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空の瞳

入院の原因を思い出した結月は、昨日の出来事を思い出していた。


 公園でのバトルより、時は二時間ほど遡る。


 私は、神野結月かみのゆづき16才。鶴三高等学校二年生で、部活が終わって急いで家に帰るところ。育ち盛りで高二にしては、まずまず背も高くて美少女とは言わないまでもそこそこのつもり。髪は伸ばしたいけど運動の邪魔だからボブにしてる。さっきまで、部活の剣道部で先輩にしごかれてへとへで、お腹がとっても空いているのである。だから、急いで帰宅中なのだ。

 でも毎日のように竹刀や木刀の素振りで鍛えた体は、とってもしなやかで力持ち。どちらかと言えばネコ科である。にゃおーん。

 今の楽しみは、友達と一緒に街中へファッションチェックに行ったり、スウィーツを食べること。至って普通の女子高生で恋人は募集中。

 

 ……趣味は、コミケに行って、同人誌とBL本を買い込むおタク。

 ふふっ、萌えるぜ。そして萌は、想像をかきたてる紙媒体が一番と私は思っているのだ。


 そんな時、後ろから走って来る人影があった。

「結月~。待ってよ!」

 声をかけてきたのは、のりちゃん。私の家の近所で幼馴染の女の子。幼稚園の頃から、いつも一緒に遊んでた。今も同じ高校の同級生。


 彼女は、本当に足が速いよね。

 陸上部の部活が終わって走って来たのだろう。私は小さい頃から走るのがとっても苦手で、比較的に走り回ることの少ない剣道を選んでいる。

「ふふっ、遅いから放置よ。放置プレイ~」

「またHな本の影響をうけてるわ、結月ったら」

「いいのよ、男×男と女×女の萌えこそが、真実の愛なのだ」


 はいはいと、紀ちゃんは私をあきれ顔で私を見ていたが、ニコニコと嬉しそうに鞄からキュレットを取り出した。

「じゃじゃあん、結月これ良いでしょう」

「あれ、最新型じゃない。ちょっと貸してよ」


 キュレット、今はやりのデバイス。眼鏡のように耳から掛けるタイプ。昔のスマホのように手に取ることなく、音声以外にグラス部分に色んな情報を供給してくれる。音声は、骨伝導で直接聞き取ることが出来た。紀ちゃんのはシングルだけど、両眼を覆うダブルもある。たしか、おじいちゃんが老眼鏡と補聴器の代わりに使っていたっけ。


ちなみに私はレトロなスマホ派だ。


「おお~、良く見えるね。あっニュースも流れてきた」

「そうだよ、()()()が選んでくれるからね、飽きないよ」


P/AI(パイ)』パーソナルAIの略称。使用者の事を理解して、代わりに判断や対応をしてくれる人工知能のことで、自分の良き相棒ってところかな。仕組みはようわからんが……。


「あっ、またこれやってる」


 グラス部分に流れてきた映像は、月面基地からの中継で、H3(ヘリウム3)の採掘ファクトリー拡大を報道していた。確かH3って核融合の燃料だったはずよね。

 今の日本は、30年前のバイオテロと少子高齢化の影響で人口減少の真っただ中。日本の人口は、1億をきり、8千万人ほどだ。

 でも、科学と技術の進歩で、街ではロボット達が働き、ニュースのようにレア資源確保のために、月へ火星へと生活圏を拡げている。来年には、軌道EV(エレベーター)も完成するらしい。


 上を向いて空を眺めたら夕焼けが綺麗でとっても平和を感じる。今は化石燃料を使わないから、空気も澄んだ。


 そんな時代に私は暮らしている。


『チリッ』キュレットから異音がした。


「あっ、なに雑音かなあ」

「やだ、結月壊さないでよね」


「いいなあ。私も欲しくなっちゃうなこれ」

「はははっ」と二人で笑いながら紀ちゃんと別れて家路を急ぐ私がいた。



◆◇◆◇



 カチカチカチ。チチチチチッ。



 ――結月が空を見上げた上空230kmの地点。


 偵察衛星が地上500kmより急速降下し、結月の姿を光学レンズに捉え、高解像度動画をある一室へマイクロ波を用いた秘匿回線にて送信をしていた。結月の歩く姿がホログラムに映し出されている。

 3次元ディスプレイホログラムや重量子PCが立ち並ぶコンピューティングルームで、衛星から電送された優月の歩く姿を見つめながら会話をする者達がいる。


「捉えたか」

「はい、9Gからのデータ通りです」

「確保しろ。奴らに先を越されるなよ」


 その一室のドアが開き、入って来た一人の小柄な人物が皆に声をかけた。

「新人? 暇だし、僕が行く」


「……イブ。分かった頼んだぞ」


 こうして、イブは会話を済ますと部屋を出て行ったが、自分のキュレットを使用して《Mother》との交信を始めていた。


「場所、現在位置は? ……了解。これからジャンプする……リンクOK」



次回;「ストロベリーブロンド」結月をバトルに巻き込んだイブとの出会い。

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