第七話 絶対絶命に祝福は啓く
身動きが取れないなかで、大量のゴブリンに囲まれている。まさに絶対絶命。ゴブリンどもはすぐに俺を殴らずに、ニヤニヤとこちらを見ている。
バカにしてんのか。ムカつくが、今のところ俺にできる抵抗はない。いくら子ども並の腕力とはいえ、袋叩きにされてしまったら無事ではいられないだろう。
身をよじったり這い出たりしようとするが、上手くいかない。足に蔦が絡まっているようだ。ゴブリンにしては賢いな。いや、嵌った俺がマヌケだっただけかもしれないが。
俺がこんなに余裕のある思考ができるのは、ゴブリンがいつまで経っても攻撃してこないからだ。ただイタズラが好きなだけで悪い種族ではない、のか……?
だとしてもかなり悪質だが。一般人がわざわざ依頼してきたのも頷ける。こんなのにいちいち構うのは面倒だ。
不意に影が伸びる。ゴブリンの親玉でも来たのか?俺は見上げる。そこにいたのは二足歩行の豚――多分、俺が知るところのオーク。握る棍棒は電柱ほどあり、
あれに叩かれればひとたまりもないだろう。焦るが、やはり俺にできることはない。短剣は落ちる時に少し離れたところに刺さっている。ナイフはポーチの横に収納したまま。
拳を振り上げてもせいぜい近くのゴブリンを小突くくらいが限界で、のそのそと歩いてくるそいつを待つことしかできない。
左手が踏まれる。オークは見た目通り重く、かなりの体重が手にかかっている。痛い。オークがのっそりと棍棒を振り上げる。頭が柘榴のように飛び散る様を幻視する。
棍棒の動きがやけにゆっくりに感じる。これが走馬灯なのか?腕で庇っても防げる気がしない。死が勢いよく迫ってくる。
「やめろぉ!」
情けない断末魔を上げながら、俺は無残な首無し死体に――ならなかった。目を瞑ったまま、体感で数分ほど。いつまで経っても振り下ろされない棍棒を不審に思って
目を開けると、オークは確かに俺を殴っていた。しかしながら、俺にはかすり傷一つついていない。それどころか、叩かれている感覚さえない。
オークは影の鎖を纏っている……というか、纏わりつかれている?これが俺の能力…………?ゴブリンは現状を理解できていない様子で、俺とオークを交互に見ている。
オークは何度も俺に棍棒を叩きつけていたが、やがて疲れたようで諦めてどこかに行ってしまった。それに追随するようにゴブリンどももまばらに散っていく。
残された俺は足に蔦が絡まったままで動けない。ひとまずの危機は去ったが、依然として状況は良くないままだ。結局俺は落とし穴に嵌ってもがいていただけ。
それはそうと、オークに絡まっていた影の鎖(多分俺の能力)はなんだったんだ?俺はただ死にたくないと思っただけで、特に何か念じてもいない。
能力が発動するような何かがあったとは思えない。あったのはせいぜい命の危機くらいだが…………それならつい昨日の事件でも発動していないと辻褄が合わない。
あのことは、思い出しただけでも身震いが止まらなくなる。夢だと思っていた俺の眼前に、急に突き付けられた死。今まで味わったことのないような恐怖。
身体から力が抜けて、穴により深く嵌る。頭が真っ白になりそうになる。でもダメだ。せっかく助かったこの命、無駄にするわけにはいかない……!
ひとまずここから脱出することだ!俺は這い上がるためにもがく。あれ……?いつの間にか蔦から抜けている。あっさりと穴から出られた。
もしかして、さっき少し落ちた時に解けたのか?何はともあれ、これで採集を再開できる。俺はナイフを取り出して、植物探しを始めた。
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