第二十五話 異変惨状の正体は深く
ひとまず散らばっている衣服をかき集める。依頼はこれで達成したことにしよう。血の乾き具合を見るに、
この惨状は直近に作られたものではない。だから、恐らく原因の何か(あるいは誰か)がすぐに俺に牙をむく
ことはないと思う。だとしても、急いでここを出るべきだ。
幸い俺が入ってきたところの他に出入りできそうな穴は一つだけで、迷うことはなかった。
再び膝立ちでしばらく進むと、緩やかな坂道に出た。恐らくここが正しい入口だったに違いない。
少し違和感があるとすれば、あの空間から出た途端に血痕が消えていることだ。
ゴブリンがなんらかの理由であそこに集まっていた時にあの惨劇が起きたとすれば、全滅していても
おかしくない。
考えながら歩いていると、外の光が見えてきた。入口は葉を重ねたカーテンで巧妙に隠されている。
なるほど、罠を仕掛けるだけあって偽装するのは上手いらしい。外から見たら多分気づかないはずだ。
俺は葉のカーテンを押しのけて外に出る。何の変哲もない、最初に来たときと同じ、穏やかな森。
しかし、どこかに潜んでいるはずなのだ。ゴブリンを全滅させた原因が。あれが人為的にやられたものとも
思えない。それならそもそもゴブリン討伐の依頼なんてしないはずだし。とにもかくにも、今は帰るべきだ。
俺は必要よりもだいぶ多い衣服を掴んで、街へと駆け出した。
そして数十分後。俺は無事、ギルドに戻ってきていた。街に着いた途端に疲れと不安が一気にこみ上げて
きて倒れそうになったが、ふらふらとした足取りで俺は帰ってきた。
「お疲れ様です!きちんと回収してきましたか~?」
クタクタの俺を見て、受付嬢がにこやかにそう言う。俺は無言で獲ってきたものを渡した。
「こ、こんなに!?しかもこんなに早く……!凄いじゃないですか!」
「すみません、一匹も倒せませんでした……」
嘘をつく理由もないので素直に話す。異変のことも言わないといけないし。
「えっ?…………横取りとか、他の人に倒してもらったとか、ですか?」
「違います。……最初から、散らばってたんです。血痕と一緒に」
首をかしげていた受付嬢の顔が、鳩が豆鉄砲を食ったようになる。それはそうだ。いきなり受け入れられる
わけもない。
「たまたま罠にかかって、奴らの巣穴のような場所に落ちたんですけど、そこの大広間のようなところで。
大量の血痕と衣服が散らばってたんです。多分、跡形もなくゴブリンが殺されて……」
「それって、骨も残さず消えていたんですか?」
受付嬢の表情が厳しいものになる。
「はい、薄暗かったので確実に、とは言えませんけど。見える範囲に残ってはいませんでした」
「わかりました……ありがとうございます。これ、今日の分の報酬です」
受付嬢は一瞬苦虫を嚙み潰したような顔になったかと思うと、いつもの笑顔に戻った。
気になる。あの惨状の正体が。
「あの、あれって……」
「すみませんが、今お話しすることはできません。あと、他の皆さんにも秘密にしておいてくださいね」
普段と変わらない笑顔に見えるが、その奥には刺々しいものが見える。俺はわかりましたとだけ言い、
その場を後にした。
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