第八話 宿泊施設も協会の恵み
魔物どもを退けてから植物を集めきるまでそう時間はかからなかった。もともと結構な量は集まっていたんだ。邪魔さえ入らなければ、もうとっくに帰っていただろう。
まあそのおかげで自分の能力がわかったから、トータルで考えるとプラスか。来た道を真っすぐ戻る。見晴らしがいいだけあって、迷うこともなく簡単に森から出られた。
本当に魔物さえ出なければ一般人でも採集に来ることができるくらいの拓け具合だ。魔物を殲滅できたらさぞ便利だろうに。俺の仕事はなくなってしまうが。
森の出口からギルドまで帰る道すがら、街並みを改めて眺めてみる。夕焼けに照らされて、どこか郷愁を感じさせるような景色。こんな場所に住んでことはないんだがな。
そういえば、と思い出す。俺、今夜どこに泊まろうか?ギルドがあるくらいなんだから、冒険者を泊める宿もどこかにあるはずだ。持ち家がある冒険者なんて、想像しにくいし。
納品ついでに受付嬢に聞いてみよう。今日の依頼の報酬で足りるかは知らないけど。
「あ、それならギルドに下宿していただこうと思ってましたけど」
「え?」
植物の詰まったポーチを渡しながら宿の場所を尋ねた俺に、受付嬢はそう答えた。ギルドに下宿?
「新人冒険者向けのサービスなんです。依頼をこなして稼げる額よりも宿泊費の方が高くなりがちなので…………」
「ありがとうございます!」
宿泊費を浮かせられるなら是非もない。こんなにありがたいシステムがあるなんて。
「その代わり、毎日斡旋する依頼をこなしていただきます。依頼料はもちろん全額お支払いしますよ。自立のための訓練だと思ってください」
「はい!是非ッ!」
あまりにも整備された制度に、感動さえ覚える。まるで俺のためにあるようなシステムじゃないか。いや、実際俺は新人冒険者で、これは新人冒険者のためのシステムなんだけど。
「それじゃあ、こちらにどうぞ~」
受付嬢に案内されて、俺はギルドの裏に回る。そこには小さなアパートがちょこんと佇んでいた。寮と言った方が適切か?どちらにせよ、住むのに困りはしなさそうだ。
「今のところ入居者はあなただけなので、好きな部屋を選んでいいですよ!」
「じゃ、この部屋で」
俺は日当たりの良さそうな部屋で即決。他に気になる条件もないし。
「こちら鍵です!今日はもう遅いので、ゆっくり休んでくださいね~」
受付嬢は俺に鍵を渡すと、さっさと立ち去ってしまった。まだ業務が残ってるのかもしれない。手間をかけてしまったな…………。
何はともあれ、これで俺は住処を手に入れたわけだ。それと同時に、帰る場所も。
俺はベッドに寝そべり、天井を見つめる。部屋は比較的新しく、俺が前住んでいた部屋よりもいいかもしれない。通信環境がないのが現代人の俺には堪えるが…………。
今更そんなワガママは言うまい。現状、生きているだけでも奇跡なのだ。当面の仕事も寝床も確保できたし、しばらくは安心だな…………。
そんなことを考えているうちに、俺はいつの間にか眠ってしまっていた。
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