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第三十六話 無能教官と無能の腐り

「確かに、俺は助けを無視した」


「え!?」


 受付嬢さんは当然の困惑。というか、こいつの声を聞いたのは出発前に挨拶されてそれっきりだ。だからはっきりと覚えているわけではないが、出発前の時よりも少し柔らかい声になった気がする。相手が受付嬢さんだからだろうか。だとすればどれほど俺を敵視しているんだという話だが、それももう今更か。


「だがそれは俺が助けるまでもないと判断したからだ」


「じゃあその時そう言ってくださいよ……」


「…………」


 俺のことは相変わらず無視。ここまで来ると笑えてくるな。何か恨みでもあるのか?


「まあ、今日はお疲れ様でした……。ゆっくり休んでくださいね」


 受付嬢さんも変わらず優しい。爪の垢を煎じてあいつに飲ませてやりたい。ひとまずもうできることもないし、家に帰ることにしよう。


 徒歩数秒で家に着き、俺はベッドに寝転がる。多分、まだ正午を過ぎてちょっとくらい。時間はあるが特にやりたいこともなく、そうなればただ天井を見つめてぼんやりするだけで時間を浪費することになる。


 コンコン。


「ちょっといいかな?」


 控えめなノックと爽やかな声。俺は緩慢とした動きで扉を開ける。こいつは――


「やあ!今ちょっと時間あるかい?」


 グロウスだ。今はこの爽やかさに救われる。


「昨夜のことについて。心当たりあるだろ?」


「そりゃまあ、心当たりありまくりですけど……」


 やっぱりその話か。いや、このタイミングでわざわざ来るってことはそれしかないだろうけど。


「別に尋問しようとかってわけじゃなくて、怪物を退治したのが君ってウワサが本当か気になっただけだよ。実際どうなの、そこらへん?」


「退治というほどのことはしてないですよ……俺はあくまで俺の"祝福"を使っただけですし」


「ああ、前に君が言ってた……!確か無力化の鎖だっけ?<バインド>によく似てる」


「そうです。効果があるかわからないんで、とりあえず試してみたんですけど……」


「見事発動して、怪物を無力化したと」


「逃げられちゃいましたけどね」


 そう、それこそが俺の祝福の問題点。攻撃力が一切ないから、本当に無力化しかできない。


「あ!でも今日一つ収穫があったんですよ!」


 フレイルの野郎と違ってグロウスは信頼できる。どうせ"祝福"のことも異世界転生者であることも知られているし、今日のことを話しても問題ないだろう。


「今日依頼でアルラウネの根を討伐しに行ったんですけど、俺が見つける前に祝福がアルラウネの根を拘束したんですよ」


「なるほどね……自動で対象を追尾するわけだ」


「みたいですね。俺も今日初めて知りましたよ」


「で、アルラウネの根は倒せたのかい……?」


 ちょっと悪戯っぽい笑みを浮かべつつグロウスが聞いてくる。からかわれているな……。


「逃げられちゃいましたよ、ええ!俺はまだ無力ですからね」


「まあまあ、そもそも君くらいの冒険者がアルラウネの根の討伐依頼を受けること自体が珍しいんだからさ。そう落ち込むことはないよ」


 爽やか笑顔で慰めてくれる。そうだ、せっかくだから愚痴ってやるか。

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