第六話 転生貧者に依頼の恵み
森への道は思ったよりもわかりやすく、ものの十数分で到着した。これなら俺にもできそうだ。俺は多分受付嬢の言うところの冒険者の心得なんてものは持ち合わせちゃいないが、街にもだいぶ近いし、少なくとも命の危険はあるまい。
準備の時に貰った森の地図を片手に、俺はどんどん進んでいく。目的の植物はそこら辺に生えており、まさに初心者がこなすためのチュートリアルのような依頼だ。一応、量が必要とのことなので採取しながら奥に進む。今のところ魔物にも遭遇していないし、この森は実は安全で、受付嬢が言っていたのは俺が油断しないための嘘だったんじゃないか?まあ、それはそれとして警戒は怠らないが。これで本当に魔物が出てきて大怪我でもしたら、彼女に会わせる顔がない。こんな簡単な依頼を斡旋してくれたのだから、俺もそれに答えねば。
そう考えながら、俺は奥へと進んでいく。視界は比較的良好で、結構先まで見通せる。だからこそ、俺は油断していた。魔物が現れてもすぐに気づくことができるだろう、と。
後ろから不意打ちを受けた。威力としてはちょっと強く小突かれたくらいで、怪我にもならない。誰か他の冒険者がいるのだろうか、そう思って振り返った俺の顔に、思いっきり棍棒が叩き付けられた。とは言っても、これも大して痛くない。せいぜい子どもの腕力といったところだろうか。念のため距離を取りつつ、相手を睨む。
ゴブリンだ!小学校中学年くらいの背丈に、醜い顔をしている生き物。右手には小さな丸太をちょっと加工しただけの棍棒を握っている。俺の手元にあるのは採集用のナイフと、ギルドから支給された短剣だけ。リーチだけで言えばこちらが有利だ。相手も一匹だけのようだし、戦闘の練習としてはうってつけだ。ナイフをしまいつつ短剣を構え、じりじりと距離を詰める。それに対してゴブリンは問答無用で走ってきている。
生まれてこの方剣術など習ったことのない俺に、上手く短剣を扱えるとは思えない。ゴブリンは飛び跳ねるようにしながら近寄ってくる。ゴブリンが大きく飛び上がり、棍棒を振り上げたその隙を狙って――斬る!
ズザ。かなり鈍い音と共に、ゴブリンの腹に短剣が刺さる。俺は腕を大きく掲げ、ゴブリンが落ちてしまわないようにする。ゴブリンはしばらくもがいていたが、そのうち動かなくなった。短剣を引き抜き、俺はその場を後にする。初戦闘――相手は雑魚だったとはいえ――に勝利したのだ!なんだ、剣の才能がなくてもこれくらいならできるじゃないか。植物を採りながら、俺はスキップ混じりに探索していた。
していたら、穴に落ちた。自然にできた窪みなどではなく、明らかに作られた落とし穴。いくら調子に乗っていたからと言っても足元はしっかりと見ていたし、まして自分の半身が埋まるくらいの穴を見逃すはずがない。一体誰がこんなことを?俺の疑問に答えるようにして、そいつは、いや、そいつらは出てきた。
ゴブリンだ!
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