第十四話 大浴場で過去を顧る
幸い、中のシステムは俺の知っている銭湯とほとんど一緒だった。違う点といえば、シャワーの代わりによくわからない置物の口からお湯が出ていることくらいだ。
温泉などで見る、マーライオンのようなアレ。まさかこれを手に持って身体を流す日が来るとは思わなかった。そして驚いたのが、流しているだけなのに汚れが落ちていく点。
何かの魔法を使っているのかもしれないが、とにかく身体が綺麗になっていく。なかなか楽しい。
そんな風にして汚れも落としたところで、俺はいよいよ湯船に入る。正直なところ、俺は異世界でちゃんとした風呂に入れるとは思っていなかった。
良くてお湯を浴びるだけ、最悪行水すら覚悟していたというのに。こんなに広い風呂に入れるなんて。
今のところ、元の世界よりもあらゆる面で待遇がいい。現状、帰れる方法は手がかりさえないが、見つかったとしても帰る気にはなれない。
一つ、大きなため息を吐く。身体中の疲れが抜けていく気がする。この世界に来てから、本当に色んなことがあった。まだ三日しか経っていないのが信じられないくらいだ。
こうしてみると、俺はまだ異世界に来たということを飲み込めていないかもしれないことに気付く。あの命の危機でさえ、今となっては夢だった気がする。
これも今まで俺を助けてきてくれた人達のおかげだ。今はまだできることは少ないけど、これから恩返ししていきたいな。
気がつけばかなり長時間入っていたらしく、俺は軽くのぼせた状態で浴場から出る。着替えは俺のサイズより少し大きいくらいで、着るのに困りはしない。
袖に腕を通しながら思う。これ、まんまシャツだよな…………。もしたまたま見た目が似ているだけで、着方が全然違ったらどうしよう。俺は一抹の不安を抱えたまま、
受付のところに戻る。すると、そこにはまだ爽やかなアイツが待ってくれていた。
「あっ!出たんだね……お疲れ様」
「着替え、ありがとうございます。本当に助かりました」
「長かったけど、大丈夫だった?もしくは相当疲れてたとか?」
「アハハ、疲れてました…………」
その笑顔はもはや太陽。直視することもままならない。俺は腰を低くしたまま、礼を言いつつそいつと別れた。
そして帰宅。元着ていたジャージを抱えていて思ったが、これは一体どうしようか。そんな一瞬の悩みを他所に、腹は鳴る。
部屋には夕食の入ったバスケットと水差しが置いてあった。俺が風呂を求めて外に駆けだしたから、中に置いておいてくれたのだろう。少し申し訳ない。
バスケットからパンを取り出し、齧る。やはり美味しい。勢いよく食べ進み、気づいたら完食していた。
食欲が満たされると、今度は途端に眠くなる。ジャージのことは明日考えることにして、今日はもう寝るとしよう。
俺はベッドに倒れ込んだ。
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