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好きだった彼に婚約破棄され傷心で嘆いていたら、美麗の令息に求婚《プロポーズ》されました ※ただし、この方も屑でした。  作者: 神山 りお


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1話 婚約破棄は突然に



 ーー今宵。




 煌びやかな夜会が、コーチス伯爵家で華やかに行われていた。

 天井には豪華で煌びやかなシャンデリアがキラキラと光り、色取りのドレスに身を纏った女性達が、花や蝶の様にダンスを踊っている。



 そんな華やかな夜会の隅で、マリエッタ=ホールデンは壁の花となっていた。

 小さな時から、良く熱を出していた彼女は、パーティーなどに出る事も滅多になく、今夜は数ヶ月振りだったのだ。

 貴族に生まれた以上、最低限の交流はもたなくてはいけないからと、頑張って来てはみたものの、引きこもり気味だったマリエッタが上手く立ち回れる訳はなかった。

 数少ない知り合いにだけ挨拶をしようと辺りを見ていたが、自分の見た限りでは見当たらなかったので、しばらく時間を潰してから帰ろうと考えていた。

 完全に壁の花と化したマリエッタは、時間潰しに楽しそうに踊る女性達を見ては、人知れず溜め息を漏らしていた。



 皆、楽しそうなだけでなく、健康的で見目艶やかだったからだ。

 マリエッタはやっと健康になったとは言え、まだまだ食は細くガリガリだった。

 化粧をして誤魔化してはいたが、顔色も悪く血色は良くない。腕はか細く、胸はパットを入れなければドレスに負けていた。

 壁の花にもなれない、雑草の様だと自嘲していたのだ。

 


 そんなマリエッタにも、幼馴染みであり婚約者であるトム=ウルフルがいる。

 しかし、彼は今夜のパーティーにも迎えには来なかった。

 手紙や贈り物さえも、一切ないのだから、婚約者としての自覚はないのだろう。

 むしろ、痩せ細ったマリエッタが婚約者で恥ずかしいと、友人達に言っているのを耳にした事があった。

 だからといって、婚約者を蔑ろにして良い理由にはならないのだが、それも分からないのだ。

 マリエッタの両親からも、たびたび苦言があったハズなのに直さないのだから、馬鹿にするにも程がある。

 


 基本的には、パートナーがエスコートするのが常識だが、今夜みたいな夜会のように、パートナーがいない人も自由に参加出来る事もあるのだ。

 パートナーがいるのに、1人だと何かあると思われるが。



 引きこもりがちだったマリエッタに、残念ながら友人はほとんどいない。

 そして、自分から声を掛ける程の社交性も持ち合わせていない。談笑している皆を見ていたマリエッタは、自分が爪弾きにされている様な雰囲気と久々の場や大勢の人に酔い、風に当たりたくて中庭に出るのであった。





 ーーしばらくして。





 そこに、婚約者であるトム=ウルフルが現れたのだ。

 マリエッタの具合を心配したためかと一瞬気持ちが浮上したのだが、そうではなかった。





「すまないな、マリエッタ。俺はお前みたいなガリガリは好きじゃないんだ。だから、お前との婚約を破棄して、彼女と新たに婚約する。勿論、婚約は破棄してくれるよな?」

 調子が悪くなり中庭で休んでいた婚約者に、トムは気遣いの言葉を掛ける事もなく、薄っすら笑いさえ見せながらそう言った。

 確かにマリエッタは、他の令嬢と比べれば細めを大分通り越している。

 しかし、そんな理由で婚約破棄をしていい訳がない。

 大体、婚約するとか、破棄してくれるよな? とか彼の中では、もはや決定事項の様だった。

 トムの右脇をチラッと見れば、長年友人だと思っていたミリーが、口端を上げて笑っている。

 目の前で振られたマリエッタが、楽しくて仕方がないのだろう。



 どうやら、友人だと思っていたのは、自分だけだったらしい。

 2人がいつの間に、そんな関係になっていたなんてマリエッタは知らなかった。




「ごめんなさい? 私、トムの事が好きになってしまったの」

 その言葉の割には口端が歪み、決して謝罪している態度ではなかった。

 それに、いくら互いに好き合ったからといって、親になんの相談もなく、こんな公の場で破棄宣言は非常識だ。

 だけど、トムの事が本気で好きだったマリエッタは、突然の事で頭が真っ白になり、何一つ反論が出来なかった。

 ただただ、その場から逃げたくて走り去るのが、精一杯だったのである。





 ◆*◆





「で? 逃げ帰って来た訳?」

 いたたまれなくて屋敷に帰ると、兄の婚約者で唯一の友人となったローズがいた。

 泣き顔で自室に走って行くマリエッタを見つけ、事情を問われ説明すると、彼女は呆れ……いや憤慨したのだ。

「……だって!!」

「だってじゃないわよ。浮気なのよ!? 一発くらい殴ってきなさいよ!!」

「そんなの、出来、ない」

 マリエッタは布団に包まって、子供の様にわんわん泣いてしまった。

 婚約者の浮気、幼馴染みである友人の裏切りに、マリエッタの心は耐え切れられなかったのだ。



「まったく、しょうがない子ね」

 同じ歳なのにまるで姉みたいなローズは、布団に包まってしまったマリエッタを、ポンポンとあやしていた。

 病弱だったために、お茶会などに出る機会がなく、完全にコミュ障気味のマリエッタ。

 兄の婚約者でなかったら、ローズとの縁も全くなかったに違いない。

「何かあったの?」

 娘の様子がオカシイ事に気付いたマリエッタの母が、お茶菓子を持ってひっそりとやって来た。




「まぁ、あの@%〒々が?」

「お義母様、言葉が過ぎますわよ」

 余りの言葉に、ローズが堪らずその口を押さえた。

 溺愛する娘を思えばこそ仕方がない事だが、女性が口にするには度が過ぎる。

「だけど、あの屑がねぇ」

 割と綺麗な言葉に言い換えた母は、ポキポキと手の指を折っていた。

 どう料理しようか、算段中の様である。



「婚約は破棄に出来ますの?」

 ローズは義母に訊いた。

 ここまでコケにされては、相手が謝罪しようが、もう修復のレベルではない。

 人気のない中庭とはいえ、夜会という公の場でマリエッタを断罪と近い形で辱めたのだ。

 何をどう話し合いをしたところで、円満解消とはいかないだろう。

「毒、いや……刺殺」

「お義母様!? 話を聞いてます? 犯罪はダメですよ!?」

 何やら恐ろしい事を考えている義理の母を、ローズは慌てて止めた。

 このままでは、トムとミリーが闇に葬られてしまう。

 いや、正直言ってそれは全く構わないのだが、最終手段として欲しい。




「なら、社会的に葬るしかないわね」

 そう呟いた母は、執事長と侍女頭を呼び、何か相談し始めるのであった……が、泣いていたマリエッタは何も知らなかった。




 ローズは義母のその呟きに、婚約者をますます大事にしようと心に誓ったのだった。





 ◆*◆





 ーー結果。




 マリエッタとトムの婚約は、呆気なく破棄された。解消や白紙ではなく "破棄" である。

 さて、非はどちらにあるのか。

 実はあれから、すぐに父同士の話し合いが行われたのだ。




「お前の娘、マリエッタは病弱なのだ! アレでは子が出来んだろう!? だから仕方のない事じゃないか!!」

「先に断っておくが、今のマリエッタは健康だ。大体、病になったから破棄ならまだ分かるが、病弱だった時に婚約して健康になったら破棄? どんな理由だ。笑わせるな」

「ぐっ!」

「古い付き合いだったが、これで終わりだ。慰謝料については後々書面を送る」

「なっ」

「当たり前だろう。お前のバカ息子のせいで、ウチの娘はイイ笑いモノだ。払いたくなければ、払わなければいい」

 貴族として終わりたいのならな?

 父はそう言って、話し合いを終わらせたらしかった。



 ウルフル伯爵側は、マリエッタの身体を理由に上げて、非はコチラにはないと言い張っていた。

 しかし、そんな事は初めから分かっていた上の婚約だった。

 多方面に顔の効くホールデン家との伝手が欲しかったウルフル伯爵は、後継ぎは次子に任せ、この伯爵家を兄弟夫婦で切り盛りしてもらえれば良いと、病弱なマリエッタを受け入れたのだ。

 だからこそ、この婚約は成り立ったのである。

 それを今更、マリエッタの身体を理由になど、可笑しな話だった。そして、マリエッタを蔑ろにし、他所に女を作り傷つけたなんて言語道断である。

 白紙にするにしても、あの場で言い放つのは論外だった。

 しかも、そこに浮気相手を同伴させての宣言?

 頭が悪いにも程がある。だが、それにより非がどちらにあるかを公言した様なモノである。それ故に、ウルフル伯爵側の完全な非となり、慰謝料を払う事になったのである。

 知らぬ存ぜぬと、払わない選択も勿論あるだろう。だが、同じ伯爵家でも、ホールデン家とウルフル家では天と地程の差があったのだ。

 長い付き合いでも、無碍にしては必ず制裁はあると感じ取ったウルフル伯爵は、苦虫を噛み潰したような表情で全額払うと約束するのだった。



 一方ミリーは、婚約者がマリエッタだと知っての所業である。

 マリエッタの友人だと、ホールデン夫妻も少なからず可愛がっていただけに、その憤りは計り知れない。

 当然、ミリー側のカーン子爵家にも、それなりの額が請求される事になったのは言うまでもなかった。
















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