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1-5 サーフィンショップのおかしな常連たち

「いらっしゃーい」


少し経ってから入ってきたのは黒髪三編みメガネの女性。

サーフボードではなくゲーム機を持っている。

チェックのワイシャツにダボダボのデニムパンツ。

見るからにサーフィンするようなひとではない。


「へへ~、かわいい男の子がいるっすね~」


けだるげでドロドロのスムージーのような声だった。

それだけならば個性だが、

口ぶりや言葉、笑い方がいやらしい。


「ナミさん、不審者だ」


自分が狙われていると思ったソソグは助けを求めた。

淡白にいいながらもあとずさり。

ポケットにある自分のスマホに手をかける。


「大丈夫だよ~。

 知ってる不審者だから」


「不審者であることは

 間違いないのかよ!」


自分も思わず不審者と言ってしまったが、

ナミもそれを認めてしまう。

これにはソソグも思わずツッコミを入れた。


「あーしはリイって言うっすよ。

 読むリードのリイ、

 こう見えて大学生っす」


リイは自己紹介して

メガネを直すポーズを見せた。

自分を知的な女性と見せたかったのだろう。

だが持っているのがゲーム機、

さらに妙な言葉遣いに古臭い格好は、

知的とは違う感じを覚える。


「俺はソソグ。

 だが、それだとリドさんになるのでは?」


「それもカッコいいっすね~。

 異世界転生したらそう名乗ろうと思うっす」


「ナミさん、日本語が通じない」


ソソグは再度ナミに助けを求めた。

対しナミは慣れているように笑う。


「いつものことだから気にしなくていいよ。

 他にもいるし」


「どうなってんだよ、

 この店の常連」


まだ見ぬ強敵ならぬ、

まだ見ぬ不審者にソソグは頭を抱えた。

どんなひとたちがこの店にやってくるのか想像もできない。


「あーしも敬語使わなくていいっすよ。

 みんなフレンズっすから」


「大丈夫か?

 話通じるか?」


「大丈夫っすよー。

 ロボットアニメでドイツ語、

 バトル漫画でイタリア語、

 声優でロシア語を学んだっすから」


「分かった、もういい」

ソソグは手のひらを前に出して

違う言葉が出てくるのを止めた。


「そのリイさんもサーフィンやるのか?

 見た目で判断するようで悪いが、

 全然そうは見えないけど」


「見ての通りただのオタクっす。

今や絶滅危惧種と言われつつあるアキバ系っすよ」


「そのアキバ系がどうしてこの店に?

 そこのアニメが目的とか」


「そうっすねー。

 それに海沿いのカフェの常連って憧れないっすか?」


「ああ、それは分かる」

ようやく共感できる部分が出てきた。

ソソグは腕を組んでうなずく。


(そう考えると、

 この店ってカフェとしては

 いいロケーションなのかもな)


ふとそんなことを思った。

羨ましいような、

憧れていた場所にたどり着いたような、

そんな気分に胸がポカポカするのを感じる。


「それじゃ、

 あーしはゲームしてるのでお気になさらず、

 イチャイチャしてほしいっす」


言いながらリイは慣れたいつもの席に座るように、

テーブルについた。


「はいはーい」

「いや、イチャイチャしてねーし」


ナミは元気に答えて、

ソソグは顔をしかめて言う。

リイはそんなことも気にせずに、

本当に携帯ゲーム機を出してピコピコと操作を始める。


「憧れの『海沿いのカフェの常連』になって

 やることがそれでいいのか?」


「いいんじゃなーい。

 ナミちゃんもデスクワークしよー」


そう言ってナミも

カウンターのパソコンを開いて操作を始めた。



「おう、バイトを雇ったって聞いたから見に来たぜ」


次にやってきたのはショウと同じような

ガタイのいい男性だった。

口ぶりからして常連だろう。

それにリイと違って本来は

こういうひとがサーフィンショップに来るはず。


「い、いらっしゃいませ」


ソソグはちゃんとした挨拶をした。

正しい客層が来たことに安心するが、

同時に緊張もする。


「俺はミチオ。

 店主ショウの元戦友ってやつだぜ。

 まあ気軽に話してくれ」


「はい。よろしくおねがいします」


(戦友って、

 まるで元軍人でもやってたような言い方だなぁ。

 ガタイがいいから、

 本当に元軍人だとしても納得しちゃうけど)


ミチオの言葉にそう思いながらも

ソソグは返事をした。


「それじゃ更衣室借りるぜ。

 ナミちゃーん、

 サーフィン終わったらコーヒー入れてくれや」


「今日からコーヒー担当はソソグくんだよー」


緊張の残るソソグに対して、

ナミは本当に接し方を変えずに言った。

父親の友人で常連だから平気というのもあるのだろう。


「そっか、期待してるぜ」


ナミの言葉に

ミチオは笑ってソソグを見つめた。

ショウとは違い笑顔が柔らかい。


「は、はいっ」

ソソグは背中を伸ばして返事をした。

それから、

(き、期待されてる……。俺のコーヒー)

と思って息を呑んだ。

声をかけてくれた本人は

いなくなっているのに身が引き締まる。


「大丈夫だよ~。

 ソソグくんならおいしく淹れられるって」


「見たこともないのにそう思うのか?」


「だって、

 ナミちゃんもお父さんも使ったことない道具の使い方が分かるんだよね?

 ならこのお店で一番詳しいよ」


ナミは元気づけるような

オーバーな動きを見せながら言った。

それを聞いてソソグの肩から力が抜ける。


「そ、そう言ってもらえると嬉しい」


ソソグの返事にナミはコクコクとうなずいた。


「ところで元戦友って言ってたけど、

 店主とミチオさんは軍隊出て……

 いや日本だと自衛隊か。

 そういうところで働いてたのか?」


「ううん、会社員だったよー」


「じゃあなんで

まるで戦場にいたような言い方をしたんだ?」


「一昔前は、

 お仕事が大変だったからねぇ。

 ソソグくんのお父さんとかも大変だったとか言わない?」


「俺、父親を亡くしてて、

 ろくに話したことも覚えてないんだ」


「そうなんだ、ごめんね」


それを聞いたナミはハッとして、

申し訳なさそうに視線を落とした。

ソソグは慌てて両手を振りフォローする。


「ああ、ごめん。

 怒ってないし、

 そんな気を使わないでくれ」


「ううん、ナミちゃんも

 似たような家庭だなって思っただけだよ」


「似たようなって」


「ナミちゃんが小さい時お母さん死んじゃってね、

 お父さんがひとりでがんばってたんだ」


「そっか」


寂しそうな目で語るナミ。

ソソグはそんなナミに掛ける言葉を思いつかない。

短い返事だけをした。


(それで『お母さんゆずりらしい』って

 言い方したのか。

 店に店主とナミさんしか居ないのもなっとくだ。

 だが、俺もどういう言葉かけてほしいか

 分からないんだよなぁ。気まずい)


ソソグがそう思って目をそらそうとすると、


「そうそう。

 あ、お父さんの仕事の話だったね。

 お父さんいわゆるサラリーマンしてたんだけど、

 戦場みたいに大変だったってこと」


ナミの方から話を戻してくれた。

声も表情もいつもどおり真夏の太陽のように明るい。

ソソグの表情もそれを見て、

いつもどおりに戻っていく。


「体力的にきつい仕事だったとか?」


「お父さんいわく、

 ひとはストレスで倒れたり、

 勝手にいなくなるひともいたり、

 いつの間にかひとがやめてたりで大変だったらしいよ。

 そんなときにいっしょに働いてたのが

 今のミチオさんってわけ」


「想像できないな……。

 戦場みたいな大変な環境にいっしょにいたから、

 戦友ってことか」


「それにそう名乗ったほうがカッコいいからとか言ってたよ」


「なんだそれ」


ソソグは緊張感が解けて、

さらに体の力ががっくし抜けた。


「ごっこ遊びみたいな感じで、

 男の子ってそういうのあるんじゃないの?」


「俺は分からん」


「リイちゃんの『海沿いのカフェ』って

 ロマンは分かるのに、

 お父さんのロマンは分からないんだ」


「男もいろんなやつがいるってことだ」


「そだねー」

「なんだその顔は」


「ううん~、なんでもないよ~」

ナミはそう言って笑うだけだった。



「やあやあ、見ない顔がいるねぇ」

今度は穏やかな男性の声が聞こえてきた。


男性は声の印象と違わない顔をしていた。

細くていつも笑っていそうな顔に、

楕円のメガネ、生活感を感じる髪型。


「いらっしゃいませ。

 バイトで入ったソソグです」


怖い印象がなかったおかげか、

ソソグは緊張せずに挨拶できた。

男性も穏やかな顔のままうなずいてくれる。


「ボクはテラダ。

 しがないオタクさ。適当に話しかけてよ」


「テラダさんいらっしゃーい。

 今日はどっちのボード使うの?」


「今日はアヴァロンで乗ろうと思ってるよ」


駆け寄ってきたナミに

テラダは抱えていたサーフボードを見せた。

青と白と黄色のラインが混じったデザイン。

とてもかっこよく、

サーフボードというよりファンタジー映画の武器のようだった。

ソソグはあまりらしくないデザインに口を開ける。


「すごいデザインだ」


「ゲームに出てくる武器風に塗ってるんだ。

 カッコいいだろう?」


好きなことを聞かれたからか、

テラダはごきげんな声と自慢げな笑みを浮かべた。


「テラダさんはサーフィンをやるオタクなんですね?」


「うん、そこのアニメのおかげで

 サーフィンにハマってね。

 おかげでアウトドア人間にクラスチェンジさ。

 それじゃ更衣室借りるね」


そう言ってテラダは奥へと歩き始めた。


「いろんなひといるんだな」

「そだよー」


ナミは嬉しそうにうなずいた。


すると、

「な~にがアウトドア人間っすか。

 陰キャが陽キャの顔してるだけじゃないっすか」

と今まで静かだったリイが声を上げた。


やや不機嫌そうな、

テラダをバカにするような目つきだ。

その声にテラダは足を止めて振り向く。


「だが僕はサーフィンのおかげで鍛えられて、

 陽キャの顔になったと思うが?」


テラダも今まで柔らかそうな顔を一変させた。

細い目のままテーブルに座るリイを見る。


「中身が変わってないって話っすよ!

 サーフボードにそんな名前つけちゃってさ~」


リイはサーフボードに目をやった。

どうやら名前の由来が分かるようだ。


「確かに珍しいかもな」


「他の常連さんは、

 サーフボードに愛着持ってても

 名前つけたりはしないからねー。

 ナミちゃんはとってもいいと思うけど」


「ほら、これこそオタクの思考。

 オタクだって筋トレする時代、

 外見なんていくらでも繕えるっす。

 つまりテラダさんはオタク、QED!」


そう言って椅子から立ち上がって、

リイは名探偵が犯人を指差すようなポーズを見せた。


「リイは僕をどうしてもオタク扱いしたいようだね」


対してテラダは

リイの主張や推理を認めていないようだ。

硬い顔のまま、

リイの柔らかそうな指を見る。


「当然っす。

 同じ穴のムジナ、

 いや同じ穴のオタクなのにカッコつけようとして、

 見てらんないっすから」


「その割には僕とリイは

 やってることが違うじゃないか?

 リイのさっきの動きは、

 孵化厳選している動きと見た」


「そ、そうっすよ。

 流行りの型が変わったから、

 違う個体を厳選しなおしてるっす」


「なんだ孵化厳選って」


「ナミちゃんも分からないな。

 ゲームのタイトル?」


ソソグとナミは顔を合わせて首をかしげた。

だがリイもテラダもお構いなしに言い合いを続ける。


「こんなところにまできてやることじゃない!

 ここに来たならサーフィンしたり、

 海を見ながらコーヒーを味わったり、

 やることはあるだろう?

 同じ穴のムジナなら

 こんなにもやることが違うことはないんじゃないか?」


「だけどそんな少ない情報で探偵みたいなこと言って!

 それはオタク知識があるからこそできる。

 つまりテラダさんはオタク!」


「探偵ネタを持ってきたのはそっちだろう?」


「まあまあ、

 テラダさんもリイちゃんもそこまでにしたら?

 同じ波は二度と来ないって波乗りの歌があるんだし、

 今逃したらつまらないと思うよ」


ナミが文字通り間に入ってふたりをなだめた。

なんとなくやり慣れているのを感じる。


「そうだね。

 今日はここまでにしておこう」


「ナミちゃんに花を持たせて、

 いや、波に乗せてあげるっす」


そう言ってリイは椅子に座りゲーム機に、

テラダ更衣室に足を進めた。


「なんなんだ、このふたり」


「いつもこんなやりとりしてるんだよー?」


「ケンカにならないのか?」


「じゃれ合ってるみたいなものだよ。

 ナミちゃんは見てて楽しいけどねー」


「何言ってるのか分からんのに?」


「ひとが楽しそうに話をしてるのはおもしろいでしょ?

 ほら、ラジオとか聞いてると気分がいいのと同じ」


「なるほど」


そういわれるとふたりのやりとりは、

プロレスを観戦しているような感じに思えてきた。


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雨竜三斗ツイッター:https://twitter.com/ryu3to

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