるだけ1人で布団に潜ってお父さんたちにうつさないようにしてた。
あの時は1分1秒がとっても長く感じたなあ……。
「もし風邪をうつしちゃったら、私がアリスのこと看病してあげるから、今日は一緒にいてね……」
もちろん、と言わんばかりにあたしはリーファの身体に自分の身体を擦り付け、リーファが好きだから一緒にいると身体で伝えた。
「ありがとうアリス……だい……すき…………すぅ……」
熱が出て疲れたのか、リーファは寝息を立てはじめた。
……そういえば、こんなにゆっくりとした時間は初めてかも。
いつもは遊んだり、ボードゲームをしたり、勉強したり……。
だけど今は何もしていない。目の前で眠っているリーファをじっと見つめているだけ。
……まじまじと見ると、やっぱりリーファは美人さんだと思う。
明るいブロンドの髪、透き通った青色の瞳。
身長も胸もまだまだ未成熟だけど、将来的にはエファさんみたいな感じになるのかな。
羨ましいなあ……特に胸。あたしは前世はぜんぜんだったから、今世に賭ける!
でも弓を使うなら小さい方が有利なんだけど……。
などとそんなことを考えていたら、あたしにも睡魔が襲ってくる。
太陽の光の温かさと、布団のぬくもりで次第にウトウトし始め、意識が徐々に薄れていった……。
そして、次に目が覚めた時には夕暮れになっていた。
あたしはいつの間にかリーファの腕に包まれ、一緒に眠っていたようだ。
『ふあぁ……よく寝たぁ……』
あたしは布団から出ようともぞもぞと動こうとしたが、リーファを起こしちゃったらダメかなと思い、もうしばらくはリーファに抱きしめられたままでいようと身を任せた。
「リーファ、身体はどうかしら?」
そこにエファさんが服を持って入ってくる。
そっか、汗をかいてるから着替えをしなきゃ。
「んー……熱は引いたようね。……あらあら、2人は仲良しさんねぇ」
エファさんはおでこをリーファに当てて熱を測り、リーファの体温が正常に戻ったのを確認すると布団を捲った。
そこで抱きしめられたあたしを見つけ、仲良しだと評する。
「もしかしたらリーファとアリスちゃんはそのうち『契りの儀式』を行う仲になるかもしれないわね。……さてさて、寝汗を拭いてあげなきゃ」
『契りの儀式』? なんのことだろうと思いながらも、エファさんの作業の邪魔をしないためにも、あたしは一旦リーファから離れることにした。
その後、リーファはばっちり体調が回復し、翌日は2人で昨日の分を取り戻すぐらいにたくさん遊んだのだった。