ストロベリーブロンド
帰り道に逢ったブロンド幼女。イブは結月に話しかけた。
紀ちゃんと別れて私は家路に着いていた。が、突如目の前に現れた子供がいる。
ちょうど、橋を渡りきるくらいの所だったはず。
黒のサイバーパンクファッションに身を包み、身長は私よりはるかに低く、フードの下にはダブルのキュレットを掛けていて、この子は一体なんなのよと眺めていた。
その子は、ポケットの手を納めて私の側に来ると私を見上げてこう言った。
「ねえ君、僕について来て」
「はあ? 何を言ってるの」
新手のキャッチかと、この時は不信に思った。
「流行りのゲームしない? 今、モニター募集中」
「ちょっとちょっと、いいかんげにしなさい。君は誰?」
そう問うと、この子はフードを下ろして、ジッと私の顔を見つめる。
フードを下ろした顔を見て、つい思ってしまった。
――金髪幼女! キター!
この子の髪は、ストロベリーブロンドのハイトーンロング。グラスの奥の目元は引き込まれそうな見開いたライトブルーの碧い瞳。小さな口元の幼い顔から神秘的なものさえ感じる。私の方がすっかり見とれてしまい、つい、じーっと覗き込んでしまった。
「君、キュレットしてない。……これだから旧式は」と彼女が話すと、胸のポケットからなにやら小さな紙を取り出した。
「はい、日本人は名刺好き。これ私の紹介」
言われるがままに受け取った名刺にはこう書いてある。
VRGAMEクリエイター 真宮 イブ
Office CODE6174
address:〇〇〇〇〇〇〇〇
「あなた、日本人なの?それに『コード6174』って超有名なゲームカンパニーじゃない」
「僕は、クォーター。6174で監修をしてる」
「えっ、僕は歳いくつなの?」
「女に聞く事じゃない、けど、君と変わらないはず」
――こんなに小さいのに私と同じぐらい? どう見ても12~ 3歳じゃないの。それに、監修者? 俗にいう天才? 見た目は天使だけど。
あっけにとられていると、この僕は着ている黒服を広げ内ポケットから取り出した。
「モニターの景品はこれ。新型」
手にしているのは、見かけた事の無いダブルキュレットだった。おじいちゃんがしてるのとも違うし、広告で見たこともないタイプ。
「じゃあ、いいね」と勝手に話を進めると自分のキュレットに手をあて呟やく。
「Come near」
「ちょっと待って、私やるとはまだ言ってないよ~」
「今、車呼んだだけ」
「えっ?」
「もう来る」と僕は指さした。
あっけにとられて指さす方向を見ると、渡った橋の後方から一台の車がやって来た。大きいクルーズワゴンかな。車色のマッドブラックがとても印象的だった。
そして運転席は、やはり無人。
AI/CAR、人口減少で今の日本は15歳から車の所有が出来る。空を簡易に飛ぶなどの移動手段も色々あるけど、車はやはり生活では現実的なため昔に比べてドライブパスの取得が容易となっているんだよね。これも、人口知能がドライブを代行する賜物か。
キュイイイイイ――――ッ。シュウ――ン。
AI/CARは、リニアブレーキと流体サスペンションの音を立て停車した。
「でか~。バスみたいに大きいね何人乗り?」
車のサイドには、CODE6174の文字がある。
「移動オフィスを兼ねてる。そんなには乗れない」
「は~、呆れた。こんな高そうな車。僕じゃないや真宮さんは本物みたいね」
「どうする? やる? モニター」
「ええっと、どうしよう。知らない人について行ったらだめなんだよ」
「車に全部積んである。時間はかからないし……」
と彼女が言い、手でアクションを起こすとクルーズワゴンのサイドドアが開いた。モーションをキュレットが視覚情報として取らえて、AIに送ったのだろう。
「はいこれもサービス」
車の中から取り出したものは、見るからに美味しそうな可愛いクロカンブッシュの小山達。最近、洋物系にはまってる私には、絶対の登らねばならない小山がそこにあった! 今お腹空いてるし、美味しそうだし、これなかなかないよね~。うんうん。
「マジでこれもいいの?」下品にもよだれが出そう。
「もちろん。知り合えた記念に丁度良い。お祝いや洗礼にだす」
ちょっと考え込んだが、相手はか細い幼女とお土産沢山。
「よし! この話しのった。すぐ済むんだよね?」
「ここじゃあれだから、少しだけ移動はする」
……いやあ、金髪幼女にクロカンブッシュ、それに新型キュレットと良いことだらけ。今日の私はツイテル。と思った。
「じゃあ、乗って」と言われ車内に入ると、何これ本当に車の中なのと驚いてしまった。
車内の前方はドライバ―席があるけど、それ以外は大きな機材が所狭しと並び、小さなデスク以外はそれらで占められてる。コンピューティングルームって感じ。3次元ディスプレイまである。
「ねえ、これ凄いね」彼女に訊ねた。
「最新のミニマム重量子コンピュータ搭載」
「へえ~、私はそれ良く知らないけどね。弱いのよ機械」
私は、車内の中央部をじろじろと見渡した。
「じゃあ、こっち来て、お茶して始めよう」
誘われるままに、後部へ移動すると豪華な作りのカウンターキッチンまであるラウンジ。しかも横になれるはずの小さなベッドまで見える。
「すごいね、ここで生活できるんだ」
「|Time is money だよ」
彼女が言うだけの事はあると思った。ゲームで稼いでるんだなと。
それにしても私と同じ年ぐらいで実業家か。
頭がいいとこんな事も出来るんだなと感心してしまった。
シャーッ フィ――――ン
ソファーに座ると、どうやら車がオートスタートしたらしい。床の下からモーターの音が少し聞こえたが、揺れは少ない。
「はいお茶」と私に手渡してくれた。とても香りのよいアップルティー。一口飲む。やっぱりおいしい。幸せな気分になりそう。
「すごい美味しい。クリエイターはやっぱり違うのね。これだけで幸せね」
ニコニコ笑って彼女に声をかけると。
「それは特製。《《すぐ、幸せになれる》》」と少し微笑んだように見えた。
クロカンブッシュも頂き、味を堪能していると彼女が説明を始める。
「定番のVRMMOのβ版。ありふれてるけど、現実と変わらない世界」
……ふんふん。何度か紀ちゃん家で、やったことはあるし大丈夫かな。
「設定は、現代。そこでモンスターらと戦う」
……お~バトルものね。
「感覚その他も、現実と一緒」
……え~。それは凄い。
「じゃあ、後は僕と一緒に中に入ってから説明」
そう、彼女が言うと先ほどの新型キュレットを持ってきた。
「じゃあ、これ横になってかけて」
手に取り言われるままにベッドへ移動し横になりキュレットを顔にかける。
「よいしょっと。これでいい?」と告げるとイブは私の側へやって来て一言。
「Take Off」
と彼女が私に触れて話すと目の前が一瞬にして明るくなり、そこから、私は一気にゲームの世界に運び込まれてしまったのだった。
「おおおっ!」
イブの話しにのり、CODE6174の車中からダイブした結月は目にした。
次回:「電脳世界」




