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1-4 おかしなサーフィンショップ

初バイトの日。土曜日だ。


ソソグはナミに案内されながら、

改めてこのお店の中を見て回った。


前にも思ったが、

サーフィンショップと言われて

イメージする通りの空間がある。


「サーフィンのグッズとかについて聞かれたら、

 ナミちゃんかお父さんを呼んでね。

 ソソグくんひとり置いて店からいなくなることはないから安心して」


店内には三種類の大きさのサーフィンボード。

様々な色やサイズのウェットスーツ。


アロハシャツ、サングラスなどなど

サーフィンをするだけでなく、

この地域を楽しむようなものも売っている。


「昨日も使ったテーブルはー、

お客さんが自由に使っていいことになってるよ。


サーフボードとかウェットスーツとか買ういわゆる商談をするとき、

コーヒーを飲むとき、サーフィンしたあと休憩するの、

どれでもウェルカムだよ。


あとフリーワイファイもあるから、

ソソグくんも好きに使ってねー」


店内はサーフィングッズだらけというわけではなく、

話をするためのテーブルや椅子もあった。

ひとつだけではなくカフェのように複数の木造のテーブルが並ぶ。


「床は水はけのよさそうな人工木で出来てるから、

 ちょっとくらい濡れてても入店お断りにしなくて大丈夫だからね」


「度合いが分からん」


「初めてきたときのソソグくんくらいなら大丈夫」


「だいぶ濡れてるじゃねーか」


そんなやりとりをしても声をじゃまするものはない。

意外にもBGMはなかった。

ズンズンドコドコと

サーファーの気分を盛り上げるEDMやレゲェはかかっていない。


「レジの使い方はあとで教えるね。

 ノートパソコンはサーフィンの話をするときに使うから、

 ソソグくんは使い方分からなくて大丈夫だよ。

 隣のはお店用のスマホ。

 盗難防止もしてあるから、

 念の為見てる程度でいいからね」


カウンターにはレジとノートパソコン。

どちらもサーフィングッズのメーカーのロゴなどが貼られていた。

一枚だけロボットアニメのシールらしきものが張ってあるのが気になるが、

店主の趣味だろうか。


「はい、これがソソグくんの仕事道具だよ。

使い方はナミちゃんか説明するより、

ソソグくんの方が詳しいよね」


そしてカウンターには

コーヒーミルとドリッパーも置かれている。

奥には増設したように流し台、

さらにウォータサーバーが置いてあった。


「そしてこれが『祭壇』だよ!

 知らないひとが聞いてきたら、

 ナミちゃんが話したのと同じことを説明してね。


 写真撮りたいひとは自由にオッケー。

 最近はもういないけど、

 新しいグッズ持ってきたらナミちゃんかお父さんを呼んでね。

 興味あるから」


『祭壇』と呼ばれた一角にはアニメのグッズ、

ブルーレイにフィギュア、本などが並ぶ。

おおよそサーフィンショップに置いてあるとは思えない代物たちだ。

コーヒーを淹れる道具たちよりも異彩を放っている。


コーヒーの道具もアニメのグッズも置いてある理由を聞いてはいた。

のだが、まだイマイチ納得はできないでいる。

ソソグはナミの説明を聞いても首を傾げたままだ。


「質問はある?

 あとで気がついたこととか、

 疑問に思ったことがあったらいつでも聞いてね。


 あ、ナミちゃんの体重はダメだよ」


「いや聞かないし。

 聞くまでもなく軽そうだ」


「ごめんねー、

 おっぱい大きくなくて。

 お母さんゆずりらしいの」


「別にいいし――」

と言ったところで、


(うん?

 今ナミさん『らしいの』って言ったな。

 そいえば家とお店がくっついているのに、

 ナミさんのお母さんをまだ見てないな)


疑問が浮かんだ。それを聞こうとすると、

店の奥のカーテンからショウがやってくる。

なぜかガッチリとした体型が分かるウェットスーツに、

抱えているのは大きなサーフボード。


「よう、今日からよろしくな」

「はい、よろしくおねがいします」


ソソグは昨日よりは固くない礼をした。

それを見てショウは顔を緩ませる。


「それじゃ任せたぞ」

「はーい」


ショウはナミの明るい返事と

鈴の音をバックに店を出た。

サーフボードを出し入れしやすいよう

ドアが大きく作られているのに今更気がつく。

それよりも気になったのは、


「おじさんは出張かなにかか?」


一応、念の為オブラートに包んで、

言葉を選んで聞いた。


どう見てもそんな様子ではないが、

失礼に当たらないよう念の為、

本当に念の為だ。


「サーフィンだよ」


ナミはケロッと当たり前のことを言うように答えた。

オブラートは無残に剥がされる。


「仕事は?」


「サーフィンするのも仕事みたいなものだから。

 新商品のボードを試したいんだって」


「はぁ……」

またも不思議なことを言われて、

ソソグは曖昧な返事をした。


「内容にもよるけど自営業って、

 遊びと仕事か分からないことしてるひとも多いから」


「そういうもんなのか。

 仕事ってまだまだ分からん」


ソソグは腕を組んで言った。

母親が文字通り汗水たらして仕事をしているので、

それを見てきたソソグとは認識の違いを感じる。

それでもナミは気軽な表情だ。


「だよねー。

 ナミちゃんも分からないことだらけだよ」


「それで店番できるのか?」


「サーフィンのことは詳しいから。

 それに分からないことがあったら

 見るマニュアルみたいなのもちゃんとあるし。

 いざとなったら海にいるお父さん呼ぶし」


「そっか」


ちゃんと考えられているのならば大丈夫だろう。

ソソグはひといきつくように答えた。


「でも今まではナミちゃんひとりになっちゃうの危ないから、

 行きづらかったみたい。

 だからソソグくんがいてくれるのはありがたいんだって」


「店主みたいに強そうなバイトじゃなくて申し訳ないけどな」


自分をバカにするようにソソグは言った。


先程見たショウはとても力強そうだ。

ウェットスーツ越しにも筋肉が分かり、

固く怖そうな顔つきに低い声。


ソソグとショウ、

どちらがボディガードに向いているかと聞かれれば

当然ショウだろう。


「ううん、男の子がいてくれるって

 ちょっと心強いんだよ。

 ナミちゃんも女の子だし」


ナミはか弱い女の子が

ウジウジとしているような動きを見せた。


今までのナミの発言や行動を考えれば

そんなの演技だとすぐに分かる。


「そ、そうか」


だがソソグは頼られてるのか嬉しかったのだろう。

そっぽを向いて、頭をかきながら、

そっけない言葉を返した。

それから話題を切り替えるように口を開く。


「だがバイトなんて人生で初めてだし

 ……どうすればいいんだ?」


「緊張しなくていいよ~。

 来るのはほとんどみんな常連さんだし、

 きついこと言うやつがいたらナミちゃんが蹴っ飛ばしちゃうから」


「いいのかよ」


「いいの~。

 かわいい弟分を守るのが

 ナミちゃんの役目なんだから~」


「俺が守るのか、

 ナミさんが守るのかどっちなんだ?」


「どっちもだよー。守り守られ。

 最近ヒロインがヒーローの背中を守ってるアクション映画も多いでしょー。

 そういう時代なの」


「そっか。だが接客業として、

 客を蹴っ飛ばすってどうなんだ?」


「お客さんを大切にすることももちろんだけどさ、

 店員も大切にされないとイヤじゃん」


「まあたしかにな……。

 ひと昔前はそういうお客さんもいたって母さん言ってた。

 今は見なくなったらしいけど」


「それに敬語も、

 常連さんには使わなくていいよ」


「常連ほど大切にしなきゃいけないんじゃないのか?」


「大体お父さんの知り合いだったりするし、

 フレンドリーにしてほしいってひとばっかりだから。

 ナミちゃんに話すみたいにでいいよ」


「わ、分かった」

「さ、開店時間だよー」


 時間はいつの間にか十時を回っていた。

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