敵の姿と無差別殺人
星剣を得た結月にイブは敵の姿を示す。目にしたその光景は一体……。
イブの言われるがままに、クリスタルに手を添えると、とんでもない量で意味が理解できない不思議な情報が頭に流れ込んだ。頭に激痛は走るし、怖くてクリスタルから手を放そうとしても、体が乗っ取られた様な感覚があり離す事も出来ない。
痛みに耐えていると、イブから手に掴めと言われて、痛いのと、怖いのから逃れるように、藁をも掴むように手を握った。
――熱い。これは!!
怖かったが、目を開け手で握った先を見ると、クリスタルから現れた硬い触感のモノを私は握りしめている。
――何なの、いったい……。
「結月。引き抜いて」イブの声が聞こえる。
その言葉と同時に、握るモノがさらに熱くなり、クリスタルの発光が増して行く。言われるままに引き抜こうとしたが動きゃあしない!
ちょっと、頭にきてソイツを両手で掴んで引きあげた。
「こんのぉ――――!!」
光が溢れる。眩しくて目が開けられない。クリスタルから途方もない量の光が溢れて白い空間はさらに実在感がなくなるように感じたが、同時に頭の痛みは治まってきた。
両手に、重みを感じて目をそっと開いてみる。
「くうぅ――。……何これ?」
両手で掴んでいたものは、そうこれは剣だ。
西洋の両刃剣に似ている一本の剣だった。
「おめでとう。結月。それ、君の武器」イブが話しかけてきた。
「これは、一体なに? デカいロングソード?」
「そう。君がクリスタルから得た、君の武器。"Solid earth sword"、通称SES、日本名は”星剣”」
そう言われてもよく解らないが、でも、ちょっとかっこいいかも。
「このゲームでの私の武器なのね」なんとなく理解はできた。
「振ってみて」
イブの言われるがままに数度、素振りをしてみた。まずは中段の構えを取り、上段へ振り上げて降ろす素振りをしてみる。金属性のようだが長い割には、思ったより軽い。が、握る柄がやはり少し熱い。
最初は長くてどうしようと思っていたけど意外とすぐに慣れてくる。金属らしい光沢が、次第と良く見えてくるから不思議だよね。
ヒュッ。ヒュッ。
「ふうん、これならなんとか扱えそう」
「刃は熱いよ」
「うん、とっても熱そうよね」
イブが説明を始めた。この剣SESはこの世界の意思を持つレアメタルである、『Will Crystal』に触れた者の意識に干渉されて、モディファイするとのことだ。この世界の設定と彼女は言った。
特にこのSESは、名称通り星のコアに依存しているため強力な力を秘めており、使用者の練度やイメージで性能が上がるとの事。これを手にできるのは、このゲームの中でもそうは居ないはずとイブは付け加える。
――凄いじゃない私、きっと選ばれし者よ。と、ちょっと得意になった。
「なななんと。いきなりレアアイテムげっと!!」
「やっぱり。アホ」
「うるさいわね、いい気分を壊さないでよ。それでこれからどうするの」
「もちろん、敵を殺すモニター」
この子は、見た目に似合わない事を口にするよね。倒すじゃなくて殺すなんて、やっぱり、こうでもしてユーザーを煽って人気ゲームを作っているのかな?
「結構、物騒な言い分ね」
「だって、事実。この世界では」
――ホラこれだ。まあいいや、早くモニター終わらせて帰らなきゃ。VRでの事だし適当に話を合わせておくか……。
「で、殺す敵はどんな相手なの」
「色んな種類が現れる」
「モンスターとか?」
「小さいの大きいのとか色々だよ」
――また、変な言い回しをする。口足らずって言いうか何というか。
天才と何とかは紙一重ってよく言うからイブもそうなのかな?
見た目はこんなに小さい天使ちゃんなんだけどな。
イブが再び片手を掲げて、手をフリックすると、空間にスクリーンのようなものがいくつも現れた。先ほどクリスタルを呼び出した黒い渦を展開した時とは違う。
「見て、これが敵達」
「ええええ。まあ仕方ないか」
スクリーンの側に行き、流れる映像を見る事にした。
そこに見えるのは、現代日本や見覚えのある諸外国の風景だ。
そういえば、設定は現実の世界って言ってたよね。
でも、よく見ると都市や街の中に変なものがいる。……これかこれが敵なんだ。
目に映る映像はゆっくりと切り替わっていった。出てくる敵は確かに金属的な多分ロボットだったり、巨大生物だったり、戦争をしていてみたりと……。
始めは子供っぽいなあと思っていたが、眺めているうちにちょっとグロい……。
「うううっ! 何これ、こんな映像いいの!
――これ子供向けのゲームじゃないの? R15とかじゃじゃないの?」
「だから、現実世界って言った」私の問いに、事も無げにイブは口にした。
だって、これ!
人が、人間が死んでるよ。ゴミみたいに……。
無残な姿で血反吐を吐いて、ある者は引き裂かれ、ある者は焼き払われ、潰され、喰われ、ミンチになり、悲鳴を上げている姿がリアルに伝わる。毒か、細菌にやられたのか大通りで大勢倒れて死んでる。核攻撃のためか一瞬で消滅する大都市、これNY……。
それは侵略や戦場やテロの現場だった。無差別殺人の様子を映し出していた。
私は気分が悪くなり口を押えた。
テロや戦争に災害。
2001年、同時多発テロでNYのビルが吹き飛ぶ映像は衝撃的だった。
2011年、東日本大震災も多くの犠牲者を出したが、同時に原潜乗組員が日本近郊の太平洋で被ばくの情報。
2020年、コロナウィルスの猛威で現在も死亡者が増加中。米国は指摘する中国から漏れた人工ウィルスだと。様々な脅威に私達は隣り合わせに暮らしている。
次回;「冷たい手」




