第四十五話 動転の一日
そうして俺が連れてこられたのは、昼食を摂った酒場だった。
「お前新米っぽいし、ここ知らねえだろ?すげえ料理が美味いんだよ」
知ってるし食っている。けど、ここは下手なことを言って刺激しないほうがいいだろう。捕まった以上、一刻も早く逃げられるように話を進めないと。
「そうなんですね!でも俺、今満腹で」
「大丈夫だって!見たら腹が減るような料理ばっかりだからよ!」
「それにほら、お金もないんで」
「えっ」
デクラインがポカンとした顔になる。まさか俺に奢ってもらうつもりだったのか?
「あんなに活躍したんだから、それなりに報酬も貰ってんじゃないのか?それとももう使い切ったとか?」
「報酬とかは何も貰ってませんけど……?」
そもそも俺はそんなに活躍してないし。
「なーんだ、悪いけど俺も持ち合わせねえんだよ。今日は解散だな……」
「あ、はい」
残念そうに頭をボリボリ掻いてどこかへと行くデクライン。既に店内に入っているのに何も注文せずに帰るのは気が引けるが、それはそれとして本当にお金はないので頭を下げながら店を出る。助かった………!
ひとまず難を逃れたものの、他の理由でまた声をかけられないように、俺は急いで帰途についた。
そして自宅。気づいたらもう日は傾き始めていて、街が夕陽に照らされていた。不愛想な奴と実力に合わない依頼を受けたことに始まり、迷惑な大男に絡まれて終わった一日だった。なんて最悪な一日だ。それでも新しい武器を手に入れられたのは収穫だった。これでこなせる依頼の幅もぐっと――とまでは行かなくても、まあまあ広がるはずだ。これまで無いに等しかった攻撃力が増えたのだから。
夕食の前にさっさと銭湯にいってきて、大人しく受付嬢さんを待つ。暇なので今日買った杖を眺めてみる。少し歪んだ形の杖に、羽根のついた環がいくつかついている。俺には魔道具っぽいということしかわからないが、多分何らかの魔法的意味があるんだろう。杖にも何か模様が彫ってあるし。
「あのー…………」
控えめなノックと共に、受付嬢さんの声がする。夕食だ!俺は軽い足取りで扉を開ける。どんなに疲れた一日でも、あの夕食でいくらか回復する気がする。密度の高いパンに練り込まれた具材は、うるさくない程度に自己主張してくれる。無料で提供されているとは思えない、最高の食事だ。
「こちら、夕食ですね」
差し出されたバスケットを俺が受け取ろうとすると、受付嬢さんは手を引っ込める。受付嬢さんがそういうイタズラをするタイプとは思ってなかったな。
「お渡しする前に、言わなければならないことがあります」
「なんですか?」
「明日から、少しの間依頼をお休みしていただきます」




