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好きだった彼に婚約破棄され傷心で嘆いていたら、美麗の令息に求婚《プロポーズ》されました ※ただし、この方も屑でした。  作者: 神山 りお


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11話 頑張っているんですけど…旦那様は



「笑い事じゃないんだけど?」

 そう言われて、追い出されたジルベールは渋い顔をしていた。

 皆にあんな風に言われたら、この別邸に来るしかなかったのだ。

「だって、使用人総出で見送られるなんて、普通ある?」

「ないな」

 愛人のキャサリンは愉しそうに笑っていた。

 愛人を追い出そうとするのが、妻である。ジルベールが彼女に何を言ったところで、結婚したら絶対に文句を言いに来ると思っていたのだ。

 だから、高笑いの一つでもして、揶揄ってやろうと思っていたのに奥様であるマリエッタは一切来ない。肩透かしもいいとこだった。



「面白い子ね? ちょっと会ってみたいわね」

 愛人を容認する奥様とは、どんな人物なのかキャサリンはますます興味が湧いた。

「会ってどうするんだ。揉め事はごめんだけど?」

 マリエッタがどうでるか知らないが、正妻と愛人が揃っていい事があるとは思えない。

 というか、家令達はこぞってマリエッタ派である。

 愛人のキャサリンが行ったところで、皆に攻撃されるのが関の山だ。



「あなたに興味のない妻となんか、揉めようがないと思うけど?」

 正妻と愛人が揉めるのは大抵の場合、妻が夫を愛しているか妻としての矜持である。

 しかし、ジルベールの妻マリエッタにはそのどちらも当てはまらない。キャサリンには、彼女と揉めるイメージが全く浮かばなかった。

「それは……そうだけど。仮とはいえ、妻と愛人が顔を突き合わせて良い事がある訳がないだろう?」

 それに、家令達はマリエッタの味方だ。

 そうジルベールに言われたキャサリンは、つまらなそうに笑った。

「確かに、奥様より家令達に爪弾きにされるのがオチね」

 この別邸を掃除してくれる侍女達にしても、仕事だからとやってはいるが、キャサリンとは仲は良くない。

 寧ろ、早く別れろと冷めた目で見られるのだ。そんな人達が集まる本邸に乗り込んでも、総出で追い返されるに違いないのだ。




「そんな事より、愛人の存在を認めてくれる寛大な奥様に乾杯しましょうか」

 とキャサリンはワインセラーからワインと、グラスを取り出した。

「乾杯って、キミ面白がっているだろう?」

 グラスを受け取りつつ、ジルベールは苦笑いしていた。

 愛人と別邸で、妻の事で歓喜するなんて異様である。

「奥様を大事にしなさいよ? 愛人を認める妻なんて後にも先もないんだし」

「確かに」

 キャサリンの入れてくれるワインを見ながら思う。

 本当は、マリエッタも自分と結婚すれば惚れてしまうだろうと、自惚れていたのだ。

 だが、いざとなってみると、彼女は自分に全く関心を持たない。それどころか、愛人とさっさと子供を作れと言われる始末だ。

 興味を持たれたらどうあしらうか考えていただけに、こうも興味を持ってくれないと逆に、プライドに傷がつく。

 自分に靡かない女性が初めてで、負けた様な気分になっていたのだ。



 惚れられるのは厄介だが、全く関心を持たれないのも癪に触る。ジルベールは身勝手な感情を抱くのであった。





 ◆*◆





 一方。




 マリエッタは仮初の妻であるのに、侯爵家の家令達は疎外や蔑ろになどせず、夫人として敬い扱ってくれた。

 それどころか、不憫だと優しくしてくれるのだ。それが、マリエッタには申し訳なく、侯爵夫人とし恥ずかしくない様に振る舞うのであった。

 夜会に出る予定はないが、ダンスの練習にも余念はない。

 万が一の事も考え、語学の勉強も疎かにはしなかった。



 そんな、心穏やかな日々を過ごしていたある日。

 再び義母が侯爵家にやって来たのだ。

 来た理由は勿論ただ1つ。

 初孫はまだかと、やんわりとお伺いを立てに来たのである。



「あれから毎夜、励んでいる……のですけど」

 どの愛人様からも懐妊の知らせが来ないのですよねぇ、と視線に含ませ、マリエッタは隣に座るジルベールの顔を覗き込む。

「……ごふっ」

 ジルベールが紅茶で咽せていた。

 母と妻から、乞う相手こそは違うが、子供の催促をされる日が来るとは思わなかった。

「…………毎夜」

 急かしちゃいけないとは思いつつ、やっぱり仲が悪いのかしら? と心配していた義母も、マリエッタの明け透けな夜の事情を教えられ、思わず紅茶を吹き出す所だった。

 聞いた自分もいけなかったが、まさかいつも通りにサラッと教えてくれるとは思わなかったのだ。



 義母は、苦笑いをしつつ息子ジルベールに向き直る。

「先に訊いた私が言うのもだけど……ジルベール?」

「はい?」

「前にも言ったわよね? 酷使するのも……その、良くないのよ? 子供が欲しいのは山々だけど程々に……あと、マリエッタちゃんの身体の事も考えてちょうだいね?」

「………………はい」

 酷使も何も初夜も迎えてもいませんよ? とは言えず、ジルベールは空笑いで誤魔化していた。

 とりあえず、誰かと結婚すれば、自分への関心が収まると安易に考えていたが、完全に読み誤まった。

 そうだ。自分への関心がなくなる代わりに、孫への関心に移り変わるのだ。母親とはそういうものだったと失念していた。



「安心して下さいませ、お義母様。今はまだですが、いずれ良い報せをお伝えする事が出来ると思いますわ。ね? ジルベール様?」

「え、あ、あぁ」

 マリエッタに良い笑顔で言われ、ジルベールは頬が引き攣ってしまった。

 母と妻〈仮〉の圧が凄いと。

「ごめんなさいね。マリエッタちゃん。子が出来ない事もあるのは分かっているのよ? でも、あのジルベールが落ち着いてくれたと思うと、つい欲張りになってしまって」

 義母は目頭をハンカチで押さえていた。

 浮気性で遊び人の息子が、1人の女性にやっと落ち着いたのだ。それだけでも、本来なら感謝しなければならないのは重々承知している。

 だけど、仲睦まじい姿を見ると、ついつい次を求めてしまうとマリエッタに謝っていた。



 だが、マリエッタは気にしない。

 自分が孫を生む訳ではないからだ。

 ジルベールの愛人は良い事に何人もいる。万が一の事があっても、その誰かの愛人が生んでくれれば良いのだ。

 マリエッタにしたら、後継ぎを生む重圧から解放されてストレスフリーである。旦那様と愛人様には、是非毎夜の様に頑張って頂きたい。



「頑張らさせて頂きますわ」

 ね? とマリエッタに微笑みかけられ、ジルベールは力なく返事を返したのであった。









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