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Fニューワールド  作者: 太鼓隊
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星の軸

 「あの鬱蒼とした木々が立ち並んでいるのが《空虚の森(ロストフォレスト)》です。入ったら最後、骨すらも残らないと言われる危険区域です」

 「怖っ!? 絶対入りたくない……」



 景色を見て心が落ち着いた萌恵は、リュミエールによって地名やダンジョンを紹介されている。ペガサスで移動をすれば王国に半時で到着するらしい。



 運がいいことに今日は偏西風に乗れたらしく、いつもより半分の時間で到着するとのことだ。どのくらい魔力が漏洩しているのか分からないので、早いことに越したことはない。



 「あはは! 大丈夫ですよ! あの森は入る価値がないとされ、今じゃ愚にも付かない話となりましたよ」

 「そうなんだ……私が住んでいた場所にはそんな危険な場所がないから、ここら辺は少し怖いなぁ……」



 すると、リュミエールは萌恵に対し疑問を呈した。



 「聞いていませんでしたが、勇者様はここに来る前は――」

 「勇者様は少し堅苦しいから、萌恵でいいよ!」

 「――! ……萌恵様はここに来る前はどのような生活を?」



 言い直してからそう言うと、萌恵は思いを巡らして何と言うか悩んだ。



 「まぁ……凄い馬鹿だったなぁ。テストではゼロ点が日常茶飯事だったよ。本当に中高一貫で助かったよ……」

 


 リュミエールは中高一貫という単語に少々つっかえたが、特に気にせず話を続けた。



 「私もよくゼロ点を取ってましたよ! 今でも馬鹿をかまして周りに迷惑をかけたりしちゃいますよ」

 「え!? 副団長なのに!?」

 「そうですとも! 勉学は意欲が全く無く、運動も体が弱かったので思うような結果にならないのがほとんどでしたし! ですが、友や家族の支えがあってここまで上り詰めたのです」

 「そうなんだ……私も仲間にいいところを見せたいんです……。闘いの方でも私生活の方でも……」



 萌恵はギュッと拳を握り締め、下唇を軽く噛んだ。


 

 「でも……どうしても上手くいかないんです。たまにだけじゃなくて、いつもでもいいところを見せたくて頑張っているのに……」

 「……もしかしたら、萌恵様が気がついてないだけかもしれませんよ?」

 「え?」



 立っていたリュミエールは、近くに置いてある木箱の上に腰を下ろした。



 そして前屈みになり、肘を膝の上に乗せて手を組んだ。



 「自分の成長なんて、周りが一番気がついてますよ。逆上がりの際にしっかりとお腹を鉄棒につけれたりなど、些細な事だろうと」

 「……でも」

 「伸び悩んでいる人は、決まって結果しか気にしないんですよ。その結果に至るまでの過程が大事だというのにです」



 その言葉を聞くと、萌恵はハッと目を見開く。



 ――確かに私が小テストで赤点をとって、再テストに向けて勉強したのに、結局赤点だったとき。瑠璃ちゃんは「この途中計算、前はできていなかったのにできるようになってる」って言ってた……。



 ビュオオーと、一際大きな風が吹いた。



 ――でも、私は点数だけを見て……何も変わってないって思った……。



 「……その様子からだと、気がついたようですね。その気持ちが簡単そうで、一番難しいのです。これからその心意気を忘れないように!」

 「はい……! ありがとうございます!」



 二人で一緒に明るい笑顔をする。その瞬間、手の届きそうな場所に位置していた太陽が、光を強めた気がした。



 すると、二人は外で兵達がざわついていることに気がついた。



 萌恵は大神官の背後から顔を覗かせると、ざわついていた要因は容易に理解できた。



 「――大きい塔!」



 萌恵の眼前には、無限に続く空を衝いている巨大な塔があった。雲海に飲み込まれて下部は見ることができないので、まるで雲の上に塔が建っているように見えた。



 キラキラと目を輝かせて萌恵が見ていると、リュミエールが手を太陽にかざしながら馬車から顔を出して塔を一見する。



 リュミエールの表情は萌恵と相反して、当惑しているような表情だった。



 「……また延長したんですか……」

 「人の噂も七十五日と言いますが、こいつに限っては永遠に覚えてしまいますからね……」



 訳の分からない会話に、萌恵はコテンと首を傾げる。



 「リュミエールさん、あの塔はなんなんですか?」



 疑問を抱いた萌恵がそう言い、木箱に静かに座る。



 振り向いたリュミエールの目の色が変わっており、萌恵は固唾をのんだ。



 「あれは……《星の軸(アクシス)》と呼ばれる、この世界で一番巨大なダンジョンです……」

 「そうなんだ……でも、延長って……?」



 一番気になる点はやはりそこだろう。生物じゃあるまいし、夜に寝たりご飯を食べたりして体長が大きくなるなんてあり得ない。



 馬車は少々乱暴にカーブをし、そのダンジョンを避けた。萌恵はダンジョンにつけられている窓を一瞥したが、中は真っ暗で何も見えなかった。



 不思議そうにダンジョンへ目を注いでいると、リュミエールは小さく口を開いた。



 「あのダンジョンは……『噂が広まることにより、大きくなるのです』」

 「噂って……あの噂?」

 「ええ。どの程度流伝すれば大きくなるかは未だに明確になっていませんが、そのダンジョンは噂通りに内部の構造を変化させるのです」



 そんな摩訶不思議な現象を聞いて、萌恵は怪訝な顔をした。


 



 

 



 

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