表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/19

17.正しいはずだった・クレイン侯爵視点


可愛い私のアリア。

この世の何よりも大切な、私と妻の宝物——



 私は一体どこで間違えたのだろう。

レスター侯爵家のアイザックはアリアを心から愛している。これは親だからとかではなく、誰の目から見ても明らかだった。

常にアリアを第一に考え、アリアが笑ってくれるなら。側に居てくれるなら。どんな事でも苦にならない。そんな青年がアイザックだった。


 あの日、アリアがアイザックとの婚約解消をと言い出した時、何かの冗談だと思った。

そのまま話を聞いていると、アイザックの火遊びが理由だと言う。

アイザックに限って、そんな馬鹿な真似をするはずがない。到底信じられない内容だった。きっとアリアの勘違いだろう。あの青年はアリアを心から愛してる。だから何か理由があったに違いない。

そもそもこの婚約は、レスター侯爵家からどうしてもアリアをと、頼み込まれての婚約だった。どうしてもと望んだ相手を裏切るものなのだろうか?

それに……

アリアを見るあの青年の瞳が、私から見ても時折仄暗い色を纏っているのは分かっていた。

そんな男が火遊び……?


 ただ、その事をアリアに言って怖がらせてもいけないと思い、私は手元の書類を捌きながら婚姻前の火遊びくらい容認するように諭した。

そもそもアイザックに限って火遊びはあり得ない。

アイザックになら娘を任せられる、あれほどの想いを常に紳士の仮面で隠せているあの青年になら……

だから婚約解消は認めなかった。

 


 必ずアリアは幸せになれる。これが正しい選択だ。

その後すぐに執務が忙しくなり、アリアとゆっくり話す時間が取れなかった為心配していたが、久しぶりに共に食事を取った時、普段マナーを守るあの子が、珍しく大きな声で呼び止めてきた。

その事に驚いていると、あの子は大きな瞳に涙を溜めて、「お父様、私幸せです」と言った。


 その姿を見て、やはり正しかったのだと心から安堵した。

今日アイザックが来ていたから二人で上手く話し合えたんだろう。やはり私の判断に間違いはなかった。

これでアリアは幸せになれる。

そう思っていたのに……




 その日、朝侍女が部屋に行くとアリアは既に冷たくなっていた。

報告を受けすぐに娘の部屋に向かうと、そこには変わり果てたアリアの姿があった。

執事長から机の上にあったという数枚の手紙を受け取り、全ての中身を確認すると私は怒りで目の前が真っ赤になった。



 アリアから聞いた時は、勘違いだろうと思い気にも留めなかったが、アイザックの相手はよりにもよってアリアの従姉妹であるエミリーだった。

二人はあの日、抱き合いながら愛していると囁き合っていたそうだ。

どうして、教えてくれなかったんだ……知っていたら!!



…………いやそうではない。私が聞こうとしなかったんだ。あの時、アリアは必死で何かを伝えようとしていた。それなのに遮ったのはこの私自身だ。

すぐには無理でも話をする時間は十分あったのに。私はアリアと向き合う事をしなかった。

あの子は一体どれだけ苦しかったのだろう。どれだけ悩んだのだろう。

「あぁ私が——」



 娘を死に追いやった。



 ようやく気付いた重すぎる事実に、気付けば私は膝から崩れ落ちていた。

「……っ、うっ、くっ……アリアっ、すまなかったっ……すまなかったっ……」

だがどれだけ後悔しても、あの時の言動を悔やんでも。償いたい相手(アリア)に、この思いが届く事は二度とない。

私がそうさせてしまった。


「アリアっ!目を覚ましてくれ……お願いだアリアっ」


愚かな私を許してくれ……アリア、どうか目を覚めしてくれ……



寝台に横たわるアリアを抱きしめどれだけ許しを乞うても、愛しい娘が返事をしてくれる事は二度となかった。

 







評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ