表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/29

冷たい手



 私はイブに多くの虐殺シーンを見せられて正直動揺していた。ゲームの世界とは言えあまりに刺激的過ぎる光景だったからだ。


「ちょっと、まってよ! こんな場所で戦うゲームなんて酷すぎない」


「もしかしてビビった? ウィルステロは目に見えないからお薦めだ」


 実際、リアルな映像に私の気分は最悪だった。いくら私が、ちょっと男勝りの性格だとしても、あれで音やら臭いまで再現されたら、嘔吐する自信があるわよ。


「あんな酷いのは私は嫌だよ」


「仕方ないな。ちょっと待って」


 イブはそう言うと、手を振りスクリーンを消した。


「今、()()()()待ってて」


 それから、体を動かさずにキュレットに軽く手を添えている。きっと自分のグラスに映像を映しているんだろうなと私は思った。でも自分がクリエイトしたゲームなのに探すとは、また変な言い方をするもんだね。


 ――ああ、もう早く帰りたい。


 あれ、そういえばどうやってログアウトするんだろ?

 聞いていなかったよね。


 このGap Room(狭間の部屋)を改めて見渡してみると本当に広く感じる。上下左右の感覚はないし、音もしない。ただただ、無限に広がっているように思えてしまう。


「ねえ、イブ。この部屋はどんな仕組みで出来ているの?」


「聞きたいの?」


「だって、VRとは言え不思議空間だよ」


「アホに理解できないけど」


 再びアホ扱いされて、むっとしたが早く終わらせたいので我慢我慢。


「え~っ、イブさん是非教えてくださいな。ハハハ」


「仕方ない。ここは、重量子コンピューターでデザインされている。重量子PCのコアチップは、日本海溝の海底鉱床から出てきたレアメタルを使用し基本設計も僕がした」


「うっ、確かによく解んない。重量子PCすら私には理解できないよ」


「君が想像出来る言い方なら、30年前のPCが2万年かかる計算を重量子PCは、多層アルゴリズムを用いて1分06秒で解く。演算が速くて賢い」


 結月は、ぼーっとしながら聞き入っていた。が、やっぱり解らなかった。


「――はあ、やっぱり私はアホの子だ。イブとは頭の作りが違う」


「当たり前。ここはもう神の領域」


「くっ、天才の言う事は本当に理解できないよ」


 イブは、結月の質問に簡単に答えながらもキュレットで場所を探している。彼女の見つめる先には、一体何が見えているのだろうか。キュレットに集中していたイブが、キョロっと結月を見て話しかけた。


「丁度、いい時間。ブリーフィングを始める」


 結月は落ち込んで膝小僧を抱えて、イジイジしていたがその声に反応する。


「はあ~。やっとか~。くう~。やっぱり私は肉体派よね」


 そう言うと、足場のない空間で背中を丸めると、よっとばかりに足を蹴りだして跳ね起きて起立姿勢をとった。


「ふう~どうよ。体を使うなら私が上だからね」


「パンツ見せてやっぱり、アホの子」


「何度もうるさいわね、もう早く説明してよ」


 二人は顔を近づけて、じ~っと睨み合った。イブが一言。


「背はでかいけど、胸は貧弱」


「うるさいわね! あんたなんかぺったんでしょうが!」


「肉体構造にケチ付けるとは失礼。無駄がないと言って」


「うるさい、ドちび」


「ゴリラ女」


「なんですって、このしなやか体はチーターみたいなのが自慢の私に……」


 二人のけなし合いは続いたが、イブの一言で空気が変わってしまった。


「じゃあ、敵を殺して……自慢の体で」

「うっ、……そ、そうよね。モニターやろっかな」


 こうして、やっとミッションのブリーフィングが始まった。


「敵は、クリーチャー。場所は横浜のビル街」


「意外と、近い場所か」


「雑魚だから簡単。SESがあれば」


「そう、これで斬って倒せばいいのね」握った星剣を結月は見上げた。


「じゃあ、さっそく行ってみよう」結月は元気に声を発した。


「そうこれは、VRMMOGの世界」


「そう言えば最後のGってなに?」


「Virtual Reality Massively Multiplayer Online of G()o()d()の”G”」


「ごめん、私ちょっと長い英語は苦手でハハハ」


「…………やっぱり残念な子」


 イブは、そう言い放つと両手を広げて最初に見せた黒い渦を頭上に発生させた。

 Will(ウィル) Crystal(クリスタル)と時とは違い、渦は大きく広がる。


 渦を大きく直径2mほどに成長させると、イブはゆっくりと立てかけるように結月の正面にそれを移動した。2次元に見える渦を正面から覗くと中央部分は黒から無色、いやすぐに歪んだ景色を映し出し、次第とそれがビル街だと分かってくる。


「これからこれを通って移動」


「この渦を? なんか縁が歪んでて不気味だな」


「僕が、君の手を握るから怖くない」


「はあ、こんなおちびさんに手を引かれる羽目になるとは」と、うな垂れた。


 ちょっと不服そうに結月は手をイブへ差し出した。添えられたイブの手は小さくて本当に子供ようだが、なぜかとても冷たかった。


「あっ冷たい、すごい冷えてるよ。ここVRなのになぜ?」


「今は、黙って……」


 ――すごく集中でもしているのかな? 声のトーンも下がったし。


「じゃあ、結月行くから」


イブは合図をすると、その冷たい手が私の手をギュっと強く握りしめてきた。私は小さなイブに、こんなに力があるなんてと、ちょっと驚いてしまった。




◇◆◇◆




イブのキュレットには、リンクした情報や音声が流れている。

リンク先の《Mother》は、同時に二人の状況を観察し記録を続けていた。


*****

――Simultaneous records.

*****

――Yuzuki's body is not in the car. Eve as well.

――Yuzuki and Eve are disappearing from the real world.

*****

狭間の部屋から移動したイブと結月はバトルに飛び込んだ。それを記録するMotherとは?

次回;「初戦3分前」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ