第三十三話 依頼道中は天使の道
平原に行くまでの道中、俺たちの間に会話は一切なかった。気まずくなった俺が何か話を振っても全て無視。本当にこんな男に教官が務まるのか?まあそもそも受付嬢さんの話の真偽も怪しいもんだけどな。あの反応から察するに、俺の実力を測るとは言っても、要注意人物がどんな能力を持っているのか把握するためのお目付け役なのだろう。だからといって、こんなに不愛想なのは予想外だが。普通、表面上だけでも温和に接して情報を探ろうとするものじゃないのか?それとも、あえて冷たくすることで本性をさらけ出すのを待っているとか?
まあ、こいつの事情を俺が考えたってしょうがない。俺が危険人物でないのは俺が一番よく知るところだし、普通にやってれば問題なく終わるだろう。問題は、依頼内容そのものだ。
「アルラウネの根の討伐」。この根にどれほどの戦闘力があるのかはさっぱりわからないが、さすがに耐久が低いということはないだろう。そうなると、俺は手も足も出ない。こちらへの被害を零にするだけで、相手にダメージを与えられるわけじゃないんだから。俺の武器は最初に支給された短剣だけで、他に魔法が使えるわけでも道具が使えるわけでもない。久しく運動らしい運動をせずにパソコンと向き合っていた人間に筋力があるわけもなく、つまり俺にできるのは一生懸命に剣を振るうことだけだ。しかも剣術のけの字も知らないから、きちんと剣を振るうことすらもままならないし。
それはそれとして、できる限りのことはしなければならない。受付嬢さん曰く、アルラウネの根がある場所にはアルラウネが密集している傾向があるとか。一つの大きな根から大量のアルラウネを生やしているからそうなるらしい。ではなぜそんな簡単に居場所を特定できるのになかなか駆除できないかと言うと、根っこのくせに意思を持っていて危険を感じると逃げてしまうからなのだとか。しかもその逃げ足ときたら、並大抵の人間では追いつけないらしい。どうにか追いついて倒したとしても、文字通りの根絶やしにするのは難しく、いつの間にか株を分けて自分の一部を逃がしているのだとか。つまり、俺に倒すのは到底無理だということだ。
そこでフレイルの出番というわけだ。恐らく――というか十中八九、これを想定しての人選なのだろう。俺が危険人物で歯向かったり不審な挙動をしていても対応することができ、なおかつ俺が人畜無害なポンコツだった場合でも依頼を達成して(少なくとも安全は確保して)帰還することができる。俺は見ただけで実力がわかるほど目が肥えているわけではないが、多分フレイルは並大抵ではない実力者だろう。教官をしているらしいし、ただならぬ気配を放っているし。これでただ不愛想なだけのでくのぼうだったら笑ってしまう。いや、笑っている場合ではないのだが。その場合、この依頼を達成できる公算が限りなく低くなるし。
アルラウネが大量発生する場所と聞いて俺が歩を進めていた先は、前回依頼で訪れたのと同じ場所だった。案の定大量のアルラウネが飛んだり跳ねたりやかましく踊っている。今からこいつらを全滅させるのかと思うと少し罪悪感が湧くが関係ない。これも仕事なのだ。というか、よく考えたら俺はこいつらのせいで前回酷い目に遭っていたのだった。ならば何もためらうことはない。根伐りさせてもらおうじゃないか。
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