第五話 危機一髪の事件は去りて
目が覚めて、一番最初に目に入ってきたのは見知らぬ天井だった。俺は思わず起き上がる。
夢じゃない。改めてその事実を認識する。横っ腹には確かに怪我の痕があるし、触れたら痛みで
熱を持っているのがわかる。
「生きててよかった…………」
本音が口をついて出る。怪物の光弾を食らったとき、本当に終わったと思った。俺はここで死ぬんだと。
でも、まだ生きている。見知らぬ誰かに助けられて。
「あー、よかった!目を覚ましたんですね!」
生を実感している俺に声をかけたのは、(多分)白魔術師の女性。ゲームやアニメで見るようなヒラヒラの多い衣装ではなく、シンプルにローブだけを纏っている。
「ありがとうございます。助かりました……」
「回復しているようでよかった!じゃ、さっさと出てってくださいね♪」
礼を言う俺に、無慈悲な一言。何か悪いことでもしたか?
そんな俺の疑念に答えるかのように、彼女は続ける。
「怪我人が多くて、ベッドが足りていないんです。回復した人から出て行ってもらってますから」
なるほど、そういうことか。俺は軽く頷くと、脇腹をかばいながら立ち上がる。
「お大事にー!」
ややおぼつかない足取りで部屋を後にする俺に対して、彼女はそう言いながら次の怪我人の手配をしていた。
さて、これからどうしようか。これが夢ではないとわかった以上、覚めるのを待つこともできない。生きていくには金がいる。ひとまずギルドで依頼をこなすか。俺にもできる仕事があればいいんだけど。そこまで考えて思い出す。そういえば、俺の祝福はなんだったんだろうか。如何に弱い能力だったとしても確かに受け取ってはいるはずだし、まずはその能力を把握しないことには計画も立てようがない。これが例えば戦闘向きの能力でなかったとしたら、俺は平均以下のステータスを持った貧弱新米冒険者でしかない。勿論鍛えれば少しくらいは伸びるかもしれないが、どうせなら貰った才能を活かしたほうがいいだろう。
そう思いながら俺が向かったのは、結局ギルドだった。難しいことを考えるのは後にして、今はとりあえず日銭を稼ぐことを考えよう。食事と宿泊の分は確保しておきたい。
「あっ!無事だったんですね!?」
入るなり、俺の能力を測定してくれた受付嬢に声をかけられる。この心配っぷりを見るに、俺が部屋を抜け出していたことはもうバレているのだろう。
「すいません、ご心配をおかけして…………」
「ホント、びっくりしましたよ……。終わった後に戻ってきたらいないんですもん」
その表情からは本当に心の底から俺のことを思っていたことが伝わってきて、申し訳なくなってくる。勝手な行動は控えることにしよう。
「それはさておき、俺にもこなせる依頼ってありますかね……?」
恐る恐る聞いてみる。このぶんだと「お前に依頼はまだ早い!」と言われても文句を言えない。
「ご用意してあります!」
これまでの表情が嘘だったかのような満天の笑顔。俺は少し面食らいながら、しかしそれに食らいつく。
「あるんですか!?」
「森の外れに生えている植物の採取ですね。魔物が出るので一般人には少々危険ですが、冒険者なら楽々こなせると思います!」
植物の採取か。それなら俺にもできそうだ。依頼を受注することを伝え、目的地の森を教えてもらったり、植物を入れておくためのポーチを貰ったり、諸々の準備を済ます。
「ポーチは支給品なので、納品の際にお返しくださいねー!それでは、いってらっしゃい!」
元気な笑顔で見送ってくれる受付嬢に、俺は振り向かず片手をあげて返事する。さあ、初めての仕事の始まりだ。
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