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第四話 現実逃避も泡沫に消ゆ

 爆発音と同時に、地響きが生じる。どうやら何か事件が発生したようだ。もしかしてここで俺の能力が発揮されるのか?音が聞こえてきた方向を睨む。

「あなたも冒険者の一端としては気になるかもしれませんが……危険です。隠れておいてくださいね」

 彼女はそう言いながら、自分は受付の方に駆けていった。恐らく事態の解決に向かったのだろう。

俺は自分の手のひらを見つめる。この手に秘められている、その能力を想う。

未だどんな能力か知る由もないが、この事態を解決するには十分だろう。むしろ、ここで使わなければ

いつ使うというのか。ひとまず更衣室を経由して外に出て、様子を伺ってみる。

「クソッ!こんな街中に出るなんて聞いてねえぞ!」

「白魔術師の方はこちらへ!前線の援護よりも治療を優先してください!」

 ギルドに残っていたのは俺一人のようで、他は全員外で大騒ぎだ。一体何が起こっているんだ?

俺はてっきり、誰かが爆破テロを仕掛けたとかそういう話だと思っていたが。それにしては誰も彼も苦戦している。そこまで強大な敵ということか?なんにせよ、ここは俺の夢。俺より強い存在など(事実上は)存在しないはずだ。ゆっくりとした足取りで表に出る。

 結論から言うと、そこにいたのは巨大な怪物だった。端的に言うと悪魔将軍とかそういう見た目で、禍々しい角といくつもの腕、その全てから描かれている魔法陣。どれを取っても勝てる気がしない。そう、俺がただの新米冒険者なら。でも俺は違う。この世界の主である俺に、倒せない存在はいないのだ。ノートに書かれた魔物が、丸めて捨てれば死ぬように。

 俺は戦線の最後方のそのさらに後ろで、一つ息をつく。そして怪物に手をかざし、こう叫ぶ。

「消えろッッッッ!!!!」

 刹那、俺の手から数多の光が放たれ、怪物を貫く――ことはなかった。何も起きない。なんだ、違うのか?

それならばと、俺は再び手をかざし唱える。

「黒鉄の杖、月桂樹の剣。我が詠唱に応じ、虚空より穿て。……エリミネイト・ドミナンス!」

 …………。またしても不発。この呪文は俺が中学生真っ盛りの頃に考えたもので、まあ要するに黒歴史なのだが、こんなところで披露する羽目になるとは思わなかった。誰も聞いていなかったのが不幸中の幸いだろう。

それにしたって、俺の能力の発動条件はなんなんだ?それくらいは聞いておくべきだったか?いやでも、俺の思った通りの行動で発動するんじゃないのか?それとも……俺も夢の世界で動いている以上、ここに存在するルールに縛られているとか?何もわからない。改めて、ここが異世界であると実感する。急に心細くなってくる。いや、ここで諦めてはいけない。俺が弱気になればなるほど、俺は窮地に立たされるだろう。必要なのはそう、自信。さっき能力が発動しなかったのは具体的なイメージが足りなかったからなのだろう。俺の前に浮かぶ大量の魔法陣と、そこから放たれる光を想像する。今度こそ。

「黒鉄の杖、月桂樹の剣。我が詠唱に応じ――」

 刹那、怪物の放った光弾が戦線を超えて俺の元まで飛んでくる。身体をかすり、後ろの地面を抉り取る。

 その途端、足元から崩れ落ちてしまった。こんなの、勝てるわけがない。

 かすった横腹からは血が溢れでてきて、痛みがじわじわとはっきりしていく。自分が負傷していることを伝えてくる。


 これは、夢ではないのだ。俺は直感的に理解してしまった。

 今まで夢だと思っていたことは全て現実で、俺は死んでいて、どういうわけか異世界に転生して、与えられた能力を満足に使うこともできず、ただ茫然としている。

主人公でも、この世界の創造主でもなかったんだ、俺は。血は止まらない。怪我自体は大したことがないかもしれないが、どくどくと身体を伝う血の感覚にくらくらする。

腰が抜けて、怪物に対して腹を見せて降伏したような姿勢になる。血が抜けていく感覚だけがくっきりとしていて、それ以外はぼやけている。もうダメだ。

遠のく意識の中で、俺は怪物を包む大きな光の柱を見た。

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