電脳世界
光の中に吸い込まれるのか、落ちて行くのか分からない感覚が私を支配している。音もなく何もない空間に私は漂っているように思った。
そうだ、私は今、VRゲームの世界へ旅立ったんだ。
上を見ても下を見ても何もない、真っ白い空間。
それと、さっきかけたキュレットは顔になかった。
「どうかなここは結月?」
彼女、このVRMMOへ誘ったクリエイターの真宮イブの声がする。
「どこ?」
「後ろ」
後ろを振り返ると、彼女はさっき会ったままの姿だが、私と天地が逆転して立っている。
「ちょ、ちょっと。これはどういう事? ここは何処?」
「〝VRMMOGメンフィス〟へようこそ。そしてここは、入り口の世界。僕はただGap Roomって呼んでる」
「その前に、見てるだけで気分が変になりそうだから私と同じに向いてよ」
天地逆転して話すイブの顔を見てるだけ、気分がむかむかするほど、視覚からの違和感が私に押し寄せていた。
……いったん目を閉じて、彼女が私に向き直すのを待つとしようかなっと。でも、ゲーム名がVRMMOGメンフィスか。Gが一個多いね? 新作? じゃあここは、開始時のチュートリアルの場所でいいのかな?
「これで良いかい」
イブの声を聞いて閉じた目を開くと正面に彼女は立っていた。でも、足元に何も感覚のない自分が浮遊しているような違和感は、まだ拭えない。
「ふう、やっとまともに話せそう。それでこの白い場所は何んなの?」
「ここは、ゲーム開始時のFastsettingの場所」
「やっぱりそうね。思った通りね」
「君、単純すぎ」
私はちょっと気にいった幼女に、アホ扱いされたのが解った。
「うるさいわよ、せっかくモニターしてあげるんだからね。それに私の名前は神野結月、16才。花の女子高生様よ!」
「やっぱり、……アホ」
まったくこの幼女は、と、考えているとイブは両手を胸の前に構えて何やら初めていいる。
「なにしてるの?」
「準備、これバトルだから、君の武器を決めてもらう」
「武器~? 現実世界か……銃とか刀とか?」
「ふう、発想が貧弱。――何でもいい。核でも衛星レーザーやバイオ兵器。魔法や呪いでも」
この時、私はちょっと変だと思った。このゲーム設定がヤバくないのと。
「ええっと、そんなの、ちょっと判んないかな」
「じゃあ、君の狭い想像力の中でいい」
この一言で、やっぱりアホ扱いされたのが解る。
「まったく、言いたい事いってもう」
結月は、これ以上馬鹿にされまいと一生懸命に考えた。
考えを巡らせていると、両手を構えていたイブの目の前、いや正確には構えた手のひらの間だ。黒点に見えるモノが次第と大きくなり渦巻いているように見えた。
「なにそれ?」
「これで、決めてもらう。君の武器。さあ、来て」
ちょっとおっかない気もしたが、ここはVRの世界。おおげさな演出が、ちょっと不思議空間で起きてるだけよね。と結月は思いイブの側に近づく。
黒く渦巻いた中から、煌めいたモノがゆっくりと浮上してくる。なにか判らないが、私はそれがとても綺麗に感じていた。
「おお~なにこれ?」
「さあ、触れて〝Will Crystal〟に」とイブが呟く。
おそるおそる、私は手を伸ばして、クリスタルに触れようとした。
この時イブは、口元を少しゆがめて微笑んでいるように見えた。
――私に紅茶をもてなしてくれた時のように。
「さあ、武器をイメージして……」イブが優しく話しかけてきた。
……ええっと、どうしよ。ううう、やっぱり私なら剣かな。そう、毎日私は竹刀を握ってるんだから。
そっと手で触れた。クリスタルに――。
その瞬間、私の頭にまったく理解できないモノが送り込まれた。きっと、ほんの一瞬だと感覚はあったが、気が遠くなるほどの長い時間に感じてしまった。
超高温の世界、広がる世界、凍てつく世界、闇と光が交差する世界。
これは一体なに? 視覚的な情報が次から次へと私の頭に飛び込んで来た。
これは! 宇宙、星 銀河? 光の渦に!? ブラックホール!?
私が感じたものは、漆黒の闇から溢れだした光の塊りとそれに呼応するかの様に、闇を照らす星々の輝きだった!
無限に感じるエネルギーを放った輝きが空間に素粒子を生じて、その融合と共に熱をもち空間として爆発的に広がっていった。その拡大を抑えるものはなく、それは加速度的になっていく。
生じた空間は宇宙となり長い時間の中で様々な星間物質を生み出していた。星間物質は、様々な形態の星らを創造し数を増やすなかで引力から星団を織りなしていき、星団は銀河となり宇宙に広がってゆく。
もうすでに視覚情報なのか、直接に脳へ叩き込まれるのか分らない! ガスを吹き出し燃え盛る星や瓦礫のような星達とは別に、宇宙空間で安定した状態を保つ星の様子も飛び込んできた!
次々と星の表面での様子が連続的に流れ込み、地表での生物進化やそれらが滅ぶ瞬間に立ち会っているかのようで、命を得た生き物たちの、生と死への号泣が聞こえてくるようだった!
判らない、解らない、分からない! もうやめて!
見ているのか聞いているのか触っているのかさえ不明な情報が次々と私の脳へ流れ続け、その情報の多さに頭がパンクしそうで、VR空間なのに私は頭痛を覚えた!
「つう、痛い~! 頭が割れる~!」
恐ろしくなってクリスタルから手を放そうとしたが、まったく腕が動かせない! 誰かに体を乗っ取られたような気配がする! そんな馬鹿な事がある!?
「結月、さあ手に掴んで」遠くからイブの声が木霊したような気がする。
痛いのと、怖いのから逃れるように、藁を掴むように開いた手を握る。
――熱い。これは何!?
「ふうん、君はやっぱり〝SES〟を手にしたね」
そんな冷静なイブの声が、私にはとても印象的に聞こえていた。
クリスタルから流れ込む情報と手にした星剣。イブからバトルの相手が示される。
次回:「敵の姿と無差別殺人」




