はじめてのまほう
こことは異なる世界。
その名もなき「大陸」と周辺の島々を人々は世界のすべてだと思い、しかも遠距離の交通手段が未発達であったために、その「大陸」の全貌すらも知らない。そんな時代の物語である。
第1話 はじめてのまほう
1
「大陸」を東西に分かつ「巨壁山脈」と呼ばれる大山脈の東側に位置するオストニア王国、その西部に位置するエカテリンブル、通称「学園都市」で、リッリッサ・アウレリウスは、生まれ育った。現在5歳になったばかりの幼女で、4人兄弟の末っ子である。この国では本名ではなく愛称で人の名を呼ぶ習慣があり、彼女もリルと呼ばれていた。
自宅の縁側に腰かけ庭にいる人物の話に耳を傾けるリルの隣には、リルに非常によく似た少女が居た。それもそのはずで、2人は双子の姉妹である。名をモカイッサという。2人は、肩のあたりまで伸ばしたプラチナブロンドの髪をサイドポニーにまとめている。揃いの白いブラウスを着て、黒のジャンパースカートとニーハイソックスの間の絶対領域からは白磁のように白くすべすべした肌がその存在を主張していた。2人を見分ける外見上のポイントは唯一髪の結び目だけで、モカは右に、リルは左に結び目がある。
二人の愛らしい大きく円らな青い瞳が見つめる先にいる人物は、4兄弟の長兄、オルティヌスである。双子よりも3学年上にあたるが、誕生日の関係で現在7歳である。ちなみに4兄弟の次兄であるマルセルスは現在6歳で、今は友人と遊ぶ約束があるとかで、外出中である。
オッティが双子に何をしているかといえば、これがこの世界特有の現象である魔法の講義である。
「魔法は、属性式と術式によって構成されています。まず属性式というのが魔法の核となる部分で、魔法の効果の大まかな分類としての意味もあります。火、地、毒、水、氷、風、雷、光、闇の全部で9種類ありますが、属性ごとの研究の進み具合はバラバラなので、当面はよく使う火、地、風、雷の4属性を押さえておけば大丈夫です。術式は、属性式と結びついて、引き起こしたい現象を調整する役割を持つ紋様です。放出、維持、拡張、連結などなどいろいろありますが、これは個別の魔法を覚えるうちに、だんだん規則性が分かるようになれば充分です。」
と、7歳の幼児とは思えないほど難しい内容の講義を、すらすらと進めていく。そう、オッティは、いわゆる天才という部類に属する人物である。ただしこの手の天才にありがちなのだが、みんなが自分と同等の理解力を備えていると思っていた。講義の相手が5歳になったばかりの幼子であることを全く考えていない。事実、リルには兄の言葉はチンプンカンプンだった。
「習うより慣れろという言葉もありますし、実際に魔法を使ってみましょう。僕が『松明の火』の属性式と術式を書きますから、見ていてください。」
そういうとオッティは、手近にあった木の棒で庭の地面にサラサラと、我々の世界では魔法陣とでも呼ばれるような紋様を描いていく。ちなみに「松明の火」とは、小さな火の玉を持続的に発生させる火属性の普及魔法で、明り取りや種火の役割として、オストニアでは広く使われる魔法である。オッティは、紋様を描き上げると、その中心の特徴的な図形を持っていた木の棒で指示し、
「この真ん中の部分が火の属性式です。その周辺は、維持の術式ですね。属性式と術式を合わせた紋様を『呪紋』と呼ぶこともあります。
では、二人とも、この術式を頭の中で思い浮かべながら、両の掌の間に火を起こすイメージで魔力を流してください。」
双子は、揃って兄の言う通り「松明の火」に挑戦した。しかしながらその結果は、2人の見た目と同じように同一とはいかなかった。
「お兄ちゃん、お兄ちゃん。見て見て。できたできた。」
とモカは喜んでいるが、リルの合わせた掌の間には何も起こらない。
「1回目でいきなり成功してしまうなんて、モカはすごいですね。リルは呪紋を正確に思い描くようにして、もう1度チャレンジしてみて下さい。」
オッティは、成功したモカを誉めつつ、リルにアドバイスを送った。リルは兄のアドバイスに従い再度挑戦した。すると、
「・・・あ。」
瞬間、リルの両の掌の間に火の玉が発生したが、驚いたリルは集中を乱してしまい、直後に火の玉は消えてしまった。その間にも、モカの掌の間では火の玉が出続けている。
「リル、一応成功ですが、自分には燃え移りませんから火を怖がらないで下さい。持続して火を出せるようになるまで反復練習ですよ。」
オッティからリルにさらなる指導が入った。
そんなこんなで30分程が経過するころには、モカが肩で息をし始めた。
「モカ、それが、魔力切れの兆候です。魔力の源は、大気中に遍在するエーテルですから、魔力切れ気味になると呼吸が荒くなるのです。今日はこのあたりでお終いにしましょうか。」
リルは、成功したり失敗したり結果が安定しない状態であったが、オッティが講義の終わりを告げる。
「二人は魔法の練習を始めたばかりですから、まだ体の中に貯められる魔力が少ないのです。魔力量も筋肉と同じで鍛えれば増えますから、これから毎日練習を続けましょう。」
そう言うと、オッティは自分の稽古を始め、双子は明日以降も魔法の練習をすることを兄と約束して、家の中に戻った。庭にいては兄の稽古の邪魔になると経験上理解していたからである。
日が傾き始めたころ、次兄のマルセルが帰ってきた。帰宅するなり彼は、遊び疲れたのか居間のソファでうとうとし始めた。その横で、オッティは、何やら難しそうな本を読んでいる。リルは、二人の兄の邪魔にならにように、モカと小声でままごとをして遊んでいた。この瞬間だけを切り取れば普通の家庭に見える。が、わずか5歳のモカとリルが魔法の練習をしているところからもお察しいただけるだろうが、この家族は、およそこの世界の常識からみても異常である。その異常の原因は、この場にはいない、4兄弟の両親にある。
2
西の空が茜色に染まるころになると、決まってモカは、帰宅する両親、というより父を出迎えるため玄関に向かう。リルは、いつもモカの後ろに着いてこの恒例の出迎えに顔を出していた。ガチャリと玄関の扉が開く音がすると、
「ただいまぁ。」
「ただ今帰りました。」
と言って、4兄弟の両親、エルヌスとマルガリッサが帰宅した。直後、待っていたとばかりにモカが、
「パパ、ママ。お帰り、お帰り。ねぇねぇパパ、パパ、魔導従士のお話聞かせて、聞かせて。」
と父に飛びついた。エルは、
「分かりました。でも、玄関で立ち話もあれですから、まず居間に行きましょう。」
と、モカをなだめると、モカは、
「分かった、分かった。行く行く。」
と言って、エルを引っ張って居間に向かった。その間、モカの後ろにいたリルは、
「・・・おかえり。」
とだけ言って、モカとエルに着いて居間へと向かった。マギーはというと、
「じゃあ、その間にお夕飯の支度をしちゃうね。」
と、居間ではなく台所に向かう。台所の方からは、
「あらマギーちゃん、お仕事でお疲れでしょう。ご飯の支度は私に任せてくれていいのよ。」
「いえいえ、お母様、これも妻として、母としての務めですから。」
と、これまた毎日の定番になっている嫁姑のやり取りが聞こえてくる。
マギーとリルの祖母であるティナイッサが、夕飯の支度をしているころ、アウレリウス家の居間では、モカがエルにあれこれと魔導従士についての質問をして、エルが律義にそれに答えていた。
魔導従士というのは、鎧騎士を5倍ほどに相似拡大したような外観を有している。内部に人が乗り込むコックピットがあり、魔力を動力として動く人工筋肉によって駆動する。要するに魔法で動く人型巨大ロボットである。そして魔導従士の必要な魔力を供給するのがコックピットとともに魔導従士の最重要部分として位置づけられる、魔力転換炉である。これは大気中に遍在するエーテルを吸気口から取り込んで魔力へと変換する機能を有した装置である。
魔獣がひしめくこの世界で、小さく脆弱なヒトという種が、それなりの勢力を維持できているのは、魔導従士の存在があればこそである。魔導従士が開発されるまでは、人間は、世界の片隅で、魔獣に食われないよう身を寄せ合って生きていたという。この歴史的大発明により人間は、我々の世界の尺度で体長10メートルを越すような大型魔獣にも対抗できるようになった。
魔導従士に乗る騎士は、魔法騎士と呼ばれ、オストニアでは、最も尊敬を集める職業といっても過言ではない。なお、この世界では、騎士とは職業を表す言葉で、爵位などを意味しない。騎士の位置づけも国により様々で、戦うことを生業とする傭兵のような扱いの国もあるが、オストニアでの騎士の地位は、その歴史的、地理的特性から、非常に高い。
そして、何を隠そうエルとマギーこそが、オストニアで最強とその次といわれる魔法騎士である。さらに両名とも現在27歳にして、国王直属特務騎士団「銀嶺騎士団」の団長とその補佐という立場である。さらに言えば、エルに関しては「騎士の中の騎士」、「竜殺しの騎士」などといった通り名もある。
リルたち4兄弟の祖父であるマチウスが仕事から帰宅したころ、ちょうど支度ができ、3世代8人で食卓を囲んでの夕食となった。大き目のダイニングテーブルの台所に近い側にマギー、エル、マチュ、ティナ、マギーの向かいにマルセル、オッティ、モカ、リルの順で席に着くのが定位置だ。
4兄弟の父であるエルは、国王直属騎士団長という肩書に似合わず、小柄で線の細い人物だ。身の丈は150センチメートルほど、母親譲りの大きく円らな瞳に、これまた母親似の癖のない銀髪をあざとカワイイ内巻きショート・ボブにし、服装もオフショルダーのシャツに丈の短いキュロットパンツを合わせ、パンツとニーハイソックスの間の絶対領域からは白い肌がのぞく。はっきり言って、騎士団長らしい威厳とは無縁の外見で、年齢も性別もよく間違えられる。10代の少女でも通じる外見だ。食事をとりながらも、なお終わらないモカからの質問攻めに答え続けるあたり、とても律義な性格である。
マギーは、エルとは対照的に長身の女性である。スラリとスタイルのいい170センチメートルを超える長身は、世が世ならファッションモデルとしても通用するレベルで、実際男所帯の騎士団の華といった風情である。巨壁山脈より西の南方に多く見られる栗毛は腰のあたりまで伸ばされているが、やや癖毛がちなのが本人の悩みらしい。髪と同色の瞳はパッチリとして印象的だ。ニットの上着に丈の短いプリーツスカートをあわせ、ニーハイソックスとの間の絶対領域からは、やや黄みがかった肌がのぞく。かわいいものが大好きで、エルにゾッコンである。食卓では、女性ながらも騎士らしい健啖ぶりを発揮している。
ここまで来たら、リルの2人の兄についても語らぬわけにいくまい。
オッティは、髪と目、肌の色以外は幼少期のエルにそっくりと言われていて、同世代の子供たちの中にあってはかなり小柄な部類に入る。背中まで伸ばした母親譲りの栗色の髪をハーフアップにし、空色のフリル付きブラウスに丈の短いプリーツスカートをあわせ、ニーハイソックスの上の絶対領域には、母親と同じ黄みがかった肌がのぞく。いわゆる男の娘である。現在のところ特にそちらの気はないが、極度のマザコンであり、母親の言うカワイイを盲信している。髪型や服装もマギーのプロデュースであり、結果この仕上がりである。食卓でも、食べるより話すほうに口を使う機会が多い。
マルセルは、オッティとは逆に、銀髪、碧眼、白い肌は父親似、スラリと背が高いところは母親似である。同世代の子供の中では特に長身だが線は細く、幼いながらなかなかのモテ具合である。髪は短く刈りこみ、ノースリーブのシャツに緩めのラインの長ズボンという、兄と比べれば随分まともないで立ちだ。育ち盛りらしい食いっぷりで、食卓に並んだ皿を片付けている。
食事が終われば、片づけをするマギーとティナを横目に、飽きもせず父に魔導従士の話をせがむモカに、オッティも話題に加わる。リルは、定位置のモカの隣で話を聞いているが、元来無口な方で、自分からは発言しない。マルセルは、さっさと自分の部屋に戻ってしまう。
アウレリウス家の日常は、大体こんな感じで流れていく。
3
少し脱線して、オストニアの歴史的、地理的条件を見ておこう。
オストニアが建国されたのは、今から遡ること500年余り、西方暦2145年のことだ。当時、大陸の巨壁山脈以西は、「帝国」と呼ばれる一つの国に支配されていた。そして巨壁山脈こそ世界の東の果てと考えられていた。この点は実はほとんどの西方人にとって、今も変わらない。帝国治世下の各地から世界の果ての向こう側を見ようと野心あふれる者たちが集まって、巨壁山脈を越えて東を目指す「東方探検隊」が組織されたのが、西方暦2139年のことである。オストニア人には西方各地に由来する民族的特徴を併せ持つ人がいるが、これが理由だ。果たして東方探検隊は巨壁山脈を越えることに成功するが、待っていたのは、質、量ともに西方とは比べ物にならない魔獣の群れであった。東方探検隊は、比較的魔獣被害の少ない場所を見繕い、東方開拓の拠点となる砦を建設した。この砦が後に拡張されてできたのが、オストニア王城ウラジオ城であり、王都ウラジオである。東方探検隊は、西方暦2145年に帝国に対して「オストニア東方王国」の独立を宣言、帝国はこれを黙認したため、巨壁山脈の東方に唯一の人間の国が誕生した。
その後、オストニアは、開拓の拠点となる街を巨壁山脈以東に建設しながら、版図を拡張していく。巨壁山脈は、西からみるとまさに壁と言わざるを得ないような断崖絶壁が続くが、東側は、稜線付近はともかく、中腹より下はなだらかな斜面が続いている。そしてその斜面を下りきると、シバリス平原と名づけられた広い平野が広がっている。オストニアは山を下りきり平原に至った西方暦2166年、国号をオストニア王国に改め、さらに開拓の勢いを増していったのである。
これにストップをかけたのが、シバリス平原の東方に地平線のさらに先まで延々と続く大樹海、「魔の森」であった。魔の森には、森の外では見られない凶悪、強大な魔獣が巣くっていたのである。オストニアも1度は魔の森の調査のため、「カワグチウス調査団」を派遣したが、調査団の一員は一人として戻らず、さらなる東進を断念せざるを得なかった。
建国からおよそ100年が過ぎた西方暦2250年ころには、オストニアは、巨壁山脈の稜線と魔の森の間、南方大洋から極北海に至るまで、その全土を版図に組み込んだ。とはいえ、その実態は、各地に点在する街や村、それらをつなぐ街道のみが人間の生活域であり、それ以外の場所は、未だ魔獣の縄張りである。しかもその街道すらも魔獣の脅威があるため、魔導従士の護衛なくして進むことはできない。
オストニアでは、多くの人が現在でも、生まれた街や村から一歩も外に出ることなく一生を終える。オストニアは「騎士の国」を自称するが、それはこの国に生きる人々が、魔獣と、あるいは「死」と隣り合わせの生活を送っていることと表裏一体である。
4
オストニアの街は、大型魔獣の突進にも耐える高く堅牢な市壁に取り囲まれている。リルたちの住む学園都市エカテリンブルも例外ではない。
アウレリウス家は、平民としては裕福な部類で、その邸宅の敷地も広々としている。表は王都ウラジオから東へ伸びるオストニア街道に面し、邸宅の裏庭は、市壁に接している。
その裏庭で、その日もオッティを指導役にモカとリルの魔法の練習が行われていた。リルはというと、少しずつだが「松明の火」の成功率も上がって、火への恐怖も克服した。着実な前進がみられる。これを上回る速度で上達しているのがモカだ。すでにオッティから新たな魔法を習い、庭に土を盛って作った簡易な標的に、右手に持った練習用の杖から「炎の矢」を連発している。
練習開始からある程度時間がたったところで、オッティが、その日は外出せず居間でうとうとしていたマルセルに声をかけた。
「マルセル、二人の練習を見ていてあげて下さい。僕はちょっと出かけてきます。」
そう言って、指導役をマルセルに交代すると、オッティは、隣家との間にある塀を足場にして軽々と高さ10メートル程もある市壁を飛び越えて街の外に出てしまった。マルセルは面倒くさそうにしながらも、居間から庭に出てきて、双子の練習を見守り始めた。ちなみに大人たちから街の外に出ないよう固く言いつけられているのに、誰もオッティの行動に驚かないのは、それがいつものことで、しかもオッティは必ず無事に帰ってきてしまうからである。
双子の練習を見守っていたマルセルは、ふと感想を漏らした。
「しかし二人ともすげえな。魔法の練習を始めて数日でここまでできちまうなんて。俺なんか『松明の火』を出すのに2週間かかったからな。」
それは、マルセルの偽らざる本音だったのだろう。しかし、双子の姉に水をあけられているリルにはひどく癇に障った。それを表現する言葉が出てこず黙ってしまったが。他方モカは、
「すごい?すごい?でしょでしょ。」
と上機嫌である。
モカが魔力切れ気味になったところで、その日の練習はお終いになった。3人で祖母のティナが淹れてくれた茶を飲みながら居間で休憩していると、オッティが市壁を飛び越え帰ってきた。ちなみにこの大ジャンプは地属性の中級魔法「筋力強化」と風属性の中級魔法「気団加速」を絶妙なタイミングで組み合わせる高度な技だったりする。彼の左手には首のない獣らしきものが2匹ほど握られていて、
「今日は、兎さんが2羽獲れました。」
と、嬉しそうに祖母に報告していた。ティナは、
「あらすごい。でも勝手に街の外に出るのは、お祖母ちゃん感心しないわ。」
と、呑気なものである。オッティはそのまま庭で捕ってきた「兎さん」の解体を始めた。やけに慣れた手つきである。毛皮をはぎ、肉を捌いて臓物を取り出すと、台所から桶を持ってきて、食べられる部位をまとめると、祖母に渡した。モカは家の中からその様子を見ながら、
「お兄ちゃん、すごい、すごい。」
と、はしゃいでいる。
その日の食卓には、オッティの捕ってきた「兎さん」のシチューが並んだ。「兎さん」といっても野兎ではない。角兎という小型魔獣である。オッティの趣味は魔獣狩り。それをしたいがために、かつて5歳の誕生日に、
「父様は5歳の時から魔法の練習をしたと聞きます。僕も5歳になったのですから、魔法を教えて下さい。」
と、両親にせがんで、以来アウレリウス家では、5歳になったら魔法の練習を始めるという暗黙のルールができたのである。なお、断っておくが、この世界でも魔獣の肉を食べるのは普通ではない。
5
モカとリルも、いつも魔法の練習ばかりしているわけではない。子供らしく外で遊ぶこともある。ただ、学園都市エカテリンブルは、その通称が示す通り、市壁内の大半の土地を王立魔法騎士学園の施設が占めていて、子供の遊び場になるような公園や広場がない。必然、子供たちの遊び場は、街中の路地などになる。
モカは、生来の人懐っこい性格で、街に出ると誰彼構わず声をかける。商店主を見かければ
「おじさん、おじさん。こんにちわ?わ。」
同世代の子供たちには
「ねぇねぇ、何してるの?の?」
といった具合である。そしてモカ曰く、1度話したらもう友達らしい。リルは、激しく人見知りをする性格なので、たまにモカと知らない人の会話がリルに飛び火すると「・・・あ・・・う。」とどもってしまいまともな受け答えができず、苦痛である。できればいつも家の中で遊んでいたい。それでもモカについて回るのは、姉に置いて行かれるのが怖いからである。
モカは、その落ち着きのない性格と子供特有の底なしの体力で、街に出るといつも走り回る。モカより足の遅い(といっても大人並みのスピード)リルは、ついていくだけで必死である。外遊びから帰るといつもはぁはぁと息切れするリルは、ケロッとしているモカを見て、不公平を感じるのだった。