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小説を書くことに飽きてしまいそうで、怖いのです

作者: まめめめ

 いつか。いつのひか。

 物語を書くというこの行為にも飽きてしまう日が来るのだろうか。


「おそらく飽きてしまうだろう」

 とある賢者はこう言った。

「そもそも、『飽き』というのは……」

 こちらの返事も聞こうとせずに、賢者は誰にともなく話を続けていく。

「飽きというのは、『習熟』の証なのだよ。君。成長のない者にはそれは、飽きもせず書き続けることが出来るのだろうが、君が目指すのはそもそもそうした『停滞』ではないのだろう? だとしたら絶望せよ若者よ。飽きは必ず来る。君の作家もどきを目指す試みは、その瞬間に光の粒となって消えて無くなるだろうよ」


 そうか……それは怖いな。

 だけどそう。だとしたら僕はそれでも、


「何を絶望する。そして何を馬鹿げたことを言うのだ、愚か者よ、そんな一般論を嘯くのは好きにせよ。だが真実はそんな一面的ではない」

 賢者を押しのけるようにして、第二の賢者が現れた。

「よく考えてみよ。『何事にも飽きが来る』と言うが……」

 賢者というのは、他人の話を聞かないのだろうか。いや、だからこそ彼らは『賢者』などと呼ばれるのだろう。

「何事にも飽きが来ると言うが、だとすればお前は米を食うのに飽きるのか? 毎日朝起きて、学校なり職場なりに向かい、家に帰って寝る人生に飽きたのか? あるいはそれに飽きた人間を見たことがあるのか?」

 それは、確かにそうかもしれない……だけどじゃあ、例えば『同じ仕事ばかりをしていて飽きた』というのは?

「良いか、『飽き』というのは現状への不満を見下ろしたときの景色なのだ。お前は物を書くのが不満なのか? だとしたらすぐに飽きる。飽きるということは向いていない。やめておけ、そんなこと」

 そうは言うが……どんな楽しいことでも、毎日毎日、朝から晩まで続けていたら、さすがに飽きるだろう?

「そんなことか。安心せよそれは飽きているのではない、疲れているだけだ。疲れたらまあ、休めばよいさ。だが、歩き疲れたからと言って二度と動けぬわけでもあるまい?」


 なるほど確かに、そうかもしれない。

 歩くことに飽きるかもしれない。そう思って毎日歩くような人はいない。

 だから僕も、歩くように書き続ければ……


「馬鹿共め! お主らは本当に、馬鹿だ! これだから、聞かれたことにしか答えられぬ賢者もどきはこれだから困る!」

 一体今度は何だ。まあ知っていた。二度あることは三度ある。先の二人の賢者を押しつぶすようにして、三人目の賢者が現れた。

「良いか、こやつが聞きたいのは……」

 いや、だから。その前にこちらの話を聞け? お前はそういう趣旨の賢者だろう?

「こやつが聞きたいのは、『飽きるか、飽きないか』という低次元の話ではない。『続けられるのか、続けられないのか』という話なのだ。そして結論は明瞭だ。ほとんどの人間は、続けることすら出来ない! ……だがお前がどうか、そんなことは知ったことではない!」

 なんとまあ、無責任な奴だ。

「無責任だと思ったか? 確かにそうかもしれない。だがそんなのは当たり前だろう? こちらとお前は『他人』なのだから。だがまあ、説明の責任ぐらいは果たしてやろう。良いか、よく考えろ。考えるまでもない、思い出してみろ。お前の周りに、プロの作家は何人いる? ……ああもちろん、周りというのはお主自身の友達のことだ。ネットで見かける有名人を数に含めるなよ?」

 それはまあ、そんな奴一人も……

「ああそうか、お前には友達など一人もいないのだったな。だとすれば『クラスメート』と置き換えても良いし『元クラスメート』と置き換えても良い。同窓会で集まった凡俗どものうちに、小説家となっていた人間は何人いた?」

 余計なお世話だ。だが確かに、そんな奴は一人もいなかったな。だがそれは、そもそも小説家などを目指さなかったから……ではないのか?

「無論、物書きになっているかだけで判断するのは早計だ。だが、では改めて問おう。そこにアイドルはいたか? 漫画家は? 起業家は? スポーツ選手は? プロゲーマーは?」

 そう言われてみて改めて思い返してみる。

 話を聞いていて出てくるのは、会社員として働いていることへの不満ばかりだった。

 運動が得意で、学生時代に周りを圧倒していたあいつは、今では平凡なサラリーマンになっていた。

 やはり、夢を実現するというのは、難しいことなのだろうか……


「騙されるな!」

 第一の賢者が声を上げた。

「騙されるな、その話には穴がある! 確かに平々凡々たる雑魚が多いのは事実だ。だがそいつらは、そもそも夢を見なかった者達だ! お前は夢を見ているのだろう? だとしたらそんな雑音は統計から外しても構わないはずだ! 飽きるまでやって見ろ。その時お前は大きく成長しているはずだ!」

「そうだ、騙されるな!」

 第一の賢者を押しのけて、第二の賢者が口を開く。

「騙されるなよ、そいつらの言っていることは空想に過ぎない。確かに今の時点では、何者でもないモブキャラに見えるかもしれない。だがだとしても、そいつらは今は休んでいるだけなのだ。夢を追い続けて、夢を追いかけることに疲れてしまった。だから一休み。あるいは別の夢を目指して歩き出したのかもしれない。そもそも社会の歯車となって働くことに夢がないなどと、誰が決めたのだ?」

「まったく、おまえたちは何もわかっていないな!」

 やはりというか、第三の賢者も黙ってはいない。

「夢を見ていないだと? 違う、現実を見ているんだ。夢を切り替えた? 違う、夢を諦めたんだ。確かに一部の人間は、夢を追い続け、やがて叶えることが出来るだろうさ。だがほとんどの凡人は、その途中で挫折して、凡人らしく当たり前の生活に流されていく。世の中なんてのは、そんなふうに……」

「うるさい、黙れバカ!」

「馬鹿とは何だ、この世間知らず!」

「これだから、人の話を聞こうとしない愚か者共は!」


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「……」

「……どした? 急に黙り込んで」

「ああいや、脳内で賢者が取っ組み合いを初めてしまってな。それで、なんだっけ。小説を書いてみたいんだっけ」

「はい。だけど、本当に書けるのかどうかが不安で……それで、相談してみることにしたんです」

 そう、確かそんなことを聞かれて、実際どうなんだろうと考えてはみたけれど。

「まあ、諦めなければなんとかなるんじゃないかな……知らんけど」

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