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Fニューワールド  作者: 太鼓隊
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未曾有の事態

 萌恵達の何十倍もの体長がある夢魔(インキュバス)が驚いたもの。



 それは、夢魔(インキュバス)のさらに何倍もある、煌めく光球。それが遥か上空にあり、太陽の如く萌恵達を照らしていた。



 「ア、アノマリョクノリョウハアブナイ! ニ、ニゲナケレバ!」

 「もう遅いよ! 悪い子はおねんねしなきゃね! そーれ! 『ラッキーシューティング!』」



 なんとも魔法少女らしい必殺技の名前とともに、杖を振り下ろして光球を夢魔(インキュバス)目掛けて発射した。



 「ヤ、ヤメロォォォォ!」



 声にもならない叫びごと、光球は夢魔(インキュバス)を飲み込んでいった……はずなのだが、地面に光の玉が触れた瞬間、フッと消えていってしまった。



 夢魔(インキュバス)はあまりの出来事に、目を点にして大口を開けていた。



 「……アレ? ナントモナイ……」

 「あちゃ~、今日はアンラッキーな日だったか……」



 萌恵以外の四人は、完全完璧な魔法を扱うことができるのだが、萌恵だけはどうしても本来の力を上手く扱えないのだ。



 なので、どんな魔法を唱えられるかはその日の『運』で決まる。今日はただの、魔力が高い光を発するだけの光球を出現させたようだ。



 夢魔(インキュバス)異常が無いか、体のあちこちを念入りに探す。何も異常がないことを確認できた夢魔(インキュバス)は、間抜け顔を元に戻す。



 「……フッ! ショセンハタダノミカケダオシカ。モテアソンダバツトシテ、オマエニハトッテオキノクルシミデコロシテヤル!」

 


 頭の何かが完全に切れたのか、夢魔(インキュバス)は鋭利な牙を剝き出し、萌恵に食らいつこうとする。



 「うーん……今日の運勢は最高って雑誌で見たのになぁ、もう一回試してみよーっと!」



 目の前の敵のことは気にも留めずに、萌恵は持っている杖を先程と同様に空へと掲げる。



 そして杖は光り輝きだし、辺り一帯を包み込んだ。



 「――! メクラマシカ!? コシャクナマネヲ!」



 しかし、杖は次の瞬間には光を発さなくなり、辺りにも変化は見られなかった。



 「バンジキュウストイウヤツカ?」

 「あれれ? 流石にやばい感じ……?」

 「萌恵ちゃん!」



 瑠璃は必死に足枷を振りほどこうとするが、全く外れる気配はなかった。それどころか足枷の強度は大幅に増加しており、まるで鉄のように強靭な足枷に変化していた。



 瑠璃達はなんとかして足枷を外そうとするが、外れる兆候はない。その滑稽な姿を見て夢魔(インキュバス)は哄笑した。



 「イイキミダ! オマエラノナカマガクワレルスガタ、シッカリトメニヤキツケロ!」



 蛇に睨まれた蛙のように動かない萌恵に、牙を突き刺そうとしたその時、



 「おい待て! お前、このままじゃ死ぬぞ?」

 「ナンダト?」



 夢魔(インキュバス)が目を向けた先には、顔面に転んだ跡を赤くしている陽炎だった。



 「フン! ドウセタダノジカンカセギデアロウ? ソンナノワタシニハツウヨウシナイ」

 「そうか……なら『あれ』にぶっ飛ばされたいって意味だな!」

 「……アレ?」



 戸惑う夢魔(インキュバス)に八重歯を見せて笑いながら、陽炎は上に指を指した。



 口では達者なことを言っていた夢魔(インキュバス)だったが、気になってしまったようで、空を眺める。



 そこには、先程よりも小さい光球が浮遊していた。



 「マタソレカ? オナジテニノルホドミジュクデハナイ」

 「同じ手か……なら、よーくあの光の玉を見てみろ」

 「ヨーク?」



 言われた通りに、目を凝らして光の玉をじーっと見つめる。すると、あることに気が付いた。



 「ナンカ、ダンダンコッチニセッキンシテキテイルヨウダガ……モシカシテ!?」

 「今頃気が付いたってもう遅い! 萌恵! 今日のお前の運勢は……」



 『超超超ラッキーだ!!』



 こちらに接近してくる光球の正体、それは『隕石』だった。しかも超特大級のだ。



 「ナンダソノインチキハァァ!?」

 「インチキじゃないよ! ただの運だよ!」

 「オナジヨウナモンダ!」



 奇想天外な展開過ぎて、コントのような掛け合いをする。一応、これは命と命の削り合いなのだが……。



 そんな事をしていると、隕石衝突数十秒前。萌恵達の直ぐ側に迫っていた。



 「……! シカシ、オマエラモチメイショウハマヌガレナイ! ナンセアシカセガルカラナ!」

 「あらよっと!」



 ブチッ! と、陽炎が難無く足枷を引きちぎる。



 「エ?」



 続けて護も瑠璃も神楽も、難無くブチッ! と、足枷を引きちぎって立ち上がり、四人は集まっていった。



 そして四人は部活終わりの学生のようにワイワイと話しながら、萌恵の近くに歩いていった。



 その予想外な行動に対して、夢魔(インキュバス)は目を丸くした。



 「オイマテマテ! ナンデソンナカンタンニアシカセガトレルンダ!?」

 「だって、こんな低級魔法じゃ神楽達を完全に拘束できないよ~?」



 神楽は足枷に指をくぐらせ、クルクルと回しながら無邪気な幼子のようにニヤニヤと笑う。その隣から、護が得々と話し始めた。



 「神楽ちゃんの言う通り、僕達はそんな簡単に相手の思うつぼには入らないよ」



 実は、足枷に引っかかっていたのは相手を油断させるための演技。脳内でテレパシーを通じて作戦を共有し合っていたのだ。



 萌恵の魔法が上手くいかなかったのは流石に想定外だったようだが、終わり良ければすべてよしということだ。



 「萌恵の側にいれば隕石の被害は食らわない。良くできた魔法だよなぁ」

 「オ、オレモソイツノチカクニ!」



 隕石から逃れようと萌恵の近くに寄ろうとするが、夢魔(インキュバス)の体は動いていなかった。



 あれほど魔力を使っていたのだから、魔力切れを起こすのは必然的だ。



 「それじゃ、成仏して来世は悪行の無い人生を歩めよ?」

 「……オマエラハイッタイ?」



 死を覚悟したのか、夢魔(インキュバス)は動かそうとするのを止める。



 「私達は! 『ただの魔法が使える高校生』だよ!」

 「ただの魔法って……ただの使い方違くない?」 

 「え!? そうなの?」



 五人が笑い合う姿を見ていた夢魔(インキュバス)は、ボソッと何かを呟いた。



 「ハイ……ドオリニ……」



 その瞬間、隕石が轟音をたてながら地上に衝突した。



 辺りは爆風が吹き乱れるが、萌恵の周りには特別な結界が張られており、被害を全く受けていなかった。もし結界を張っていなかったら……考えるだけでも恐ろしい。



 しばらくすると、衝突の際発生した煙が晴れてゆき、変わり果てた世界があった。



 「やっぱり萌恵の魔法はやべーなぁ……」

 「面影が全然無いよ……」



 五人がいた地面以外は、本来の高さより五メートルほど抉れていた。萌恵自身も自分の魔力に背筋がゾッとした。



 呆然としていると、五人の前に謎の結晶が空から現れた。



 『ほいほい、お疲れさん! 今日もナイスファイト!』

 「『カリウムさん』! おはようございます」



 目の前の結晶は萌恵達を魔法少女にした張本人、通称『カリウムさん』だ。



 実名がカリウムではなく、ただ単にこの人が現れたときがテスト期間だったから、カリウムの結晶を覚えるためにそう名付けられたのだ。



 この結晶が本人なのか、影武者なのかも分からない謎の人物だ。



 「カリウムー? なんか今日の敵おかしくなかったか?」


 

 陽炎は後頭部で腕を組み、カリウムに疑問を投げかける。するとカリウムは分かりやすく体を傾げた。



 『そうかい? いつもと変わらない魔力だったけど……』

 「表面的な魔力はいつもと変わらないのですが、内面的の魔力が全く違うんですよ」

 「神楽もあんな敵初めて見たぁー!」



 (なんかあの夢魔(インキュバス)、最後に何か言っていた気がするけど……空耳かな?)



 『んまぁ、詳しい内容は後で聞くよ! 帰りの魔法陣出すから少し待ってて!』



 カリウムはそう言い残すと、煙のように空へと消えていった。



 この世界は魔力の流れが複雑すぎて、護の魔力じゃ上手く帰れない。なので、カリウムがいつも帰りの魔法陣を用意してきてくれるのだ。



 カリウムが魔法陣を出すまでの時間は萌恵達にとって休憩タイム。それぞれお喋りに花を咲かせる。



 「そうだ! モリリン、帰ったら宿題見せてくれ!」



 陽炎が両手を合わせて護を拝むように懇願すると、護はジト目で陽炎を見た。



 「またかい!? そろそろ自分でやってくれよ……」

 「陽炎先輩、宿題はちゃんとした方がいいですよ!」

 「萌恵ちゃんもだけどね……」



 ぐうの音も出ない正論を突きつけられた萌恵は「そうでしたー……」と、舌を出して頭を掻く。



 雑談をしていると、五人の目の前に赤色の魔法陣が現れた。



 待ってました! という風に神楽は手をパンッと叩く。



 「今日は早いのね! ささ、萌恵先輩からお入りになって!」

 「うん! ありがとね!」



 魔法陣に足を踏み入れる。その瞬間、萌恵の体に静電気ぐらいの電流が体を駆け巡った気がした。



 (何か……いつもと違う魔力がある。カリウムさん、別の魔法で魔法陣を出したのかな?)



 違和感を皆に伝えようとしたが、誰も違和感を抱いていなかったので、萌恵の思い違いということにした。



 「今日のカリウムさん、魔法陣出すの早いな!」

 「そうだよね、いつもなら最低三分はかかるのに」

 「カリウムさんも自分なりに魔法を練習しているのでしょう」



 しかし、その考えは全く違っていたのだった。



 しばらく魔法陣の中で待っていると、カリウムさんが空から降りてきた。



 『やぁやぁお待たせ! 今から魔法陣を出す……皆? 何その魔法陣?』

 「え? この魔法陣カリウムさんが出したんじゃないの?」

 『私、今から出す予定だったんだけど……』

 「危なかったね、もう少し遅かったらワープが始まってたかも」



 この時は誰も焦りを見せていない。でもこの後、萌恵の今世紀最大の『馬鹿』のせいであんなことに……。



 皆が出ていこうとしたので、萌恵も魔法陣から出ていこうとしたのだが、足に急に痛みが走り、皆を巻き込んでドミノ倒しのように次々と倒れていった。



 「いたた……ごめん皆」

 「平気だよ……さぁ、早く魔法陣から出ましょう……」



 立ち上がろうとした瞬間、魔法陣が光り輝き始めた。



 「おい待て! これワープ始まっちゃったんじゃないか!?」

 「ヤバイ! ワープは中断できる方法は無いよ!」

 「ええ!? じゃあ、神楽達どこに行くの?」

 「お、落ち着いてください! まだ何か策が……」

 『ご……ごめんなさぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁい!!』



 萌恵が大声で謝ると、萌恵達が乗っていた魔法陣はその場から消えてしまった。



 『……え? 皆?』



 すると、結界は崩壊して、カリウムさんは元の公園のベンチがある場所に戻ってきた。




 



 



 



 



 



 

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