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3.願いは叶わない

 屋敷に戻った私は、先ほど見た光景を父に報告し、婚約解消を願い出た。

物心がついてから父に何かを頼んだ事はなく、父が望むままの人生を歩んできた。

だから初めての我儘を、もしかしたら叶えてくれるのでは?と、少し期待していた。

しかし返ってきた返事は、

「婚約解消は認めない。アリア、婚姻前の火遊びくらい容認してやれ。もうすぐ夫婦になるのだからそれでいいではないか」

執務の手を止める事も、こちらを見る事もしない父は淡々と言った。


「で、ですがアイザック様のお相手は「アリア」」

最後まで言い終わらないうちに、父は被せるように私に言う。

「火遊びくらいで婚約解消など私は許可しない。アイザックとて愚かではない。この婚約を蹴ってまで、遊び相手を選びはしないだろう」


私だってそう思いたい。でも心から愛する人がいるのに愛がない私と婚姻して、愛する人を日陰の身に……なんてアイザック様はなさるのかしら。

それに私は、愛し合う二人を引き裂く邪魔者でしかない。例え嫁いだとしても、一生肩身の狭い思いをするだろう。


 『お父様は、私が嫁ぎ先で肩身の狭い思いをしても平気だと仰るのね……』


ほんの少しだけ期待していたのに。

もしかして婚約者の不実を報告したら、アイザック様との婚約を解消してくれるのではないかと……

“政略の駒”としてではなく、“父の娘”として見てくれるのではないかと……



でも現実は、私を見る事もなく、手元の書類を捌いている。

娘の婚約者が……よりにもよって従姉妹と愛し合っていると報告しようとしても、父にとっては些細な事だったのだ。


 『私は父にすら愛されていなかった』


ただ淡々と現実を突きつけられ、もう何も言葉にする事が出来なかった。


呆然と立ちすくむ娘に対し父は、

「話はこれで終わりだ。いいかアリア、婚約解消は認めない」

それだけ言い終わると、私に向かって手を振り退出を促した。





その後どうやって自室に戻ったのか記憶がなく、気付いたら私はソファに腰掛けていた。

婚約者だけでなく、父にすら愛されていなかったという事実に、もう心がついていけなかった。


「っ……、っう……っ……」

部屋で一人、先ほどのアイザック様とエミリーの逢瀬と父との会話を思い出し、我慢していた涙が堰を切ったように溢れ出した。

行き場のないこの思いを、解消する事すら許されないのだと絶望し、私はそのまま泣き続けた。


「っ……、どうして……っう……」

「私はただ……私だけを愛してくれる人と幸せになりたいだけなのにっ……」


思わず飛び出た言葉は、私の心からの願望だ。しかし誰に届く事もなく、そのまま静けさと共に消えていった。



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