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18.願い・クレイン侯爵視点


 アリアの葬儀も無事に終わりあの二人に手紙を渡す事が出来た今、私は妻の眠る墓前に足を運んでいる。

そして今回の事を包み隠さず報告していると、ふと弱った妻が最期の力を振り絞って私に託した願いが頭をよぎった。



『——旦那様。どうかこの子を、私の分まで守ってあげてください』



すまない、私は君との約束すら守れなかった……




 この日、命を懸け産んでくれた妻の墓前で、私が娘を死に追いやったと言う事実を、誠心誠意謝罪する事しか出来なかった。




 あの日、アリアを失ってから全てが変わってしまった……

元凶でもある二人の顔を見るまでは苦しめてやりたいと何度も考えた。だがアリアを苦しめたのは私も同じ。

同罪である私にその権利はあるのだろうか……と、何度も自問自答を繰り返したがその度に明確な答えが出る事はなかった。


 娘が残した私への手紙には二人を責めないでほしいと書かれていた。愛し合っている二人を引き裂く事だけはしないで欲しい、それが私の唯一の願いだから、と——


 あの時、婚約解消を言い出した娘の願いを、私は一蹴した。

私がもっとあの子の話を聞いてあげていたら……どれだけ後悔し、過去に戻ってあの日の自分の発言を取り消したいと願っても、二度と過去は変えられない。この事実に私は何度も絶望し打ちのめされた。


 もう二度とアリアの願いを聞いてあげる事は出来ない。

ならせめて……親として娘が最期に望んだ事を叶えてやりたい。

だから私はあの二人に対し、引き裂く事も罰を与える事もしなかった。

それでも本音は、胸ぐらを掴んで気がすむまで罵倒してやりたい。



どうして、アリアを裏切った!!

お前だったら娘を幸せに出来ると信じて託したのにっ!!



 腹の底から強く思うのに、アリアの残した最期の願いがギリギリの所で押し止める。

子を亡くした親として何も出来ないこの状況が、私があの子にしてしまった過ちへの罰なのだと思う。

ただそんな風に自分を納得させても、心が追いつく事はなかった。



そしてレスター侯爵家については、アリアとの婚約を白紙に戻す手続きの際に全てを話し、二度と関わらない旨を侯爵に伝えた。



エミリーに関してもアイザックと同様で直接手を下したりはしなかった。

ただ、親戚という事もありレスター侯爵家よりも近しい関係だった為、今後一切の支援を打ち切る事を通達した。


エミリーに対しては特に。はらわたが煮えくり返える思いだったが憎悪で心が黒くなる度に、アリアの残した言葉が思い浮かんだ。




お父様、どうかあの二人を責めないでほしいのです。

私は二人の幸せを心から願っています。だからどうか、二人を引き裂く事だけはなさらないで。

たった一度も、私はお父様の手を煩わせた事はなかったでしょう?

だから一度だけでいいのです。私の我儘を叶えて下さいませんか。

最後までお父様にとって使えない娘だったと思います。不出来な娘で申し訳ありませんでした。




「っ……っお前をそんな風に思った事など一度もない……っ……」


娘にそんな風に思わせていただなんて……

アリアの思いに気付こうとしなかった私は、親として二度と名乗る資格のない人間だった。

この事実に今更気付いても、もう全てが遅いのに。


いっそ、気を失い全てを夢に出来たなら…………何度そう願っただろう。

娘を失ったこの現実を、私はなかなか受け入れる事ができずにいた。

受け入れる事も出来ず、かと言って手を下す事も出来ない。ただ息をしているだけの生活を一年続けたある日。


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