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7.初めての感情


屋敷中の人間が寝静まった頃、私は自室を抜け出し屋敷の裏手にある、今は使われていない小さな物置小屋に来ていた。


自室の床は絨毯になっていて魔法陣を描く事が出来ず、どこかいい所はないかと探していた時に、この物置小屋の存在を思い出した。

屋敷の裏手と言っても目立つ場所ではなく、普段本当に人の出入り自体ない、奥まった場所にある。

近々取り壊す予定だと、少し前に使用人達が話していたのを思い出し、この場所なら人に見つかりにくいと考えた。


誰かが来る心配はないと思うが、念のため手早く床に魔法陣を描いていく。

道具は、本当はチョークが良かったのだが手に入らなかった為、庭にある白い石で代用した。

本を見ながら一寸の狂いなく模写していく。途中何度も手が震えそうになったが、その度に深呼吸をし気持ちを落ち着かせ再開した。


描き始めて半刻ほどで、ようやく魔法陣が完成した。

先ほどからずっと心臓が痛いくらい激しく鼓動していて、身体中に血が巡り体が熱い。そして、妙に視界がクリアで見慣れた光景さえも初めて見た景色に見える程だった。


用意したハサミを持ち、魔法陣の中央に立つ。近くにあった机をギリギリまで近づけ、その上に呪文が書かれたページを開き本を置いた。


いよいよだ。

特に指定はなかったので、傷がつけやすい左腕にハサミを添え、目を瞑り一気に引いた。

初めて経験する痛みに悲鳴をあげそうになるのを必死で耐え、そのまま本を手に取り呪文を唱えた。

間違えず唱え終わると、そこには不思議な光景が広がっていた。

流れ出た血液は、普通なら地面に落ちると水たまりのように溜まるはずなのに、どういう訳か魔法陣の模様に沿って広がりうっすら光を放っていた。



あまりにも非現実的な光景に、一瞬見惚れてしまうがすぐに魔法陣が強い光を放ち、一気に輝き出した。

そのあまりの眩しさに、私はギュッと強く目を閉じた。



すぐ光が収まったのを感じ、ゆっくり目を開けるとそこには息を呑む程の美貌の男が佇んでいた。

驚きのあまりその場で座り込んでしまった私は、男から目線を逸らす事が出来ないでいた。

人形が話しているのかと錯覚する程の完成された見た目と、禍々しい雰囲気を纏っている目の前の男は、私と目が合うと一瞬瞳の奥が揺れたように見えた。しかし、すぐに感情のこもらない声でたった一言、

「お前は俺に何を望む」

そう言い、じっとこちらを見つめ返答を待っているようだった。


 『綺麗……』


見た事のない、あまりにも綺麗なその赤い瞳に射抜くような視線を向けられ、私は全身の血が沸き立つのを感じた。

気付けば、未知の感覚に思わず身震いをしていた。本当に一瞬、この男の瞳に囚われたかのような錯覚を起こしたからだ。

それは恐怖心からではなく、焦がれていた相手の瞳にやっと自分を映してもらえた時のような……多幸感に近い感覚だと思った。



 『どうして、そんな風に思うのかしら?私はそれを経験した事などないのに……』


自分の思考なのに全く理解が出来なかった。その時、

「っ……ぃ。おい!聞いてんのかよ?」

いつまでも返事を返さない私に、痺れを切らしたのか男が近くまで来ていた。

「っ!!」

俯いていた私は、慌てて顔を上げると男が同じ目線にいた事に驚き、思わず悲鳴をあげそうになった。

でも、すんでのところで何とか思いとどまった。

色々と混乱しているが、まずはこの状況をどうにかする為、改めて目の前の男に視線を向けた。思わずゴクリと喉が鳴る。

私はここで死ぬ訳にはいかない。絶対に叶えてもらわなければならないのだから……



一度目を瞑り、ゆっくり深呼吸をしてから再度男と視線を合わせ、

「私の願いはただ一つです。私は自由になりたいのです」

男から視線を逸らさず、はっきりとした言葉で伝えた。





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