10.2人の連携
「私とアリスで一緒に戦いたい!」
というリーファの言葉から始まった、あたしとリーファの連携訓練。
リーファは魔法を使い、あたしは弓を使うから、どちらも遠距離で合わせるのはなかなか難しい。
基本的にリーファが魔法で牽制、あたしが弓で射かける感じなんだけど、息を合わせるのがなかなかうまくいかない。
弓だと狙いを定めるのに時間がかかるから、どうしてもね。
それでも何回も何回も練習をして、数日後にはだいぶ息が合ってきた。
リーファからあたしへは言葉が通じるけど逆ができないから、あたしがリーファに合わせるように動くように最適化していったのだ。
『それにしても言葉の壁は厚いなあ……』
それでも連携がうまくいった時のリーファの笑顔は格別で、絶対に成功させてやると意気込めるぐらいだ。
ほんと、リーファはかわいいんだから……おっと、惚気ちゃった。
「うん、なかなかいい連携だね2人とも。これなら合体魔法をそろそろ練習してもいい頃合いかな」
「いいの!? やったーっ!」
リーファが憧れていた合体魔法。
リーファの火魔法を、あたしの風魔法で補助する感じなのかな。
「まずはリーファが火魔法を発動する。そこにアリスが風魔法を魔符で発動させ、風に火を乗せるんだ。ファイアーストームという合体魔法だね」
「かっこいい! ね、アリスやってみよ?」
「ふふふ、やる気満々ねリーファ。でもまずはわたしたちのお手本を見てからにしてね」
「うんっ!」
わたしたち……ということはエファさんとリースさんのお手本かな。
「あなた、準備はいいかしら?」
「うん、いつでも大丈夫だよ。実践は久々だからちょっと緊張するけどね」
エファさんが火魔法を発動させると、ほぼ同時にリースさんが魔符で風魔法を発動させる。
すると、炎が勢いよく押し出され、かなり遠くまでを焦がす炎の渦となった。
「すごーい……」
夫婦の息のあまりのぴったりさにリーファは尊敬のまなざしで2人を見ている。
あたしも同感で、久しぶりにも関わらず完璧なタイミングなのには驚きを隠せない。
「ふふ、いいところを見せられたかしら」
「リーファとアリスの前だからね、つい張り切っちゃったよ」
「さ、それじゃリーファとアリスもやってみて。初めはうまくいかないと思うけど、できたときの喜びは格別よ」
「うんっ!」
こうして、あたしとリーファの合体魔法の練習が始まった……のだが。
『そういえば、あたしの魔力どうするんだろう?』
2回も使えば魔力切れなんだけど……魔力をリーファに供給してもらうにも限度があると思うんだけど……。
「ねー、ママ。アリスは2回しか魔符を使えないけどどうするの? 私の魔力を分けてあげればいい?」
「そうね、そうしてちょうだい。リーファの魔力も切れそうになったらわたしがリーファに魔力を分けてあげるわ」
なるほど、確かに現役の魔法使いのエファさんなら魔力もたくさんあるんだろうな。
……ん? 最初からエファさんがあたしに魔力を分けてくれればもっと早く供給できそうなんだけど。
いや、違うかな。たぶんこれはエファさんの心遣いだろう。
もしあたしがエファさんに魔力供給してもらうとしたら、あたしとエファさんが恋人繋ぎすることになる。
そうしたらリーファが焼きもちを焼くかもしれない……でも、それはそれで見てみたくはあるんだけど。
「ね、アリス。早くやろう!」
そんなことを考えていたら、リーファはもう待っていられない様子。
そうだね、新しい事をするのって楽しいもんね。
よし、それじゃやってみますか!
**********
『む、難しい……』
「うー……なかなかできないね……」
魔力供給をもらいながら既に20回ほど練習を重ねたが、エファさんとリーフさんみたいな完璧な連携はまだまだできない。
それでもちょっとした炎の渦ならできるようになってきたので、成果は上々だと思う。
でも、リーファは2人みたいな完璧な連携をしたいんだろうなというのは伝わってくる。
「まあ、僕たちが完璧な連携を取れるようになったのは練習してから2週間は必要だったからね。むしろ初日でここまでできればすごいと思うよ」
「そうそう。それじゃ、がんばったご褒美に今日はハンバーグにしましょ」
「……! やったぁー!」
悔しそうな顔から一変、リーファは満面の笑みを浮かべる。
さすがお二人ともリーファの喜ばせ方が分かってらっしゃる。
「さ、汗もかいたしお風呂に入ってらっしゃい」
「はーいっ! 行こ、アリス!」
**********
「えへへー、今日は楽しかったね!」
『うん、新しいことが段々できるようになるのって楽しいからね』
「それでね、魔力供給も上手になったってママに褒められたの!」
そういえば、確かに以前の時よりも一回での魔力供給の量が増えたかも。
リーファ、魔法に関してのセンスがあるんだなあ。
「あとね、魔力供給の時に手をつなぐの、好きなの」
『えっ……?』
「手をぎゅって握るとね、アリスの手があったかいのが分かるの。それとね、手のひらのお肉が気持ちいいの!」
ああ、肉球のことね。
確かにあたしも猫の肉球ぷにぷにするの好きだったなあ。
『それじゃちょっとやってみる?』
と言わんばかりにあたしは両手を差し出した。
それに応えるようにリーファはあたしの両手を握り返し、ご満悦の様子だ。
「えへへ、ありがと、アリス」
その天使のような笑顔にあたしの胸は高鳴ったのだった。
**********
「いいね、これなら実戦でも充分に使えるよ」
「やったーっ!」
それから3週間ほどが経ち、ついにあたしとリーファの合体魔法の成功率が8割ぐらいになってきた。
失敗しても炎の渦を作ると言う合体魔法自体は成功している……例えば飛距離が足りないなどの失敗があるぐらいで、実戦で使う分には問題ないということだ。
「もうそろそろ初めての狩りをしてもいいかもしれないわね」
「狩り! いいの!?」
「ええ、リーファもアリスも充分戦えるわ。ただし、近接戦闘ができないから、護衛を2人ほど付けることになるわね」
「それならあの2人がいいと思うんだが……エファ、どうかな?」
あの2人? 誰だろう。
「わたしもいいと思うわ。リーファ、アリス、ちょっと待っててね」
それからしばらくして、エファさんは男女それぞれ1人ずつとそのパートナーたちを連れてきた。
パートナーの子たちはあたしと同じ種族のようだ。
「彼らは僕の直属の冒険者たちだ。自己紹介をよろしくお願いするよ」
「お初にお目にかかります、私はライ、こちらはパートナーのギィです」
「お初にお目にかかります、私はレイ、こちらはパートナーのフィリーです」
ライさんは男性剣士、ギィさんは爪っぽい武器を持ってる獣の男の子。
レイさんは女性騎士、フィリーさんは槍を持ってる獣の女の子。
といった感じかな。
『あなたがリーファ様の……その弓の腕前、気になるわね』
『ああ、オレも気になる。今までいなかったタイプのパートナーだからな。今度腕前を見せてくれ』
『はい、あたしもお2人の強さを拝見したいので、今度ご一緒しましょう』
あたしは言葉が通じるパートナーの子たちと会話をする。
その横でリーファはライさんとレイさんと話をしている。
誰とでも仲良くできるの、リーファのいいところだよね。
「この6人でしばらく連携の訓練をしたら、初めての狩りに行ってきて欲しい」
「でも、無茶はしないでね。近くの森だからそんなに危険な魔物はいないけど、最近は物騒だから……」
「彼らはランクCの魔物でも余裕で倒せる実力の持ち主だからね、その点は心配いらないよ」
なるほど、かなり高位の冒険者なんだな。
それならすごく安心して任せられそう。
それから数日して、あたしたち6人は連携もこなせるようになり、リーファとあたしの狩りのデビュー日が決まることになる。
その日まであたしたちはライさんたちの足を引っ張らないよう、充分に訓練するのだった。