13.聞きたいことがあるんですが。
王亀との戦いから一日。
あたしは魔力切れの反動から眠っていたが、ようやく目を覚ますことになる。
「アリス! よかったぁ……」
『ここ、は……』
見慣れた室内風景。
ああ、ここはリーファの部屋のベッドだ……。
そっか、あたしは魔力切れで意識を失って……リーファに心配かけちゃったな。
執事さんが説明してくれたんだろうけど、それでもよほど心配だったんだろう。
あたしが起きるなり、あたしの胸に飛び込んできて顔を埋めた。
『ごめんね、心配かけちゃって……』
「うん……パパやママも大丈夫って言ってたけど、やっぱりアリスが心配で……」
『ずっと一緒にいてくれたんだね、ありがとう、リーファ』
「うんっ……」
……そういえば、普通に会話してるけど……。
これ、あの時だけの奇跡じゃなくて……普通にあたしの言葉をリーファが理解してるの?
『ねえ、リーファ。聞きたいことがあるんだけど……』
「なに?」
『あたしの言葉、いつから分かるようになったの?』
「うーんとね、最初から!」
????????
最初?
『えっ、最初って……あたしをペットにするってリーファが言った時?』
「そうだよ?」
『……………………』
ああああああああああああああ!?!?!?!?!?
待って待って待って!?
最初からってことは……今まであたしが言葉が通じないだろうと思ってリーファに言ってたセリフ……全部リーファには筒抜けだったってことじゃないの!?
うわああああああああ!!!!!
穴があったら掘りたい!!!!!
墓穴に入りたい!!!!!
……だめだめ、混乱してるじゃないあたし。
こういう時は素数を数えて落ち着けばいいって、誰かに聞いた記憶がある。
1、2、3、4…………違う違う違う! これ素数じゃない!!
「ねえ、アリス……?」
あたしが大混乱の最中にいることを知らず、リーファは澄んだ瞳であたしを見つめてくる。
……あたし、たぶん毛の上からでも分かるぐらい顔が真っ赤になってる。
見ないで、恥ずかしいあたしを見ないで……。
「アリスってば!」
『ひゃ、ひゃいっ!』
「あのね、私……アリスともっとお話がしたいの。今までは少ししかお話してくれなかったから……今日からはもっと、アリスの好きな事とか色々教えて欲しいの」
「……リーファ……」
そっか。
リーファは最初からあたしの言葉が分かってたけど、あたしはそれを知らずに時々しか喋らなかった。
あたしの言葉がリーファに通じてるとは思わなかったから。
それだと、時々寂しい思いをさせていたのかも。
『うん、それじゃ今日からはいっぱい喋ろうね』
「やったーっ!」
恥ずかしさとか、今はもうそんなものはどうでもよくなっていた。
だって、リーファはあたしの言葉を分かってて、それを受け止めた上であたしのことを好きって言ってくれてたんだから。
あたしはリーファのことが好き。リーファはあたしのことが好き。
たったそれだけのシンプルなことなんだから。
『でも、なんで今まであたしの言葉が分かってるって言わなかったの?』
「あのね、アリスは無口な子なのかなって思ってたの」
違います。見ての通りあたしはそんなクールな人ではありません。
……そっか、勘違いさせてたんだね。これからはちゃんとあたしらしく振舞うから。
『ごめんねリーファ、これからは一緒にもっと色々なことをしようね』
「うんっ! アリス大好き!」
『……あたしも大好きだよ、リーファ』
……見る人が見れば愛の告白みたいな感じなんだけど、まいっか。
とりあえず、早く起きてあの王亀の件がどうなったか確認しないと……。
ん?
コンコンと扉がノックされる。誰か来たのかな。
「入るよリーファ……あ、良かった……回復したんだねアリス」
「あらあら、抱き合っちゃって……お熱いわねえ……」
「ふふ、仲のいいのは素晴らしいことだよ」
見られちゃった。
リーファのパパとママに……まあ今更だしいっか。
ちょっと色々吹っ切れたしね。
「それでは丁度いいし、王亀の件のその後を伝えておこう。王亀を倒したのはアリスで、作戦を指示したのもアリスなんだけど、それを公表してしまうとリーファがアリスと話せるという特殊な能力を持っているということが世間に周知されてしまう」
「そうなると、リーファとアリスちゃんが研究対象になってしまうかもしれないの」
「だから僕たちは指示を出したのはリーファだということにした」
『あの……ライさんたちではダメだったのですか?』
そう、新人のリーファではなく、ある程度の実績もあるライさんたちなら……。
それをリーファがリースさんに伝えてくれる。
「それも考えたのだけど、それだとライやレイが王亀をも倒せる冒険者だと勘違いされてしまい、危険な任務を依頼されるかもしれない。僕直属だから依頼自体は選ぶこともできるのだけど、高難易度の依頼ばかりが来てしまう恐れがあるんだ」
確かに、それだとライさんたちに迷惑がかかってしまう。
だとすると、リーファが指示をしてみんなで倒したということにしないとどうにもならないのね……。
でも、それだとリーファが神格化されてしまい、リーファに危険が及ぶのでは?
そのことをあたしはリースさんに聞いてみる。
「確かにそれも考えた。しかしリーファは僕たちの大事な一人娘だ。だからそれを盾にして危険な任務は行かせないという方便を使えるわけだ」
「今回の王亀との遭遇は本当の偶然で、倒せたのも偶然ということで報告しておいたのよ。偶然作戦が成功して、偶然弱点属性の炎が偶然頭に当たったということでね」
うーん、偶然がかなり重なってるけどそれが一番収まりがいいのかなあ。
まあ、あたしの作戦が上手くいったのも偶然だからそういうことにしておこう。
「それにしてもアリスは凄いね。あの王亀を倒す策を考えるのだから」
「そうね、今度はわたしたちを駒にして戦ってみて欲しいわ」
『ええっ……それはちょっとあたしのことを買い被りすぎじゃ……』
などと会話をしていると、突然部屋の扉が開く。
「た、大変ですぞ旦那様!」
「どうした?」
急いで入ってきた執事さんから耳を疑う言葉が発せられた
「王亀を倒したリーファ様に、各方面から縁談が持ち掛けられております」
「……しまった、そこまでは考えが回らなかったか……」
『ど、どういうこと!?』
「初めての狩りで王亀を倒すほどの力量がある子だと思われて、その実力を買われたということだね。僕たちでも逆らえない辞令が出るかもしれない」
リースさんでも逆らえないって……王太子様か誰かからの縁談……?
「やだ! 私、アリスと一緒がいい!」
「リーファ……僕たちもリーファの意見を尊重してあげたいと思ってる」
「でも、どうすればいいのかしら……」
流石にリースさんでも自分より偉い人からの辞令は無下にできないだろう。
……そうだ!
『あの、『契りの儀式』の邪魔はしてはいけないとのことでしたよね?』
「……そうか! 確かに儀式が成功すればリーファには手を出されなくなる」
「本当はもっと仲を育んでから臨んで欲しかったけど……事は急を要するわね。リーファ、大丈夫?」
「うんっ! 私、アリスと一緒にいられるなら何でもする!」
「それじゃアリス、申し訳ないけど準備ができ次第儀式を行ってもらえるだろうか」
『分かりました!』
こうして、あたしたちは急いで『契りの儀式』の準備を始めることになったのだった。




