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Fニューワールド  作者: 太鼓隊
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私達の戦い

 「萌恵! 何ボケッとしてるんだ! そろそろ到着するから準備をしておけ!」

 「す、すいませ~ん……!」



 陽炎に注意をされ、頭をボリボリと掻いていると、異様に魔力の濃度が高くなっている場所があった。



 萌恵は場所を発見したので皆にも伝えようとしたが、どうやら既に察知しているようだった。



 「……ここか」



 陽炎がそう呟いた場所に目線を向けてみるが、そこにはどこの公園にもある木のベンチがあった。何も言わなくとも、皆は地上へと高度を下げていく。



 この魔力の濃度は皆何回も見ているはずなのだが、萌恵は一向にこの感じに慣れないらしい。



 フラフラとしている萌恵は、皆より一足遅れて地上に降り立った。



 「そんじゃ、今日も始めますか! モリリン、結界潜入(ダイブ)を頼む」

 「了解……」



 陽炎に指名されると、ベンチに向かって護は持っている魔導書を一ページめくり、静かに目を閉じた。すると緑色の魔法陣が突然出現し、その場でクルクルと回転を始めた。



 「魔力感知中……クリア。魔力濃度計測中……クリア……ここか! 結界潜入(ダイブ)!」



 護は閉じていた目をカッと開き、結界に侵入するための詠唱をした。



 その直後、回転していた緑色の魔法陣は矢庭に消失し、代わりに人一人分の大きさをした赤色の魔法陣が現れた。



 魔法陣の出現を確認した護はクルリと身を翻して、傍観している四人に目を向けた。



 「心の準備はいい? 行くよ……」



 護が鋭い目つきでそう呟くと、萌恵達は一人ずつ魔法陣の中へと足を踏み入れた。



 最後尾の萌恵が魔法陣に足を踏み入れた瞬間、一際大きな風が吹き、萌恵の後ろ髪をなびかせた。



 一歩進むだけで、萌恵達のいた世界とは異なる世界へ飛ばされる。そこはまるで戦争後のような焼け野原。朝昼夜時間に関係なく、この世界は夕暮れだ。



 「いつ来ても慣れませんよね……」

 「神楽ちゃん、私の後ろに隠れてていいからね?」



 周りの雰囲気にビクビクしている神楽に、瑠璃が優しく話しかける。



 しかし、神楽はプイッ! と可愛らしくそっぽを向く。



 「余計なお世話です! 私も一人で頑張って見せます!」



 と、言いながらも瑠璃の側に寄り添う。最年少だから仕方ないことだ。



 そんなひと時の団欒さえも『奴ら』は待ってはくれない。今日もドシン! と、豪快な足音を立てながら萌恵達の前に現れた。



 『……ウォォォォォォ!!』

 


 「相変わらず懲りない奴らだな!」



 この異形が、魔法少女が倒さなければならない『夢魔(インキュバス)』だ。奴らは萌恵達くらいの子供の夢に食らいつき、夢魔(インキュバス)に変化させてしまう恐ろしい奴らだ。



 奴らは液体だったり、動物型だったり様々な種類がいる。今萌恵達の目の前にいるのは、一番被害が少ない液体型の夢魔(インキュバス)だ。



 被害が少ないと言っても、成長したら一度に大量の子供の夢を食う強大な夢魔(インキュバス)に進化してしまう。



 なので、例えまだ夢を食っていない個体でもしっかりと駆除する必要がある。



 「ウォォ……オマエラハ、オレノヤボウノジャマヲスルノカ……?」

 「ほほう、喋る夢魔(インキュバス)とは……興味深いね」



 基本夢魔(インキュバス)は自我を持たない。自我を持った個体は初めて見た。



 この時点で、萌恵の体は妙な不安感を覚え始めていた。



 「何であろうとぶった切るだけだ! うおりゃぁぁ!!」



 気合の籠った声と同時に空高く飛び上がり、陽炎は手元に鳥の羽に酷似した大剣を出現させ、体を空中で回転させて勢いをつけながら、夢魔(インキュバス)の体を薙ぎ払った。



 見事命中し、夢魔(インキュバス)の体に大きな切り傷が付いた。



 「――グァ……! コノグライノコウゲキ……」



 咄嗟に切られた箇所を手で押さえつけたが、その様子からはあまり効果が無いと感じさせた。



 「……それはどうかな?」



 スタッと華麗に着地した陽炎先輩は、ニヤリと八重歯を剥きだして笑った。



 「ナニカワカランガ、コノグライノキズ……」



 夢魔(インキュバス)は自己治療能力が恐ろしく高い。少し目を離しただけでも、あの位の傷は簡単に癒えてしまうだろう。



 だが、陽炎のあの大剣で斬られていなければの話だ。



 「……キ、キズガナオラナイ!?」

 


 予想外のことに奴は困惑し、傷口に自らの手を突っ込み内部から修復を施そうとするが、その瞬間、傷口から深紅の炎が立ち始めた。



 「――アッツイ! コノワザハナンナンダ!?」

 「私の大剣は正義の炎を宿した制裁の大剣! お前みたいな奴は、塵すらも残してやんねぇからな!」



 持っていた大剣を地面に突き刺し、人差し指を夢魔(インキュバス)にビシッと向ける。



 「コ……コウナッタラ! オマエラノユメヲクイツクシテヤルゥゥゥゥ!!」



 悪戦苦闘を強いられると判断した夢魔(インキュバス)は、短期決戦にしようと一気に勝負に出てきた。



 全身の魔力を使って、大量の睡眠ガスを口から放出してくる。このガスを吸ったら即座に睡眠状態になってしまい、夢の中に夢魔(インキュバス)が入ってきてしまう。



 迫ってくる死のガスに、焦りを全く見せずに護が萌恵達の目の前に立ち塞がる。



 「ここは僕に任して! 『魔力結界(バリア)』!」



 魔法を唱えると、護の持っていた魔導書が迫りくるガスに向かってページを見せた。その直後黄色の魔法陣が出現し、萌恵達を包み込んだ。



 「流石モリリンの魔法陣。この程度の睡眠ガスじゃ破れないんだな!」



 と、言いながら陽炎は護と肩を組む。いつもなら「やめろ~……」と、可愛らしく陽炎を引き離すのだが、今日は抵抗すらもしていなかった。



 「……どうしたモリリン?」



 本来喜ばしいことなのだが、引き離されるのが習慣化した陽炎は誰よりも早く異変に気がつく。



 「……一つ不可解な点が」

 「どうしたんです? 護先輩……」



 魔法陣を張り巡らせながら、護は(いぶか)し気な顔をする。



 このチームのリーダー的存在の護が悩むとなると、当然チームの一員の私達も心配する。緊張が駆け巡る中、護は小さく口を開く。



 「なんか……奴には申し訳ないけど『弱すぎる』んだよね……」

 「「「「……確かに」」」」



 一応生死をかけた戦いなので油断は禁物……と言うが、護の意見には満場一致だった。



 今まで萌恵達は何百匹の夢魔(インキュバス)と戦ってきた。勿論昨日もだ。だから凄い筋肉痛に悩まされるているのだ。



 ともかく、護の言う通りこの個体は弱すぎる。いつもなら陽炎の大剣を多少弾き、護の結界も少し剝がれてしまう箇所があるはず。



 なのに今日の敵はそんなこと全く無い。皆一様、経験したことない未知の緊張が走る。



 「……まぁ、速く倒せるのはいいことじゃん? それじゃ、瑠璃ちゃんと神楽ちゃんは私のサポートお願い!」



 この緊張した空気をなくすために、萌恵は何気ないことを言う。



 「……了解萌恵ちゃん!」

 「萌恵先輩の為にも、神楽は精一杯頑張ります!」

 「そろそろ睡眠ガスが終わるよ! 二人は突撃の準備を!」



 護がそう言った直後、ガスの霧は晴れてゆき、ヘロヘロになっている夢魔(インキュバス)がいた。



 その姿を確認すると護は結界を解除し、瑠璃と神楽は突貫していった。



 「コンナハズジャ……」

 「悪いけど、萌恵先輩のためにも犠牲になってもらうよ!」



 二人は風のように走っていると、瑠璃は奴の一歩手前で立ち止まり、自分の手をまるで龍のような形へと変化させた。



 いきなりの変化に、動揺している夢魔(インキュバス)は足元の神楽に気がついていなかった。



 「無視は油断しすぎなんじゃない!?」



 そう言うと神楽は全身に力を溜め、両手にトンファーを出現させた。



 トンファーは次第に電気を纏ってゆき、紫色になったところで奴の腹部に強烈な一撃を負わせた。



 「グワァ!?」

 「続けていきます!!」



 深手を負った夢魔(インキュバス)に、瑠璃が龍の手から発射した魔法弾が容赦なく襲い掛かる。立ち昇った黒煙の中から夢魔(インキュバス)が倒れてきた。



 「グァァァァ!!」

 「よし! もう萌恵の出番はなさそうだな! 後は私達が……」



 後ろで魔力を回復させていた陽炎が意気揚々に前線に出ようと飛んでいこうとするが、何かに引っかかり、地面に顔から転んだ。



 「いたたた……なんだよこれぇ?」



 陽炎の足に付いていたのはジェル状の足枷。護が心配して陽炎に手を貸そうとするが、護も何かに躓いた。



 「――ッ! いつの間に!」

 「神楽の足にも付いてるぅぅ!」

 「わ、私も!」



 どうやら二人だけではなく、神楽と瑠璃にも足枷が付いているようだった。その姿を見て、夢魔(インキュバス)は高笑いをした。



 「アーハッハッ! ヨワイナラ、ソレナリノクフウヲスル! ドウダ? クヤシイカ?」

 「聞こえていたんだね……」

 「アトハ……アソコノウゴイテイナイヤツダケカ」



 夢魔(インキュバス)が見た先には、杖を持って「うーん……!」と唸っている萌恵がいた。



 「トマッテイルトリヲイルノハカンタンダ。マズハコイツノユメカラクッテヤル!」



 そう言うと口から睡眠ガスを吐こうと息を吸い込む。しかし、萌恵の上空の見て頬に空気を溜めたまま絶句した。



 「……今日も萌恵で終わりか」

 「仕方ないさ。あの子が一番強いんだもの」

 「ナ、ナンナンダアレハ!?」


 


 



 



 



 



 



 



 



 



 

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