第七十話 絶望根底の記憶は深く
構内に入り込み、説明会の案内看板を探した。しかし、どこにもなかったのだ。日時を間違えたかと思い確認してみると、間違いなくその日その時間で。開始10分前だったから、早く着きすぎているわけでもなく。どうするか迷った俺は、数分悩んだ末に事務を訪ねることにした。ここまでやって入れませんでしたじゃ、やってらんないから。結果論だが、俺はあそこで諦めて帰っておくべきだった。近くにあった地図を頼りに事務を探し、学生課の札がかかっているところに声をかけに行った。
「すみません、あのー……」
それは自分でもはっきりわかるくらい小さくか細い声だったが、俺にしては勇気を出したほうだった。何せ今まではほとんど黙りこくっていたのだ。声に出せただけマシなほうだった。
「どうしました?」
驚くべきことに、事務の人は俺の声をしっかり聞いていた。いや、挙動不審な俺を見て牽制代わりにそう言ったのかもしれないが、とにかく助け船を出してくれた。それに対する俺の返答が
「あのっ……説明会……」
である。こんなの警備員を呼ばれてつまみ出されたっておかしくはないのだが、その事務の人は冷たい視線と共に、呆れたようにこう吐き捨てた。
「ああ、ウチの説明会の……でも、今日はなかったと思いますよ?」
顔から火が吹き出るかと思った。後日届いたメールでわかったのだが、偶然事務に連絡が行っておらず、準備できていなかったらしい。だからこれに関して俺に非はないのだが、俺はすいませんとかごめんなさいとか、そういったことをぶつぶつと呟いて、その場から逃げ出してしまったのだった。そもそも日にちを間違っていないかなど、既に確認していたのに。
後日届いたメールにはお詫びに加えて次の開催日程や参加できないかなどのお知らせもあったが、俺は無視した。どの面下げて行けばいいというのか。それ以来俺は大学に行くことが怖くなり、受験に合格こそしたものの不登校気味で、ただでさえ下にいたのがさらに転げ落ちることになるのだが、それはまた別の話である。
最悪な思い出に浸っていると、いつの間にか教室に着いていた。一つ一つの部屋はそんなに大きくなく、どちらかというと駅前の英会話教室を彷彿とさせるような広さだ。まあ、通ったことがないからイメージでしかないけど。
「こちらの書類に目を通しておいてくださいね。必要なことは全て書かれていますので。もしそれでもわからないことがあれば、私は受付にいますので。それでは」
手短に説明を済ませると、スクールの受付嬢さんは颯爽と立ち去ってしまった。
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