第二十九話 巨大怪物も祝福に退く
「拘束せよ、影の鎖…………!」
怪物の前に小さな魔法陣が一つ形成され、回転する。そこから一本の鎖が放たれ、怪物の周囲を駆け巡る。たまに怪物に突き刺さりながら。
冒険者たちは一瞬呆気に取られて、怪物が影の鎖に絡みつかれる様子を見ていた。しかしそれを怪物の魔法だと思ったのか、恐らく魔術師の冒険者たちが一斉に詠唱を始める。みるみるうちに怪物と俺たちを分かつ防壁が展開されてゆく。端まで防壁が形成し終わると、ちょうど鎖の動きも止まる。
さて、どうなるか。俺の能力が通るなら無力化されているはずだが。怪物は数多の腕で奇妙な動きをしたかと思うと、魔法陣をいくつも展開した。そしてそこから放たれる光弾。残念、さすがに効くわけないか――そんな俺の落胆は、防壁にぶつかってあっけなく散る光弾によって裏返った。上手く行った!?
「馬鹿な!?」
「前回の襲撃の時は容易く破られたのに……!?」
「気をつけろ、直接攻撃することが目的じゃないのかもしれねェ!」
冒険者たちは困惑しつつも、色々な可能性を考慮してきちんと警戒している。だが、そのどれもが無駄、というか不要なものだ。あの怪物はもはや何もできない。それでも怪物はお構いなしに魔法陣を展開し、色々な攻撃を放つ。光弾に、腕を用いた純粋な殴打。防壁を無視してこちら側に魔法陣を展開して爆発を起こしたり。そのどれもが無力。爆発に至っては明らかに消し飛ばされる距離で風一つ感じなかったから、よくできたCGでも見ている気分だった。どうやら魔法の発動自体はできるが、全て無力化されるようだ。行動そのものを制限できるわけではないことはわかっていたが、魔法もそうだとは知らなかった。これは研究する必要があるな。
怪物は一方的に攻撃されるしかないことを悟ったのか、自身を中心とした大きな魔法陣を展開した。魔法陣は激しく回転して、怪物を光に包もうとしている。
「マズい!逃げられるぞっ!」
叫ぶ冒険者の声。とすると、あれは転送魔法の類だろうか。さて、攻撃魔法でなくても無力化することはできるのか。大きな魔法陣が多重の小さな魔法陣を展開して、怪物をスキャンするように上下する。そして眩い光を放ったかと思うと、怪物はその場から消え去っていた。
なるほど。あくまでも攻撃力を零にするだけで、他の行動は一切制限できないようだ。となると、かなり使いどころが限られた能力になる。まあ、貧弱な俺が自分の身を守るにはそれなりに役に立つだろう。俺は祝福を貰った時の女神の様子を思い出し、自嘲する。なるほど、こんなに使いにくい能力なら渡すのが憚られてもしょうがない。それでも使い道がないわけではないし、無能力よりはいい。
「おい、あの鎖ってお前が出したのか?」
吼えたあと、ずっと事態を静観していた男が俺に話しかけてくる。結局こいつはなんであの怪物の居所がわかったんだろうか。それに、いきなり吼えるし。
「まあね」
「すげえじゃねえか!おい!」
突然肩を掴まれたかと思うと、思い切り揺さぶられる。比喩ではなく目が回る。力加減ってものを知らないのか?
当然周りの冒険者は、急に大きな声を出した男とそいつに揺さぶられている俺を見る。こんな形で注目を浴びることになるとはな。こいつがヤバい奴で名が通っているのかは知らないが、誰も助けてくれる気配がない。ああ無情。離してくれと声を出すこともできないし、俺はこのまま中身がよく混ざるまでシェイクされてしまうのだろうか。
「ちょ、ちょっと待ってください…………!」
そんな俺に、救いの手が差し伸べられた。
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